表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄のスキルに目覚めた俺を追放!? 〜無能なのは俺じゃなくて、このスキルなんだが!!〜  作者: 夕暮れタコス
第二章 追放者達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/34

第25話 囁かれる声

 俺達は暗闇の中、街道を走った。背後に火の手が上がる街が遠ざかっていく。罪悪感を置き去りにして、焦燥を胸にひたすら走る。


「リングスさん! 追っ手が5人! 馬で来ます!」


「チッ! ……いや、好都合か」


 俺とテスは止まり、追っ手を迎え討つために体を翻す。相対した騎兵達は剣を引き抜き、叫んだ。


「この魔族と叛逆者め!!」「覚悟しろ!!」「隊長の敵!!」


 迫る蹄の音と罵声。しかしテスはどこ吹く風で手を前にかざす。


「【アイシクル・ランス】!」

 テスの氷槍が横一列の陣形の中央にいた騎士隊員を穿った。その死体が地面に落ちるのと同時に、クナイを持ったテスが空いた馬を飛び越えながら中央突破。その道すがら、風のように二人の首を掻き斬った。


「魔族とバレているのなら、もう手加減はしません」


 圧倒的な力を前に騎兵達は馬を止め、どよめく。

 俺はその隙をついて一人、後ろから突き刺した。


 数拍遅れて騎士の悲鳴が上がる。


 瞬く間に残り一人となった隊員は、恐怖に震えて歯を鳴らしている。可哀想とも思うが、情報を握られている以上、生かしておくわけにはいかない。

 近づく俺に怯えた目を向けた瞬間、首を一突きにした。



 馬を手にした俺達は速度を上げてマァルのいる森へと駆ける。朝日が昇り始め空が白みだす。焦りで手綱に力が籠る。


 そんな俺を気遣ってか、テスが声を張り上げる。


「リングスさん、もう一度状況の確認を!」


「わかった! 騎士隊長のピラーに霊鳥を目撃された! あの言い方からして、既に部下に追跡させているはずだ!」


「つまり、まだマァルさんの居処が見つかったわけではない、という事ですよね!」


「今はまだ、な! ただ、どうやら生き残りの追放者は俺とマァルだけらしい!」


 考えてみれば、ベベルの爺は俺が廃墟都市にいることを知っていたはずだ。しかもベベルからの特命だとピラーは言っていた。

 そんな時に傷を負って現れたバンダースナッチが廃墟都市へと帰っていった。

 追放者達が関係していると憶測されるのも自然な流れだ。


「バンダースナッチ捕獲はブラフ、撒き餌に使われた可能性が高い!」


 向かい風に負けないようにお互い声を張り上げる。

 正直言ってあの激闘の後だ。身体は軋み、そこら中痛む。それにあの力(・・・)の代償なのか、精神的な疲労を感じる。いや、疲労というよりは虚無感……か? 


 いったい俺は何を犠牲にしてあの力を手に入れたのか。それを思うと急速に不安が沸き上がる。


 その不安を後押しするように、黄色いウィンドウが立ち上がる。

 【急≮!マァル§危なη!


 突然のことで手綱を握る手が力み、馬がよろけた。それをテスが自らの馬を制して押し戻してくれた。


「大丈夫ですか!? 休憩を取ってもいいんですよ?」


「今ウィンドウがマァルが危ないって……」


「……急ぎましょう!」


 テスから放たれる怒りによる魔力の波動。そこからは、もう魔族であることを隠さないという意思を感じた。

 馬を走らせながらテスの波動を感じていると、マァルが教えてくれたことを思い出す。この波動は言わば物を燃やした時に出る煙なのだと。それを最小に留めるように魔力を消費することで、限りなくバレにくい魔力行使が可能であると。


 ピラーとの戦闘時のテスは完璧にそれをこなしていた。

 俺もテスも強くなっている。だけどまだ、教えてもらいたいことは多くあるんだ。


 途中、霊鳥の死体を見つけた。矢が刺さり、多量に出血したようだ。その出血状態の中で、這ってこの街道まで出てきた痕跡がある。

 きっと俺達に見つけてもらうためだろう。


「……ありがとう」


 馬を止めることはできない。だけど霊鳥へと確かな敬意を送った。


 そして遂に庭への入り口へと辿り着いた。馬を手放し、森の中をひた走る。少しして、焦げ臭さが鼻についた。


 ――まさか、そんな。


「ああっ、クソッ!」

 密集する枝葉が邪魔だ!

 悪態をつきながら草花を掻き分けて、ついに森を抜けた。


 目に入った庭は、色を赤く染めていた。

 炎と血だ。


 大樹の葉っぱに火がついて燃えている。そして芝生にはエーテリアの兵士と騎士隊の死体が転がっている。


 俺達が安らぎを得ていた空間が冒されている。そのことに言いようのない怒りと悲しみが沸き立つ。

 歯を力一杯食いしばる俺の裾を、テスが引っ張って指差した。


 庭の一角、大樹の陰となる場所。火の粉が降り注ぐ中、騎士隊とマァルが対峙していた。


 俺達に気づいた様子で、マァルはこっちを見て微笑む。

 そして杖を小さく振った。


 空間が歪み、戻る。

 しかし俺達を移動させたわけではなかった。

 何が起こったのかと目を丸くする俺達の目の前を、一枚の紙がヒラヒラと落ちていく。


 それをキャッチして広げると、マァルの筆跡の手紙だった。


『どうやら私は騎士隊の手の平で踊らされてしまったみたいね。まだ教えたい事は多くあった。けれども、貴方達は私にとっての希望。こんな所で希望を散らせるわけにはいかない。だから、どうか生き延びて』


 サッと目を通し、テスに渡す。テスは口に手を当てながらその手紙を握りしめた。


「……逃げろって事か?」


 俺の呟きに対して、まるでマァルが耳元で答えたように声が届いた。


「違うわ。ここを襲撃された時点で、私にとっては負けなの。……ここから出ることができないから」


 唇を噛み締めていたテスが悲痛な声を出す。

「まだなんとかなるはずです! 私達も加勢しますから、殲滅してここを立て直しましょう!」


「霊樹である大樹に傷がついてしまった。既にこの霊地空間は崩れ始めているわ」


 その言葉を体現するかのように、遠くから送られてくる声にノイズが混じり始める。


「……あとは……お願……い」


 プツリと声が途絶えた。そしてマァルとの間に大きな枝が焼け落ちた。もう彼女の顔を見ることも叶わない。


「……行こう、テス」

「ですが!」


「廃墟都市でも生き延びた事で先が繋がった。そして成すべき事が見えた。そのための地力も鍛えられた。……だから今は、次に繋げるために、生き延びる事を優先しよう」


 屁理屈を並べたが、一番はやっぱり、マァルの思いを無駄にしたくなかったからだ。

 テスは俯いて拳を握りしめて吐き捨てる。

「でも、私はまたっ! ……もう犠牲を払ってまでも生きたくない」


 また……。恐らく処刑から生き延びた時のことを言っているのだろう。

 固く握られた拳を解いてあげて、手を繋ぐ。


「だけど託された思いがあるんだろ? 必ず、マァルの願いを達成しよう」


 そしてグッと引き寄せて強く抱き締める。


「マァルの希望となれるように、生き延びよう」


「……はい」


 俺達は火の手の上がるマァルの庭を後にした。マァルが生涯をかけて研鑽した技術。それを魔族の虐殺の為に使わせない、そう心に誓いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ