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冤罪

裁判長が法廷中に響きわたる声でアンドロに問うた。

「ベルムを殺害したのはあなたですか?」

「違います。僕ではありません。どうして僕がベルムを殺さないといけないんですか?それに証拠だって何もありはしない」

「では検事からは何かありますか?」


検事は立ち上がった。目元は鋭く、顔には年相応の皺が刻まれている。多くの事件に携わってきた経歴をその顔が証明しているようだった。

「あの状況で犯行が可能だった人間はアンドロしかいません。同じ時間に彼は同じ建物の中にいた。それから」

検事はアンドロの犯行を立証するための事項を並べていった。しかしそれはどれも犯行を確定させるに至るものではなかった。


次はアンドロの弁護人の順番だった。

「それだけでアンドロを犯人にするつもりですか?それに動機は何ですか?彼はベルムに対して何の恨みがあったというんです?」


検事はゆったりとした、しかし険しい声で告げた。

「アンドロとベルムの間には金銭的なトラブルがありました。そのことは調べがついています」


「でたらめを言うな」

と激昂したのは、当のアンドロ本人である。

「金銭トラブルなんかあるもんか。あいつを殺す理由なんて一つもないさ。どうしてこんなに証拠も揃っていない状況で僕を犯人だと言うんだ?誰も言わないが僕には分かっているさ。みんな真犯人に金を積まれているんだ。僕は真犯人を知っているぞ。それはレボだよ」


レボはこの村の領主の息子であり、素行の悪さで知られていた。

ベルムとの間にはトラブルもあり、動機もあればその時間に犯行も可能であった。


「どうしてここに立つのはレボでなく僕なんだ?みんなレボの父親から金を積まれているんだ。あの親子には誰も逆らえないんだ。だから都合のいい僕を犯人にしたんだろ?」

法廷が静まり返った。誰もそれに対して何か言う人間はいない。異様な空間だった。


やっと検事の男が立ち上がって

「証拠もないことを言うものではないぞ」

と重みのある声で告げた。

「証拠のないことを言っているのはお前たちの方じゃないか」

「静粛にしなさい」

と裁判長が怒鳴ったことでアンドロは黙り込むしかなくなった。


「ここで参考人に話してもらいます。」

と裁判長が言うと、1人の男が前に出て話し始めた。そしてアンドロの方を指差し、

「あの人が犯人です。私は彼が殺害しているところを目撃しました」

と淡々と告げた。


「嘘を言え。馬鹿げたことを言うな」

「被告人、静粛にしなさい。弁護人は何かありますか?」

弁護人は前に出るやいなや

「何もありません。目撃したという証言を違うと言える材料は何もありません」

と言ったから裁判の結果はほぼ確定した。


「ふざけるな。こんなの馬鹿げている。お前たちは人間じゃない」

アンドロは断末魔のように叫びながら法廷の外へと連れ出されていった。


裁判は終わった。裁判長も検事も参考人も弁護人も、皆涼しそうな顔をしていた。もしこれが冤罪だとしても、彼らには罪はなかった。ただ場の空気がそうしたのであり、彼らはそれに従っただけなのだから。



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