中編
目の前に現れた木造建ての一軒家は淡いベージュを基調とした外壁に濃いブラウンの梁が色合いにメリハリをつけ、三角屋根に敷き詰められた瓦は所々苔に覆われながらも安心感をもたらしている。
玄関の内から漏れる光は温かみを感じさせ、メリーの緊張していた心を解きほぐす。
フローラが中に入っていくのに釣られて家の中へと足を踏み入れると屋内に広がる景色にメリーは思わず口を大きく開ける。
まず目についたのはその緑の多さだった。どこに視線を向けても必ず植物が大小問わず置いてありそれぞれが思い思いの色で花びらや実を着飾っているがごちゃごちゃとした印象は無くおしゃれな空間を作り出していた。
何処を見ても見たことない多様な植物たちに好奇心を狩りたてられながらも一通り見終わると次に感じたのは家の大きさへの違和感だった。
外から見た時は一階しかなくこじんまりとした家だと思っていたが中は三階までの高さがあるだろう吹き抜けがあり、その吹き抜けを埋めるように巨木と表現するのがふさわしいであろう樹木がずっしりと一本立っていた。
「どうなってるの。これ……」
家の外から見た時と中から見た時の空間の大きさの違い、本来違う季節で育つはず植物が鉢を並べて育っている事。どれもこれもがメリーの想像をはるかに超えた出来事でメリーの思考は完全に止まりただただ目の前のものに圧倒されることになった。
家の中をふらふらと見た事のない植物に釣られ右に左にと動いているとフローラから声が掛かった。
「これから毎日見ることになるのだから今日はその辺にしてこちらにいらっしゃい」
声のした方へ振り返ると大きなソファにゆったりと腰を落ち着けたフローラがティーカップを片手に寛いでおり、興奮しすぎてここが魔女の家だという事が頭からすっぽりと抜けていたメリーは少し恥じらいを感じながらもトコトコとフローラの元へと向かう。
「さて、見て分かる通りこの家は植物で溢れています。最近調子に乗って増やしすぎちゃったから一人でお世話するのはちょっと大変だったのよね。なのでメリーにはこの子たちのお世話をすることから始めて貰います。あとは簡単な家事ね」
フローラの口から告げられたのは今後に関する事だった。森の中で大木の洞のの中で死を待つばかりだった自分を助けてくれた例えそれが魔女であっても恩人に対して返す言葉はメリーは一つしか知らなかった。
「よ、よろしくお願いいたします」
「はい、よろしくね」
ぺこりとお辞儀するメリーににこりと答えるフローラ。
これまでの村での親の手伝いをしながら緩やかに流れていた日常から大きく一転し魔女の家で下働きをすることになったメリーの瞳は森の中で見せたような虚ろなものではなく新しい環境での生活への希望に満ち溢れていた。
「挨拶は済んだしお風呂に入りましょうか」
そう言ってフローラはソファから立ち上がると家の奥へと歩き出しメリーもそれに倣って付いて行く。
脱衣所に付き、身支度を整えているとフローラは今日の事を振り返る様に言葉をこぼす。
「今日は疲れたわ~、メリーもあんな場所まで森を彷徨って疲れたでしょう?」
「は、はい。村が襲われて森の中に逃げ込んでいっぱい走って…………」
自分がなぜ森の中にいたのかを思い出し先程まで上がっていた気分は底へと落ち込み目元には涙が溜まる。
「ふーん。襲われた、ねー。メリーがいた村ってハーリーン村でしょ?あそこってここ周辺じゃそこそこ大きい村だったと思うんだけど、そんな所を襲うなんて随分と大胆なのね」
「村の事を知ってるんですか?」
「森の周りの事は大体把握してるつもりよ。あなたみたいな子供があそこまで来れるのは位置的に考えてその村くらいしかないもの。ほらメリーもさっさと脱ぎなさい」
メリーが生まれ育ったハーリーン村はフローラの住む森、ダバスタ大森林周辺の村々をまとめる役割を持った領主直営の村でその規模は800を超える人たちが住んでおり、町と形容しても問題ないほどの住民を抱えていた。
そんな村が襲われ、壊滅した。野盗が手を付けるには規模が大きすぎるし、魔物に襲われたのなら防備が貧弱すぎる。あくまでも村とはいえ、領主直営にしては訪れた結末が歪すぎる……と疑問を整理しながらメリーの準備も終わらせたフローラはまぁ、いいか、どうでも。と考えていたことを捨てる。
2人の準備が整い浴室の扉を開けると湯気に乗って全面に惜しみなく使われている檜のゆったりと包み込むような優しい香りが広がる。
中に入れば2人が一緒になって入っても余裕をもって湯に浸かれそうなほど大きな風呂釜に、全身を余すことなく映す鏡。
物の価値など良く分からないメリーでもこの浴室は派手さは無いものの大きい商店を構えるおじさんがたまに見せてくれた派手な刺繍の入った絨毯や衣服より、高い価値のあるものだと直感した。
「魔女ってお金持ちなんですか?」
鏡の前に座らされ、甲斐甲斐しく体の手入れをしてくれているフローラに質問する。
「他がどうかは知らないけど、私はいっぱい持ってるわよ。まぁ使う機会なんてないけれど。どうしてそう思ったの?」
「このお部屋とても高そうだから……」
すごく俗っぽい質問をしてしまったと恥ずかしくなっているメリーに笑いながら答える。
「ふふ、そうねここは特に気合を入れて造ったわね。私の収入源は主に国王、この森のあるヴェンス王国の王からもらっているのがほとんどね。あとは他の魔女相手に商売をしているわ。…………はい、おわり。湯船に浸かってなさい」
手早くメリーの体を洗い終わると自身を洗い始めるフローラを横目にメリーはここでの生活を考える。
フローラに見つけてもらってからここまで驚きの連続だった。魔法に知らない植物たちにとても快適なお風呂。例えきつい下働きであろうとこのお風呂に浸かって一日が終わるのならば乗り越えていけそうだ、とぼんやりと思い描く。
「どんな風に村は襲われたの?」
程よい温度の湯に浸かりすっかり思考が蕩けたメリーに髪の毛を洗い終わったフローラがさっきはどうでもいい、と捨てた疑問をやはりどこか気になるのかメリーに問う。
――いつまでも続くと思っていた日常が突然終わりを迎えたあの日。
問われたメリーは自分のいた村に何があったのかを語り始める。
あの日、いつものように朝早く起きて、お母さんのお手伝いをしていたらカンカンカンって鐘の音が鳴り響いたんです。
そしたら外にいたお父さんが帰ってきて近くでボヤ騒ぎがあったらしいって教えてくれて、家まで火が回ることは無いだろうけど一応避難所まで避難しようかって外に出たんです。
そしたら歩き出してすぐに村の色んな所から突然大きな火柱が立ちあがりました。
村中がパニックになってみんなが出口に向かって走り出している中、お父さんは森に逃げようって。
理由はちゃんと教えてくれなかったけど、その方が安全だからって言われて人波を避けながらなんとか森の入口にたどり着いたらフードを被った人がいてその人の近くには村の警備隊の人たちが倒れていて、それを見たお父さんが森の中へ逃げ込めって言いながらフードの人へと走っていったんです。
あんまりにも急なことで動けなかった私にお母さんが抱きついて来て後で必ず追いつくから、私たちの事は気にしないで行きなさいって。
なんにも分からなかったけどお父さんとお母さんに言われた通りに森の中を走って走り続けて……気が付いたらあの木の下にいたんです。
体を洗い終え、メリーと並ぶように湯船に浸かっていたフローラは「なるほどねー」と納得したように相槌を打ちながら体を伸ばし体勢を変える。
「メリーのお父さんは仕事は何をしていたの?」
「お父さんは昔は騎士団で働いていて結婚してからは村で警備隊の教導係をやっていました」
「だからね、森へ逃げようなんて言った理由は。私がここに住んでいるのを知っていたのね」
1人納得するフローラは次の質問を投げる。
「――メリーはナニに村を襲われたと思う?」
気がついたらありえんくらい時間が経ってました。
想定では次で終わると思っていたんですが
全然そんなことなさそうでちょっと焦っています。
更新速度に関しましては気長に待っていただけたらと思います。




