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大英雄のスキルに目覚めた俺を追放!? 〜無能なのは俺じゃなくて、このスキルなんだが!!〜  作者: 夕暮れタコス
第二章 追放者達

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第18話 自らの力で掴み取る

 メスウルフの猛攻は執念を感じさせた。疲れを知らないかのように、連撃を叩き込んでくる。それを俺はなんとか致命傷にならないように躱している。

 ――だが、それも限界が来た。

 爪を避けた俺の腹部にウルフの頭部がめり込む。そのまま首の力で弾き飛ばされ、芝生を転がる。


「ガハッ……!」


「大丈夫ですか!? 少しの間ですが私が二頭を引きつけます。その間に立て直してください!」


 オスウルフを相手していたテスが叫び、クナイを二頭に投擲して注意をひく。テスが必死に二頭の猛攻を捌いているのを、俺は口の中に広がる土の苦味を噛み締めながら、眺めていた。


 立て直す? どうやって?

 俺は攻撃を避けるので精一杯。反撃の隙なんて無かった。

 たまたま現れてたウィンドウを自分の力のように錯覚していた。……ただ調子に乗っていただけなんじゃないか? 


 バサッとローブが風に舞う音が、意識を外側へと戻す。

 見るとテスがボロボロになったローブをメスの個体へと投げつけていた。テスは既に傷だらけだ。


 救いたい。助けたい。思いはあるのに力が足りない。そもそも素の状態で俺より動けて力もあるテスがあんな状態じゃ……。


 ――『俺が現魔王を倒す、それとそうだな、現光王も倒す』


 ハッ、俺に何ができる? 大英雄ヴァルシバルのスキルに目覚めて調子に乗って追放されて、また調子に乗ってる。


 ――『俺はカッコいい英雄になりたいんだ』


 ……本当、馬鹿みたいだ。だけど、あの言葉でテスの表情から絶望が遠退いた。あの瞬間、凄く……満たされた。


「きゃ!」


 テスが足をもつれさせて転倒した。そのテスの周りを二頭が唸りながらゆっくりと歩き始めた。魔法を警戒しているのかもしれない。


 そうだ、報酬なんていらない! テス、魔法を使え――喉まで出かかった言葉を飲み込み、マァルの言葉を思い出した。


 ――『自分で勝ち取る事で、自信をつけて大人になっていくのよ』


 テスに希望を与えられた満足感は、がむしゃらだったけども勝ち取った証なんじゃないのか。

 そうだ、俺はまだアレしか勝ち取れていない。


 俺はショートソードを力強く握り締めて駆け出した。それにメスウルフが反応する。


 爪の連撃を躱し、突きの構えで次の攻撃を予測して待った。何度も掻い潜った攻撃だ、ウィンドウが出なくても目が、そして体が反応できていた。


 爪がダメなら……。


「頭突きか牙だよなぁ!」


 大口を開けて牙を突き立てんとするジャンカーウルフ。その口内深くまでショートソードを突き刺した。


 ウルフは反射的に身を引いてソードが引き抜かれたが、逆に血が喉へと流れ込み、ゴボッと喉奥で苦しそうな音を立てている。


「ウォォォン!!」


 オスがまた遠吠えをした。するとメスの体を光が包み込み、ゆっくりとだが傷が癒え始めた。


「回復なんてさせるかよ!」


 俺は回復しきる前に仕留めようと、ソードを振りかざす。しかしオスが吠えるのをやめて、足に力を溜め始めたのが視界に映る。

 だけど俺にはわかっていた。そのあと何が起こるのか。

 テスを信じる事で、思考を共有できたような感覚があったからだ。


 その横面へとテスが飛び掛かり、クナイを右目へと突き立てた。


「リングスさん! そのまま決めてください!」

 その言葉が終わる前には、既にメスのジャンカーウルフの首を掻っ切っていた。恨めしそうな瞳がじっと俺を睨む。そしてその瞳から生気が失われたのを確認した。


「……怨むなよ、こっちだって生きたいんだ」


 メスのジャンカーウルフへ別れの言葉を置き、俺は残ったジャンカーウルフへと疾走する。テスは暴れるウルフに必死にしがみついている。しかしウルフが(つがい)の死を認識した瞬間、空気が一変した。


 空気が赤く熱を帯びたかのような怒りに染まった。


 それを感知した様子のテスが俺へ向けてわざと振り飛ばされ、それを横抱きでキャッチした。


「よっと!」

「あ、ありがとうございます。……降ろしてもらえますか?」


 抱き心地が良くて手放す惜しさを感じながらも、そんな場合じゃないと気を引き締める。


 オスのジャンカーウルフはメスの死体に鼻をつけて顔を舐めていた。テスに刺された左目が少しずつ再生している。

 顔を上げたかと思うと、羽衣のような毛が風を纏い始めた。


「なんて魔力の消費量!! あれは風魔法の片鱗」

「それって何――」


 風が駆け抜けた。遅れて本物の風が吹き抜けていく。

 後ろを振り向くと、正面にいたはずのウルフが後方遠くまで移動していた。狙いを外した悔しさを、憎々しげに口の端を上げて表している。


「……左目の傷が功を奏しましたか。恐らく残る魔力を注ぎ込んだ決死の魔法」

 気を抜いたら殺られる速度。だが裏を返せば、集中していればギリギリ目で追える。


 狼が俺達を中心に円を描いてゆっくりと足を進める。次第に加速していき、円が段々と縮まってくる。


「考えましたね。制御できない速さだからこうして確実に追い込む」


「テス、言ってる場合か! 俺はこっちを見る」

 テスと背中合わせに立って、正面と右手側を指差す。


「ということは私はこっちですね」

 意図を汲み取ったテスが同じく正面と右手側を注視する。


 お互いの体重を背中に預け、俺達は息を殺して待った。


 ジリジリと迫りくる風の如きジャンカーウルフの圧。死を連想させ、恐怖を沸き立てる。だけど、背中に感じる体温が勇気をくれている。


「来ます!」

 言葉よりも早くテスの意思を感じた。反動をつけて、お互い背中で弾き合うようにして距離を稼いだ。そして振り向きざまに、ジャンカーウルフの軌道へと剣を力一杯振るった。


 テスも対面で同様にクナイを突き出している。


 次の瞬間、風が衝突してきた。凄まじい衝撃に腕が持っていかれそうになる。いや腕だけじゃない、全身が引き裂かれそうだ。だが歯を食いしばり、腕の傷から血が噴き出そうが気にせずに、目がチカチカする程の全力でショートソードを振り切った。


「ぜぇ……ぜぇ……テス、無事か」


「はぁはぁ……。はい、いてて……指が折れましたが、見てください」


 テスが視線で示す。

 ジャンカーウルフはよたよたと芝生の上を歩き、番のもとまで辿り着いて、目覚めることのない眠りについた。


 俺とテスは無言で近づき、お互いにもたれかかるように体を合わせ、膝をついた。


「助けが遅くなって、悪かったな」


「ふふっ、本当ですよ。でも……信じてました」


 不意に温かな魔力に包まれる。マァルの魔力だ。彼女が俺達を褒め讃えるよう笑顔で魔法を掛けてくれたんだ。

 体の疲労感が和らぎ、眠気に襲われる。

 テスの寝息が耳元で聞こえ始めた。その寝息に誘われ、俺もその姿勢のまま瞼を閉じた。

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