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大英雄のスキルに目覚めた俺を追放!? 〜無能なのは俺じゃなくて、このスキルなんだが!!〜  作者: 夕暮れタコス
第二章 追放者達

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第23話 歪んだ理念

「スキルも使えないのに、よく避ける」

 ピラーは二刀の光剣を涼しい顔で舞わせる。


 一太刀毎に命を削られるような鋭い斬撃。そして切先が向けられた直後に、剣が光線となって襲い来る。

 目まぐるしく動くウィンドウに助けられ、避けられてはいるものの、確実に追い詰められているのを感じる。


 騒ぎに気づいて様子見に来た商人達を巻き添えにするのも厭わずに、ピラーは執拗に俺を追い詰めてくる。


「お前ら、下がってろ! ……クソッ、また!」


 反撃の余地は無い。だけど口なら動かせる。


「ピラー! 騎士隊長ともあろう者が、こんなに、巻き添えにして!」


 ひと言、ひと言、回避への集中を切らさないように絞り出した。しかしピラーは涼しい顔で、糸目の奥に明確な殺意を滾らせて言う。


「天使様が望まれているのはお前の確実な死だ。戦わぬ民草が多少死のうとも、意に介さん」


 ピラーは言葉を切り、腕をクロスさせて溜めを作った。予感を感じ、俺は幾度もの光線で焼け焦げた木の壁へと走る。


「犠牲が嫌ならば、さっさと死ねばいい」


 放たれた光の斬撃が飛来。壁をぶち破って路地へ転がり出る。体勢を上げそうになった所で赤いウィンドウが地面へと落ちた。それに倣って伏せると、壁を安々と貫通した飛ぶ斬撃が頭上を通り過ぎた。隣家のレンガ壁にバツ印の焼痕がついた。


「あっぶね――」


 斬撃を目で追った隙。ウィンドウの警告への一瞬の遅れ。

 向けられた切先。

 迫る光線。感じる熱量。


「【アイシクル・ウォール】!」


 熱量が遮断され、鼻先に冷気が触る。一瞬で氷の障壁が立ち上っていた。


「大丈夫ですか、リングスさん!」

 二階からテスが飛び降りてきた。剣を手渡されたが、礼を言うのも忘れ、状況を伝える。


「霊鳥に気づかれた! マァルが危ない! 奴は、騎士隊長だ!」


 テスの表情が引き締まる。


「逃げますか、それとも――」


 ウィンドウがテスの地点に警告を出した。俺はテスに飛び掛かり、地面に伏せる。直後、氷壁が赤く溶け出し、今まで以上の熱量を伴った光線が貫通してきた。その光線は隣家の壁をも溶解させ、さらに直進した。


 一方で、木造の宿屋には火がつき、勢いよく炎が舞い上がった。焦げ臭さが一瞬にして充満する。


 その煙の中を、ピラーはゆっくりと歩いてくる。


「娘、お前は罪人ではないようだが、それほどの氷系スキル(・・・・・)を罪人を護るために使うなど、不愉快極まりない」


 テスはピラーを睨みつけて返す。


「なら、街の人を護るために使ったという事にして下さい」


 横目で、逃げだす隣家の家族を見ながら笑みを浮かべた。


「貴方より崇高だとは思いませんか?」


 ピラーはその言葉を一笑に付し、光剣を手に疾走する。


「【アイシクル・ウォール】、【アイシクル・ドーン】!」


 連続での魔法使用。氷壁をピラーとの間に張り、氷塊で隣家の壁を破壊。二人で隣家へと逃げ込んだ。


 そのまま裏手の窓から出ようとするテスの手を引き留めた。


「リングスさん!? 逃げないのですか?」


「このまま逃げても、いずれ追いつかれる」


「ですが……っ!」


 冷徹な靴音が、奴が家の中に侵入したことを知らせた。

 恐怖は無い。俺の内に渦巻いているのは巻き込まれた人達への罪悪感、そしてそれを意に介さない奴への怒り。

 だけど俺の頭は冷静さを保っている。テスが一緒に戦ってくれる。その心強さがそうさせていた。


「手短に伝える。奴はいくつか勘違いをしている。そこを突けば或いは――」


 迫る靴音を前に、考えを伝えた。



 ※※※


「ほんっとうに見境ないみたいだな、ピラー」


 俺は裏手の窓から出た通りでピラーが追いつくのを待っていた。奴は壁を斬り刻み、溶解させながら現れた。

 周りでは宿屋の火事騒ぎで既に避難が始まっている。これ以上犠牲者が出ないことを願いながら、腹を括る。


「そんなに天使に媚び売りたいのか?」


「ふっ、理念の浅いお前には理解できまい」


「そんな事ないさ。俺にも立派な理念ができた。その為なら……天使だろうとデーモンだろうとブチのめす」


 俺とピラーの間に流れる不穏な気配に、逃げ惑う人々も進路を変えて避けていく。

 ――そうだ、それでいい。


 俺は剣を構えた。


「もちろん、テメェもブチのめす」


「正直……」


 ピラーは逆に構えを解き、立ち尽くす。


「ベベル様から追放者狩りの特命を与えられた時は理解できなかった。死刑になるでもない罪人達を今さら狩って何になる、と」


 ピラーの頭上に光輪が現れる。そして足元には金色の魔法陣が展開されていく。瞬く間に五メートル程の円形に広がって光を放ち始めた。


「だが今は理解できる。所詮は罪人、貴様のような歪みとなって、秩序をさらに歪ませる要因となる。あの小娘がまさにいい例だ」


 魔法陣が眩い光を放つ中、ピラーは片目を見開き、ドス黒い殺意を滲ませた。


「我、ピラー・リガヴールは権能を行使する。【堕天の鳥籠】」


 奴が静かに唱えた瞬間、首の後ろに灼ける痛みが走る。そして魔法陣からドーム状の結界が形成された。家々を貫通し、巻き込む透明な結界。見えないけど確かにそこに壁があると感じる。

 幾人か、避難中の人が結界内に囚われている。見えない壁に戸惑い、縋り付くように叩いている。


「逃げておくべきだったな。そして賢者の元に逃げ帰っていれば、苦痛を味わわなくて済んだ」


「へっ、捕まえて拷問しようってか?」


 ピラーは腰から光剣を手に、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「ああ、じっくりといたぶってやる。あの小娘もだ。互いに向き合わせ、パートナーが苦痛に苦しむ姿を目に焼き付かせる」


 結界内を逃げ惑う市民がピラーの横を通る。その人を一瞬にして斬り伏せた。一瞥もしないで。それどころか、ピラーはテスが潜んでいる窓辺睨みつけた。


「たとえ情報を吐いたとしてもその拷問は止まることはない。天界の神々の見世物として、命尽きるまで、いや、魂が朽ちるまで肉体を再生させて苦しむのだ」


 嗜虐に満ちたピラーの表情に反吐が出そうになる。沸き上がる怒りを堪えて、冷静に言葉を返す。


「趣味わりぃな、歪んでるのはどっちだよ。逃げも隠れもしないから、とっとと殺り合おうぜ。これ以上、無駄な犠牲は出したくない」

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