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 現状を把握するための前段階として織間が以前俺にしたのと同じように魔法について説明すると、加賀谷は暫し瞑目してから疲れた様子でため息を吐き出した。


「にわかには信じがたいけど。あんなものを見た後だし、あり得ないとは言い切れないわね」


 心の底から信じてるという感じではなさそうだけど。

 他に現状を説明できる仮説も思いつかなかったのか、加賀谷はひとまず魔法の存在について受け入れることにしたらしい。


 織間はそんな加賀谷の態度を見て満足そうに頷いている。


「じゃあ、その辺を踏まえたうえでなぜ加賀谷には魔法が見えたり見えなかったりするのかだけど。簡単に言うと、魔力が少ないからよ」

「魔力というと、確か魔法を使うためのエネルギーという話よね」

「そう。超常を認識することはそれ自体が一種の魔法だもの。消費量は微々たるものだけど、それでも魔力がほとんどない加賀谷にとっては必要な量を自前で賄うのは難しいってわけ」


 魔力自体は一般人でも僅かながら持っていて、それを魔法として出力できるかどうかは本人の素養による。

 織間は以前そんなことを言っていたので、加賀谷の場合も全く素養がないというわけではないのだろうけど。

 

 加賀谷一人では魔力が足りないのであれば、窓の外に浮かぶ織間の姿を見たとき感じた魔力の流れは俺から加賀谷へ魔力が移動したことにより生じたのだろうか。


「では、さっき握手したとき急に刀が見えるようになったのは?」

「私の体から放出されている余剰魔力を加賀谷が吸収したことで十分な魔力が集まったからね。まあ、あくまでも一時的なものに過ぎないから、手を離せば十秒かそこらで見えなくなったわけだけど」


 織間の説明は概ね俺の想像した通りのもので、ある程度納得はできたけれど。

 そうなると、加賀谷が満足に魔法を使えるようにするためにはいろいろと骨が折れそうだ。


「なら、加賀谷が魔法を使うためには外付けの魔力タンクみたいなもの用意しなきゃだよな。流石に俺や織間がずっと手を握ってるわけにもいかないし、なんかいい感じの道具とかないのか?」


 加賀谷が魔法を使えるようにするためには当然の疑問だと思うのだけれど。

 織間は俺の方を見てから、不思議そうに瞬きを繰り返した。


「効率を度外視すればなくはないけど、別にそんなもの必要ないでしょ」

「何でだ? 加賀谷は魔力が足りないからこのままじゃ上手く魔法使えないんだろ?」

「だから、使えなくていいじゃない。あんたと違って加賀谷の場合は暴走する魔力もないんだし、魔法なんか使えなくても何も困らないわよ」

「いや、それは……そうかもしれないけど」


 加賀谷に魔法なんて必要ない。

 そう言われれば、確かにそれはそうなのかもしれないけれど。

 

 何となく、すっきりしないというか。

 少なくとも俺には、せっかく魔法を使える可能性を秘めているのにそれを活かさないのは酷くもったいないことのように思えてしまう。


「加賀谷は魔法を使ってみたいとか思わないのか?」


 何はともあれ本人の意向を確認してみようと声をかけると、加賀谷は何秒か視線を宙に這わせてから悩まし気な様子で口を開いた。


「正直に言えば、使いたい使いたくない以前にまだ魔法の実在を受け止めきれていないというのが本音ね。それに、話を聞いている限りだと私には難しいようだし、現状で魔法を使って何かしようとは思わないわ」


 加賀谷の返答は順当といえば順当で、いきなり魔法の存在を告げられたにしては冷静に対処していると思うけれど。

 それが俺の望んでいた答えかと言われると素直に頷きづらい部分がある。


「でも、魔法が使えたら日常生活でも便利だと思わないか?」

「便利って、例えば?」

「それは、ほら。どこでもこんな風に火を出せたりするし」


 俺が加賀谷の肩に手を置いてから散々練習した指先から火を出す魔法を披露すると、加賀谷は一瞬だけ驚いたような顔を浮かべてからすぐに表情を怪訝そうなものに変えた。


「確かに、何もないところから火を出せるのはすごいと思うけど。魔法は人に知られてはいけないんでしょう? だったら、外で迂闊に使うわけにはいかないし、コンビニでライターでも買った方が安全じゃないかしら」

「加賀谷の言う通りね。というか、白藤は他に大した魔法使えないんだし、日常生活で魔法が役に立ったことなんてないでしょ」

 

 二人とも、言いたい放題だな。

 いや、まあ、正直なところ勢いで言っただけで自分でも指先から火を出す魔法が何の役に立つのかなんてすぐには思いつかないのだけれど。


「けど、そう。実際にこの目で見るまでは実感が湧かなかったけど。織間さんだけじゃなく白藤君も本当に魔法が使えるのね」

「まあな。と言っても、織間の言う通り俺が使える魔法なんてこれくらいしかないんだが」

「それでも、なんと言うか、驚いたわ」


 まあ、それはそうだろう。

 知り合いがいきなり魔法を使いだして驚かないのなんて、それこそ魔法使いの家系に生まれた織間のような人間だけだ。


 そして、その織間は落ち着いた様子の加賀谷を見ると一仕事終えた後のように深く息を吐き出した。


「さてと。それじゃあ、説明すべきことは説明したし、私はもう行くわ」

「行くって、加賀谷はどうするんだ?」

「だから、どうもしないわよ。あんたと違って今回みたいな偶然がなきゃ魔法を見ることもないんだし、秘密さえ守ってくれればこれ以上私が干渉する筋合いもないわ」


 本気でこれ以上何かする必要性を感じていないのだろう。

 織間は俺たちに背を向けると、宣言通りに一人で空き教室を出て行ってしまった。


 元々、織間が俺を家まで拉致したのは魔法の暴走を恐れてのことだった。

 だから、その心配がない加賀谷相手なら自然とこういう対応になるのかもしれないけれど。

 

「まあ、仕方ないか」


 俺がどう思うにせよ、現実として魔法関連のあれこれを織間抜きで行うのは難しいし、この場はお開きにするしかないだろう。

 幸い、加賀谷は置かれた状況の割に落ち着いているし、このままでも特に問題はないはずだ。


「ひとまずは解散、ということでいいのかしら?」

「そうだな。織間が大丈夫と判断したなら大きな問題はないんだろうし。俺でよければ幾らでも相談に乗るから、とりあえずは様子見するしかないな」


 どうにも締まらないけれど。

 俺と加賀谷はどちらからともなく顔を見合わせてから、授業の終了を告げるチャイムの音を聞きつつ空き教室を後にした。

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