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前編

はじめまして。初作品です。拙著ではありますが、楽しんでもらえればと

  森の中はひどく暗かった。

 

 大地を煌々と照らす日の光は高くそびえる樹々の広い樹冠に阻まれ、隙間を縫って漏れ出たわずかな陽光さえも地面に届く前に霧散してしまう。


  そんな不気味さのある森の中を、ひとりの女が歩いていた。


  彼女に届く光などほとんどないのにその僅かな光さえも嫌うように大きく広がったつばの付いた三角帽子。


  藍色のローブは裾は足元を見せない程長いが、一切の土汚れが見えない。


  彼女の足元では、木の根がするすると退き、地面を均し道を譲るように形を変えていく。


  まるで森と彼女の間に上下があるかのように。


  やがて、ひときわ大きな大樹の根元にたどり着くと大樹の洞の中で、小さな影が震えているのを見つけた。


  「あら、こんな所に童がひとつ。捨てられたのか、逃げて来たのか……まぁ、些細なことね」


  見つけた少女がなぜこんな所にいるのか境遇を気にかける様子は少しもなく、女は人差し指を少女に向け、空中にゆるやかに何かをなぞるように指を動かす。


  指が通った後には青白い光が軌跡として現れ紋様が現れ、描き終わった紋様から指を離すと青白かった光が強く輝き淡い緑光に変わると、少女の体に降り注ぐ。


  紋様から出た緑光が少女の体を包み込むと、ふわりと体が浮き上がり、うずくまって丸まっていた背を伸ばすと、地面に立たせた。


  少女は森の中を長い時間彷徨ったのか、泥と煤にまみれ、髪は絡まり、ろくに食事も摂っていなかったのか頬はこけ目は虚ろで、およそ生気をというものを感じるには難しい程ではあったが、そんな少女を見て女は言葉を漏らす。


  「思ったより元気ね。貴女、名前は?どこから来たの?」


  生気をほとんど感じない様な青白い顔を見て『思ったより元気』 と形容した女性は相手への配慮という考えが無いのか自身の都合を優先するように問い掛ける。


  少女は答えない。こんな森の奥地に一人でいる女がマトモな訳が無い。強い疲労襲われている頭でそう考えた少女は、体が震えるほどの恐怖を感じながらも視線は地面に落としたまま固く口を閉ざす。


  答えないことを選択した少女を前にして女は口元を緩めた。


「ふふっそうね、 えらいわ、 こんな『いかにも』な人に名前なんて教えてしまったら何をされるかわかったものでは無いものね。 けれどお前って呼ぶのも嫌だし、そうね……メリーでどう?」


  愉快そうに笑いながら喋る怪しげな女は少女に名前を提案すると少女はどう返事を返すか頭を働かせる。


  怪しい人の言葉は一言も聞く耳を持ってはならないとは村の大人達の言葉。だけど、呼び名くらい別にいいのでは?メリー。可愛い響き。あんまり怖い人には見えない。なんでこんな所に……。 必死に考えても疲労の濃い頭では思考が空回りし始め、少女はまぁ、呼び名くらいなら……少女はわずかに顔を上げ、ためらいがちに頷いた。


  女性はメリーの反応にニコりと微笑むと「いいものを拾えたことだし、お家に帰りましょうか」とくるりと身を返して歩き始めた。すると先程女にかけられた魔法のせいか、メリーの体はメリーの意志と関係なく女性の後を追従する。


 ―――森の奥へ。



  メリーは戸惑っていた。


  自分と意志とは関係なく動き始めた身体。自分のものではないような感覚。

 

 恐怖にも似た感情を抱いていると女が語る。

 

「便利でしょこの魔法、相手の意思に関係なく私が命令した通りに相手の身体を操れるの」


  指先を上機嫌に揺らしながら女の姿はおもちゃを自慢する子供のようだった。


  その無邪気さと、告げられた内容の恐ろしさの落差に、メリーは息を呑む。


 魔法――。


  曰く、この世界に溢れているらしい魔力というものを使って火を起こし、水を生み、風を操ったりなど色んな事が出来る凄いもの。


  メリーがいた村ではたまに通りかかる冒険者がたまに見せてくれるだけで、詳しい事は何も分からない。が、使える人の数は多くなく、さらに魔法を使えるようになる為には大変な道程があると聞いたことがある程度だった。


 そんな魔法を容易く扱い上機嫌に前を歩く女性を見てメリーは頭の中にひとつの単語が思い浮かぶ。


 ――魔女。


 物語の中でしか会ったことのない存在。


 王都にいる学者様よりも深く魔法を知り、凄腕の魔法使いよりも巧みに操る者。

 けれど、寝物語に出てくる魔女はいつも悪逆で、人の心など顧みない。

 最後には必ず倒されるべき絶対悪として描かれていた。

 しかし目の前の女性からは、そうした邪悪な気配は感じられない。

 だが、こんな森の奥で一人きりで暮らしているという事実が、メリーの警戒心を解かせなかった。


「あ、貴女は……魔女なの?」


 おずおずとした問いに、女性は「あぁ、そういえば」と呟き、足を止めた。


 優雅さを崩さずゆっくりと振り返り、メリーの目線に合わせるために膝を折る。


 深く被っていた帽子を取ると、柔らかな笑みが現れた。


「挨拶がまだだったわね。フローラよ。知り合いには“緑の魔女”なんて呼ばれているわ」


 その言葉に、メリーの中でやっぱり、という気持ちと呆然とした気持ちが混ざり合う。


 本人の口から放たれる「魔女」という響き。


 胸の奥に小さな絶望が芽生える――が、それ以上に、彼女の容姿が目を奪った。


 胸元まで真っ直ぐに伸びた滑らかなブロンドに透き通るような白い肌。


 赤みを帯びた瞳は、どこか優しさを含みながらも、底知れぬ深さを湛えている。


 目鼻立ちは一分の隙もなく整い、まるで上等な布のように洗練されていた。


「……きれい」


 思わず呟いた言葉は絞り出した様に小さな音だったが目の高さを合わせる為にしゃがんでいたフローラにはしっかりと聞こえており、面と向かって綺麗だと言われた事に面映ゆい気持ちに晒された。


「ふふっ、ありがとう」


 立ち上がったフローラは、満足げに微笑む。


「美容に気をつけてる甲斐があったわ」


 軽やかな足取りで、再び森の奥へと歩き出す。


 その背中を、メリーはまだ半信半疑のまま追い続けた。



 歩き始めてしばらく。


  森の中を進むにつれ、高い湿度で纏わりついていた空気もひんやりと乾いたものに変わっていき漂っていた強い葉の匂いも落ち着いてきた。


  フローラの前にある木々たちは相変わらず彼女の事を避け、歩きやすい様に道を作る。


  出会った時から行われているその光景は、それはまるで森が彼女の庭であるかのように自然な出来事でメリーはとんでもない人に付いて来てしまったと固唾をのむ。


 気を紛らわそうとメリーは意識を周囲へと向けるがふと気づく――


 先程まであった獣達の気配が感じられないことに。


 聞こえるのは二人の足音と葉擦れの音だけ。


「……静かですね」


 ふと漏らした言葉に、フローラは答える。


「私の支配圏に入ったからよ。動物も、魔物さえも近づく事は無いわ」


 支配圏に入った。その言葉を裏付けるようにフローラが近くの木に手を伸ばすと、するすると枝が伸びてきて戯れ始める。


「ここ周辺の木々は私が丁寧に育てたの。私が招いた人以外は入れない様になっているの。すごいでしょ?」


 支配圏というにふさわしい理由を子供を慈しむ様な優しい表情で木々と触れ合いながらフローラは言う。


 神秘的な光景に見惚れているとメリーの近くの木から果物が差し出された。


 毎年大人たちと森に入り果物狩りをしていたのでこの地域でとれる果物は殆ど知っていると自負していたが目の前に出てきた果物は見たことが無く、今まで見てきた果物よりもハリツヤがしっかりとしていてでっぷりとまん丸で漂う匂いも鼻への刺激が強すぎるから位にはとても芳醇な匂いが香ってくる。


 差し出されたとても美味しそうな果物を前にメリーはまだ身体を操られているので受け取れず、どうしたらいいかと困っていると右手が動く。


「それを食べたら魔法を解いてあげる」


 そう言われて手の中に納まっている大ぶりな果物を見つめる。


 見たことのない果物に少しだけ躊躇するが先程から刺激されている五感が森に入ってから何も食べていないメリーのお腹を鳴らし続ける。


 意識してしまった空腹には抗えず大きく呼吸を置くとメリーは果物にかぶりついた。


 やわらかい果肉の中から溢れ出す果汁が口の中いっぱいに広がり今まで食べたどの果物からも感じた事のない強い甘さで満たされた。


 一口食べた後のメリーの動きは早く、あっという間に果物は消えてしまい、名残惜しそうにさっきまで果物の乗っていた右手を見つめているとフローラから声が掛かる。


「お口にあったようで良かったわ。それじゃあ家に入りましょうか」


 食べ終えたのを見届けるとフローラはくるりと体を回し玄関扉に手を掛けてゆっくりと開ける。


「え……?……どうして?まだ…………?」


 フローラと出会ってからまだそれほど時間は経っていないがそれでもメリーには驚きの連続だった。フローラが魔女であること、今まで見た事の無い一線を画す魔法、意思のある木々に驚くほどおいしかった果物。


 ちょっとづつではあるがフローラに付いて行くという事はこういう事なんだと慣れてきていた所だったがたった今目の前で起こった現象にメリーは思わず足を一歩後ろに引いた。


 先程まで道の無い暗闇の深かった森の中を歩いていたはずなのに果物を食べ終わり顔を上げるとそこには大きく円形に開けた場所があった。


 広場の中にもぽつぽつと木が生えているがとても見渡しはよく、先程までのうっそうとした雰囲気を飛ばす様に夜空には星々が輝いている。


「さっきまで、森の中で…………???」


 頭の中の混乱が収まらず広場の真ん中に建つ家の前で立ち尽くしているメリーにフローラは笑いながら話しかける。


「あははは、いいリアクションね。驚かしたかいがあるわ。ちゃんと説明してあげるから中にいらっしゃい」


 依然として規模の大きい出来事に驚きが収まらないがフローラの声にゆっくりと歩きだし玄関口に付くとフローラは、がばり。と大きく両手を広げる。


「ようこそ。緑の魔女こと、フローラの家へ。今日からここがあなたのあなたの新しい居場所です。こき使うつもりなので覚悟してね」




お読みいただきありがとうございました。

続きは勢い余って消し飛ばしてしまったので時間をいただきます。

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