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大英雄のスキルに目覚めた俺を追放!? 〜無能なのは俺じゃなくて、このスキルなんだが!!〜  作者: 夕暮れタコス
第一章 廃墟都市

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第9話 悪魔は訪れる

「はぁ、はぁ……すまねぇ、俺のせいでとんでもない化け物を目覚めさせたかもしれない」


 俺達は廃墟都市の外れまで一息で駆け抜けた。森がもう目の前だ。

 途中すれ違う魔獣達もいた。しかし俺達の事など眼中になく、一目散にあの場所へと向かって行った。


 あいつらを見てると、魔力の持つ中毒性が恐ろしくなる。


 そして魔力がもたらす力の恩恵の大きさは俺の予想以上のものだった。

 テス自身の強さもそうだが、テスが呟いていた”バンダースナッチ”という名を持つあの魔獣。姿を見ただけでそのヤバさは骨の髄にまで染み込んできた。


 肩で息をしながら、テスは怯えた表情で後ろを気にしている。

「はぁ……はぁ……、私も……まさかあんな化け物がいるなんて、考えもしませんでした」


「あれを知っているのか?」


 テスは額の汗を拭いながら、頷いた。


「はい。と言っても伝承みたいな話でしたが、外見はまさに当てはまっています……」


 テスは相当つらそうだ。激しい戦闘の後だから仕方ないか。

 テスを促して近くの石に座らせてから、聞いた。


「アイツにまつわる話って、どんな話なんだ?」


 テスは落ち着かない様子で呼吸を整え、胸に手を当てて話し始めた。


「前大戦中、ある領地に突如として現れた魔獣の話です。

 蛇のような首に獅子の顔と牙を持ち、長い舌で獲物を舐めずり、噛み千切る。剛脚で追い詰め、剛腕で全てを引き裂き、強靭な尻尾は近づく者を両断する悪魔のような魔獣……そんな話です」


 背筋に薄ら寒さを覚えた。テスの言う通り、今話に出た容姿はまさにあの悪魔そのまんまだ。

 テスが立ち上がり、急かすように俺の手を取って言った。


「……行きましょう。早く森に――」


 テスの言葉を咆哮が消し去った。直後、ウィンドウが赤く明滅した。


「テス!来る!」


 短く伝え、テスを押し飛ばす。そして月明かりが遮られ、影が差す。


 ズドンッと重苦しい音と共に、テスが座っていた岩を丸太のような腕が粉砕していた。

 辺りを血なまぐささが漂い、思わず顔をしかめる。


 【ρΝψυκφ!!】


「あっ」


 ウィンドウが視界左端で激しく明滅している。相手の存在感に気を取られそれに気づくのが遅れた。既にしなる尻尾が風を切り迫っている。

 ――避けられない!!


 咄嗟に剣の腹と左腕を重ねて、防御体勢を取る。

 凄まじい衝撃。足が地面を離れ、視界も五感もグチャグチャになりながら地面を転がった。そして遅れて激痛が全身を襲う。


「ガァッ……腕が……」

 左腕があらぬ方向を向いていた。経験したことのない痛みに、地面にうずくまって呻いていると、テスの悲鳴が響いた。


「い、いやっぁ!!」


 冷や汗が地面に点々と作る染みから視線を上げる。

 テスの体を右手で一掴みし、獅子の顔から伸びる蛇のような舌を彼女の首筋にゆっくりと巻き付けていく。奴の表情には格別な獲物をいたぶって遊ぶ、下劣な醜悪さが滲み出ていた


 それを見た瞬間に怒りで頭が真っ白になった。痛みの事など頭から消え去り、なかなか言うことを聞かない体を歯を食いしばりながら動かす。


 俺の浅はかな考えが最悪の事態を招いた。呻いてなんていられない!


「今助ける!!」


 苦しそうに藻掻くテスの瞳が、俺へと向けられた。

 ――絶対に助ける!!


 折れて落ちていた刃を拾ってバンダースナッチへと突進する。

 しかし刃は爬虫類のような硬い皮膚に弾かれ、俺の掌を傷つけただけだった。


 打つ手はないのか。


 ――抗えない絶望感が身を貫く。


 【尻尾ψ来σ!!!】


 ウィンドウが再び激しく明滅。一度激しい痛みを体験した俺の体は反射的に回避行動を取ってしゃがみ込んでいた。


 尻尾が頭上で風を切る。

 今ウィンドウが読めた!?いや今はそれどころじゃない!

 再びウィンドウが明滅しながら視界を横切る。


 ウィンドウの方向に合わせて身を投げる。

 剛脚による後蹴りが空を切った。


 今度は頭上で明滅。俺は必死で立ち上がりながら半身で一歩下がる。

 頭上から振り下ろされる剛腕による裏拳が地面を抉った。


 その隙をついて、俺はもう一度刃を強く握りテスを締めていた舌を切断。

 バンダースナッチが憎い悲鳴を上げる。しかしテスは離さない。俺は悲鳴を上げるために開かれた口内へ刃を突き刺した。バンダースナッチが反射的に口を押さえたために、テスが解放される。

 倒れるテスを右腕で抱えながら、地面に倒れ込んだ。


「イッテェ……おい、テス、テス!!」


 ぐったりと力無く腕に抱かれる彼女を見て、心臓が止まる思いだった。だけど微かに上下し始める胸を見て一安心する。

 テスを横たわらせ、彼女の首にくっきりと残った痣を指でなぞった。


 ウィンドウの警告。文字はもう読めない。

 だけどウィンドウの動きに合わせて、がむしゃらに振るわれる腕を掻い潜る。


「……さっきからクセェんだよ」

 バンダースナッチの口からは悪臭を放つ体液が垂れている。


「……体臭といい、その血といい、テスを虐める腐った性根といい――」


 俺はバンダースナッチと正面から対峙して怒りをぶち撒ける。


「不愉快だ!さっさと俺等の前から消え去れ!俺達はこの牢獄から出ていくんだ!!」


 【πµ`¿π-? y/n】


「ああ、やっと来たか……。待ってたぜ」


 大英雄のスキル『聖櫃の因憶(アーク・メモリア)』。俺がこんなところに来ることになった原因だ。だが今はこいつに頼るしかない。それに解読できなくても通じ合えることもわかったし、何より……テスに出会えた。


「クソスキルとか言って悪かったな。お前の事を完全に理解できるのは、まだ先かもしれねぇ。それでも、今は頼らせてくれ」


 バンダースナッチは威嚇の雄叫びを上げた。しかしそれに怯むことなく、俺は意識をウィンドウ上の一文字に向けた。


 正面に警告。身を包む力を実感しながら、右ストレートを躱す。

 警告。左手での握撃を躱す。

 警告。回し蹴りと尻尾による2連撃。


 それを高く跳んで躱す。――ここだ。

 極限の集中状態。引き延ばされた体感時間によって、全ての動きがゆっくりに感じられる。


 空中にいる俺とバンダースナッチは視線を衝突させながら、それぞれ攻撃への予備動作を始めていた。


 ――この一撃で終わらせる!

 想いに応えるように、ウィンドウが形を変えてバンダースナッチの眉間に十字形になって現れた。


 バンダースナッチは首をすくめて溜めた力を、バネのように解き放った。迫る牙に怯むことなく、俺は右拳を十字の中心、奴の眉間へと叩き込んだ。

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