第16話 善行集め
煙のように姿を消した女。しかし気配はしっかりと感じられる。
「テス、姿を消すスキルだ。近くにいるぞ……」
ウィンドウの警告。そしてそれが右後へ移動した。
腰の剣を抜いてその方向へ一閃。
何もない空間から鮮血が吹き出す。
「チッ! 勘が良いじゃない!」
虚空から聞こえる女の声。気配が遠退く。
だがウィンドウは赤く明滅し、火薬の臭いが鼻を刺激した。
――爆弾!?
俺は身を投げて地面を転がり、姿勢を低くする。直後、空中で閃光と火花が爆ぜる。熱気とむせ返るような火薬の臭いに包まれる。
それが収まると、顔を上げ、心の中でウィンドウに問う。
――奴はどこに!
ウィンドウが明滅。だけどその意図を掴み損なった。
再び虚空へと一閃した俺の肩や腹に短剣が刺さって姿を現した。
「ぐっ!」
「リングスさん!! コイツっ!」
テスが虚空へ蹴りを放つ。
鈍い打撃音。地面を転がりながら、女が姿を現した。
「ガハッ……な、なんで!?」
「さぁ、何ででしょうねぇ?」
テスが威圧的な笑みを浮かべながら歩み寄る。
まぁ魔力の力だろうな。
あの刺客は、まさか彼女が魔族で、魔力を扱えるだなんて考えもしないだろう。テスの前では姿を消すスキルなんて子供騙しってわけだ。
テスが女の手を踏みつけながら問いかける。
「で、貴女は何なのですか? 何故追放者を狙うのですか?」
「な、何って罪人を狩ってるだけよ! 私は善行を集めて騎士隊に正式入隊したいの!」
「正式? ってことはアンタは騎士隊見習いか?」
女を見下ろしながら冷たく言う。
「そ、そうよ。騎士隊に追放者狩りの特命が出て、私達見習いもそれに参加する権利を与えられたのよ! ね、ねぇ、アンタ達のことは黙っておくから見逃してよ! 私だって騎士隊に入って秩序を守りたいのよ!」
テスの表情に迷いが浮かぶ。
烙印を押された者は罪を犯した者と言うことになる。一度野放しにしたとはいえ、それを狩る事は騎士隊の職務としては矛盾はないのかもしれない。
「お願い! 騎士隊に入るのが幼い頃からの夢だった! 小さい弟達に自慢したいの!」
だけど俺は狩られるような事をした覚えもない。
でもここでコイツを見逃す事は、テス達を危険に晒す。
だから、これは俺の役目だ。
「ねぇ! お願っ――」
「リングス……さん」
どこか哀しそうな顔のテスの横に立ち、剣を女の首に突き立てた。
※※※
マァルの森に着いたのは朝方だった。
帰り道は言葉数も少なく、早足だった。
俺はこれから騎士隊に狙われる身だ。
魔獣や魔物の相手がどれだけ心理的に楽だったか。
「もう、後戻りはできない」
自然と独り言が漏れ出る。
「私も共犯者です、リングスさん」
そう言ってテスが俺の手を握ってくれた。
温かい手。彼女と紡げたこの奇妙な縁を、そしてこの温もりを失わないために……。
俺はこの戦争を終わらせて、大英雄となる。
そのためにもっと強くなる。
そう心に誓いながら、マァルの庭へと帰ってきた。
【魔θπつけてςζる】
人を殺めた罪悪感と見えない先への不安に憔悴した俺の頭は、ウィンドウが何かを警告していることにも気づかなかった。




