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17/32

17:怠惰な戦争と読者心理の爆発

深夜午前1時。


拓也は、この執筆に全てを注ぎ込み、投稿を終えた。タイトルは『第四十五章:怠惰が為の破壊と一夜の安寧』


この章で拓也は、二極化する読者の期待に正面から応えるべく、アレスの「怠惰」を究極まで昇華させた。

王都の貴族たちが仕掛けた陰謀という「面倒な作業」に対し、アレスが「一瞬で終わらせるために、最も派手な方法を選ぶ」という形で、大規模な破壊と爽快な無双劇を展開させたのだ。


王都の一角が、アレスのチート能力によって一時的に崩壊し、貴族たちは恐怖で逃げ惑う。

しかし、アレスの動機はあくまで「静かに寝るための環境整備」という「怠惰」を貫く。


投稿直後、拓也はキーボードから手を離し、心臓の鼓動が収まるのを待った。疲労は限界を超えていたが、物語への確かな手応えを感じていた。


翌朝。

携帯のアラームが鳴った時、拓也は、まだ机に突っ伏したままだった。

パソコンのモニターはスリープ状態になり、コーヒーはすっかり冷めていた。

体中が軋む。腕を伸ばすと、筋肉がひきつる。

それでも、彼は無理やりスマホを手に取った。


アクセス解析のアプリを開く。

画面に数字が現れた瞬間、眠気が一瞬で吹き飛んだ。


閲覧数(24時間):4,500

ブックマーク:180(新規62)

評価ポイント:332(新規108)

ジャンル別日間ランキング:28位


「28位……!」


拓也は、その数字に息を飲んだ。これまでの最高順位である49位を大幅に更新し、ついに30位の壁を突破した。新規ブックマークが、一晩で62も増えている。

これは、作品が新着一覧からではなく、ランキング経由で読者に見つかり始めたことを意味する。


「王都での『怠惰な戦争』が、刺さったんだ……!」


拓拓也は、この展開が、爽快感を求める層と、物語のテーマ性を求める層の、両方の期待を「アレスの動機」という一点で結びつけることに成功したのだと理解した。

彼は、興奮を抑えながら、感想欄を開いた。コメントも一気に増えていた。


読者名:テンプレ大好き


「キタァァァア! これだよ、これ! 王都を破壊して貴族をビビらせるアレス最高! やっぱチートはこうじゃなきゃ! 最高のカタルシス!早く 続き読みたい!」


読者名:世界観ガチ勢


「今回は、アレスの『怠惰』というテーマが、王国の体制を破壊するという行動を通じて、最も強く表現されたエピソードです。貴族の過剰な『労働』が生み出す歪みを、アレスが『サボる』ために壊すという皮肉な構図が、この作品の核を確立しました。この先、アレスの『怠惰』が、魔王軍や勇者システム全体にどのような影響を与えるのか、楽しみで仕方ありません」


拓也は、歓喜のあまり、顔が熱くなるのを感じた。


「両方だ……。両方の読者が、満足してくれた!」


特に、「世界観ガチ勢」のコメントにある「この作品の核を確立しました」という言葉は、拓也が苦悩の末に辿り着いた、創作の「正解」を証明していた。


彼は、すぐに全てのコメントに返信をした。喜びと、感謝と、今後の連載への強い決意を込めて。


工場へと出勤した拓也は、体は疲れていたものの、心は満たされていた。ライン作業も、この日はいつもより軽く感じられた。


昼休み。拓也は、食堂の隅で、缶コーヒーを飲んでいた。


田中の姿が見当たらない。

いつもの煙草の匂いが、今日はしない。

そのことに気づいた瞬間、胸の奥に、微かな違和感が生まれた。


「田中さん、今日は休みですかね?」


拓也は、隣に座っていた同僚に尋ねた。

同僚は、弁当を食べながら、無関心に答えた。


「ああ。田中さん? 今日から来ねぇよ。昨日で辞めた」


拓也の時間が、止まった。


「辞めた……?急にどうして? 」


同僚は、不思議そうな顔で拓也を見た。


「クビだとよ。『ラインを止めすぎた』って班長が怒鳴ってたな。最後の最後まで、あの人は仕事に身が入ってなかったよ」


拓也の頭の中は、真っ白になった。


(クビ……。俺と同じように、仕事でミスを犯した結果……)


彼は、最後の昼休みに田中が自分にかけた言葉を思い出した。


「俺みたいになるなよ」


田中は、自分の夢を諦めるだけでなく、その夢を追いかけたことによる現実の破綻を、拓也に見せつけて去っていったのだ。


拓也は、ランキング28位という成功の頂点で、彼の物語を支える「現実の厳しさ」という底辺を、改めて突きつけられた。


ざわめきの中で、拓也だけが静止していた。

周囲の喧噪がぼやけ、時間の流れが、ひとりだけ遅くなったように感じる。


(……俺は諦めない)


拓也の心に、ランキングの喜びとは違う、冷たく強い決意が芽生えた。彼は、立ち上がると、あの日見た食堂から出ていく田中の背中を、心の中で追いかけた。


(田中さん……見ていてください。俺は絶対に、この夢を夢のままで終わらせませんから)


その想いは、静かに胸の奥に沈み、やがて冷たく、鋼のように固まっていった。


拓也は、自分の中に芽生えた決意が、昨日の喜びとは違う温度を持っていることを、はっきりと感じていた。

それは熱ではなく、冷たい刃のような意志だった。


その夜、拓也は再び机に向かった。

心の中で、まだ煙のように消え残る田中の言葉を背に受けながら。

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