第24話 加護がなくたって
騎士隊の隊長から繰り出される激しい剣戟と砲撃。しかし宿屋での攻防を経たことで、脳と身体は確実に対応を早めていた。
ウィンドウが無かったらとっくにやられていた。だけど、マァルの訓練も無かったら避けきれなくてやられていた。ウィンドウの判断を、自分の肉体を、そして自分の考えを信じた結果、格上のコイツと渡り合っている。自分の力で掴み取り、確実に強くなっている実感を得られた。
ウィンドウの表示がピラーの頭上から降りてくる。
――上段からの振り下ろし。
ピラーの剣に速度が乗りきる前に一歩踏み込み、小手を狙う。突然の反撃にピラーは大きく後ろに跳ねた。
「今だ、テス!」
テスが潜んでいた民家の二階窓から飛び出しざまにクナイを投擲。だがピラーは空中で軽く光剣を振り、クナイを溶かした。
「さすがに一筋縄じゃいかねぇか……」
――それより、なんでテスは手筈通りの魔法じゃなくてクナイの投擲にした?
浮かんだ疑問に答えるように、隣に並んだテスが耳元で囁いた。
「●●●●」
「……え?」
理解できない言葉。というよりは知らない言語だ。
テスを見るが、視線は既にピラーへと戻っている。
言語理解スキル『バベル』を持つテスが知らない言語を使った。それってつまり……。
「テスの言いたい事、理解したぜ」
小さく呟き、ピラーへと斬りかかる。俺の拙い剣術じゃ歴戦の猛者であるピラーには届かない。だけど届かない分をテスが埋めてくれる。
剣戟をいなされて作られた俺の隙を、テスのクナイが援護する。息の合ったコンビネーションで少しずつ刃がピラーへと迫る。
そして遂に――、
「ッ!」
俺の刃がピラーの頬を斬り、テスのクナイが奴の脇腹に刺さった。
やれる! 圧倒的な強者のオーラを放つこの敵に届く!!
俺の口の端に上がった笑みを見て、ピラーが吐き捨てる。
「調子に乗るな。まだ始まったばかりだ」
ピラーは腰に下げた実剣を抜き、斬り掛かってきた。
大振りで振り上げた剣。がら空きの胴に剣が吸い込まれそうになるが、違和感が襲う。同時にウィンドウの警告も現れた。視界を左に滑るウィンドウに従い、身体を放り投げた。
直後、上空から光が振り注ぐ。
宿屋の火の手で明るく染まる夜空を、さらに明るく、まるで真昼のように照らしながら俺の居た石畳を焼き穿つ。
その光量に目が眩みそうになりながらも、地面を転がりながら距離を離す。しかしピラーは追撃の手を止め、ボソリと呟く。
「……奇妙だ」
剣をしまい、腕を組み、顎に手を当てて考え始めた。
「リングス・フォーチュン。貴様は烙印を押された時点でスキル不能となっているはず。加えてこの結界もまた天界からの加護を遮断する結界だ」
「つまりスキル不能空間、……やっぱそうか」
首の後ろの痛み、それとテスの言語。結界が持つスキル不能効果は予想通りだ。ピラーだけスキルが使える様子だが。
「何か種があるな?」
「だったら何だ? 逃げ帰るか?」
「フンッ」とピラーは鼻で笑い、両手を頭上に掲げた。すると両手の内側に光が渦巻き始めた。どんどんと光量を増していく光の玉。すぐに眩しさで直視できなくなる。
「何かの正体などどうでも良い。要は回避に特化した能力を持っているとするならば、回避不可能な攻撃をすればいいだけだ」
ピラーの意図を掴んだ時には遅かった。光球の放つ熱量に近づけなくなっていた。
「拷問に掛けられないのは残念だが、この鳥籠の中、どこまで耐えられる」
ジリジリと熱気に追いやられる中、俺の横を疾風が駆けた。魔力の波動を放ちながら。
そしてその疾風、テスが光の中でピラーの両手首を切断した。光球は弾けるように消え去り、絶叫しながら腕を抱えたピラーが言葉を絞り出した。
「まさか、貴様、魔族なのか!!」
テスの焼け焦げたローブがはだけ、角が露出する。ピラーの最大の読み違い、それはテスの氷魔法をスキルだと思い込んだことだ。
ここぞと言う時の為に取っておいた魔力の全面使用。それを守りで使うことになってしまったが、結果としては良いのかもしれない。
ピラーは傷口を自らのスキルで焼き塞ぎ、その傷口をテスへと向けた。
「穢らわしい魔族が何故我らの領地に! 魔族も加護のない者も、消え去れ!!」
凄まじい熱量が両腕から放たれた。それをテスは全力の氷壁で受け止める。両者一歩も譲らないせめぎ合い。背後から近づこうとするが、ウィンドウの警告。ピラーの背中から天使のような光の翅が生えた。そしてその羽根の一つ一つから光線が放たれた。掻い潜るのは不可能。回避に専念するしかない。
だけど――。
――ここは俺が決めなきゃカッコつかねぇよな、ウィンドウ。
【πµ`¿π-? y/n】
【y】を睨み、力を感じ取る。
スローに見える景色。これなら光線の軌跡も読める。光線を避けてピラーへと接近。しかしピラーもこちらへ反応を示す。腕の先から直接光剣を生やし、斬りかかってくる。激しい攻撃、いつまで保つか分からないこの力。焦りが滲む。
そんな思考の隙間を突くように、上空から光柱が振り注いだ。肌を灼かれ、全身がひりつく。
――もっとだ、もっと強い力に変換しろ!
無意識の願い。何を手放したのかも確認できない。だけど、それが実現した。光の熱をものともしない身体へと強化された俺は、光柱の中から手を出してピラーの腕を掴む。そして握り潰した。奴の口から悲鳴が飛び出すよりも速く、抜刀。
「加護がなくたって、たとえ魔族だって、生きたいと願う一人の人間だ」
聖教団騎士隊長の首を一閃した。
※※※
「リングスさん! 大丈夫ですか!?」
気づけばテスの膝枕で寝ていた。
何か、多くのものが抜け落ちた気がする。
虚ろな目で周囲を見渡すと、近くには目を見開いたまま胴体から離れたピラーの首があった。
――失った物もある。だけど手に入れた物も大きい。
俺は露呈してしまっているテスの角へと手を伸ばしながら言った。
「やったんだな、俺達」
「はい……強敵を倒しました」
だけど休んではいられない。霊鳥を追われたらマァルが危ない。
結界が消滅したことで、火事の煙が流れ込んできた。その煙に紛れながら、俺達は街の外へと向かった。




