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安楽椅子ニート 番外編27

「あ、木崎さん。おかえりなさい。お疲れ様です。」

「おう。今、戻った。」

「あの木崎さん。部長が、探してましたよ。後で顔を出せって。」

「ん? 何か言ってたか?部長は。」

「小渕さんの告別式、課を代表して、部長が行くって言ってました。」

「小渕さんかぁ。・・・・惜しい人を失くしたなぁ。」

「突然ですもんね? 心臓発作か何かだったんでしょうね?」

「いや、そこまでは知らねぇ。市政で散々世話になったからアレだけど、まぁ、人間誰だって死ぬ時は突然だ。・・・良い話、悪い話、色々聞いてた爺さんだけど、最後、死ぬ時ぐらい、安らかに死にたいもんだよな。やっぱり最後は布団の上で死にてぇよ。」

「そうですね。・・・・仕事としてお世話になったから最後くらい線香はあげたいですね。」

「それで部長が行くんだろ?」

「ええ、はい。」

「俺、関係ないじゃん。一人で行くんだろ? 香典でも包むのかな?」

「・・・・でも、それって課で代表として行くわけだから、会社からお金は支給されるみたいですよ。僕も徴収されていませんし。」

「じゃ、なんだろな?」

「たぶん、小渕さんの写真とかじゃないですか、ほら、幾つもイベントで記念撮影してたから。お返しするんじゃないですか?」

「・・・・・ああ。ああ、そうか。そういう奴か。だいたい市の協賛イベントで後援してくれるのは小渕さんだからな。小渕さんあってのうちの市だよ。惜しい人を失くしたよ。」

「木崎さんも忙しいですよね。瀬能さんち行ったり、小渕さんち行ったり。」

「外回りも大事な営業だからな。・・・・まぁしかし。相変わらずだな。あの人、改心したのか、仏像、彫ってたぞ?」

「は?」

「いや、だから、仏像を彫ってたぞ、って。瀬能さん。」

「瀬能さん? ・・・・仏像、彫れるんですか?ちゅーか、その前に、彫刻が出来るんですか?」

「いや、それは知らないけど。でも、彫ってたぞ? 火の鳥がどうとかこうとか、言ってたけど。」

「火の鳥?・・・・底が知れないですね。瀬能さんは。」

「まああの人は、悔い改めないといけない事が山ほどあるから、今から仏像でも彫っておかないと、死ぬまで間に合わないんだろ?俗物の権化だから。」

「・・・・何と答えていいものやら。」

「笹塚、お前、カミさんいたよな? じゃ、仕事がバリバリ出来る秘書タイプの女の子と、何も出来ないけど見た目が百パーセント好みで従順なお人形さんタイプの女の子、どっちを愛人にする?」

「・ブハァァ!!!」

「おいやめろよ!汚ねぇなぁ! あぁあぁ。 もう、ああ、ああ。お前、ちゃんとデスクと床、掃除しておけよ?」

「す゛い゛ま゛せ゛ん゛ ゴホ ゴホ・・・・・・だって、木崎さんが変な事、言うから。」

「??? 別に変な事言ってないだろ? 愛人にするならどっちのタイプがいい?って聞いただけじゃねぇか。」

「あの、だから、それが、意味、分からないんですけど。」

「いやなに、瀬能さんが、男からモテるタイプの女には、二種類とプラスワンいるって話になってな。」

「男からモテる、女?」

「モテるっていうか、男から愛される女って言った方がいいかなぁ。結果、モテるんだけれども。二種類とプラスワン、いるらしい。」

「その、プラスワンっていうのは、いったい何なんですか?」

「ああ、奥さんだよ。奥さん。」

「奥さんも入れるんですか?・・・・愛人セレクションしているのに、本命を入れるんですか?」

「男に愛される女の元祖だろ?本妻なんて。 本妻あってのお妾さんだからな。」

「もう、何を言っているのか、よく、分かりませんけど。」

「だからな。瀬能さんが言うには、世の中には、歴史からみても、二種類プラスワン。あえて三種類と言おう。 三種類のモテるタイプの女が存在するんだ。まず、一人目が、マネージャータイプ。」

「マネージャータイプ?」

「このマネージャータイプ、秘書タイプの女は、とにかく仕事が出来る。言わなくても、こっちの痒いところ全部、手が届く。仕事の最高のパートナーだ。仕事ははかどるし、思い通りに動いてくれて、何より、仕事に関してはストレスがない。むしろ仕事を絶好調に運んでくれる。ただし、見た目はそれほど好みではない。顔が重要ではない。仕事をとにかく効率よくさばいてくれる。一緒に仕事をしていて楽しい。この人がいなければ、自分の仕事が回らない、頼れる存在だ。」

「はぁ。」

「それに引き換え、お人形さんタイプは、何も出来ない。とにかく何も出来ない。反対にこっちがお世話をしなくちゃいけなくなるくらい、社会性がない。食って、テレビ見て、寝るだけ。ただ、見た目がパーフェクト。顔も体も、夜の相性もパーフェクト。たぶん前世で徳を積んだんだろうなぁ。そのご褒美で、自分の理想像、そのまんまの女。理想を具現化した完璧の容姿を持った女だ。」

「へぇ。」

「お前、この時点で、どっちの子を愛人にする?」

「・・・・どっちにすると言われても。・・・・・うぅぅうん。」

「こういう話って人間性でるよな?」

「心理テストみたいなもんですか?」

「そんな高尚なもんじゃねぇよ。趣味の話だ。・・・・笹塚、どっち選ぶって聞かれて、悩むようじゃお前、出世しねぇぞ。」

「出世? ・・・・やっぱり心理テストじゃないですか」

「こういう話を出されて、”全部”って答えられない時点で、お前は、平民。小市民。一般人。・・・・出世はしない。諦めろ。」

「ちょっと、ちょっと待って下さいよ?えぇ? それじゃ心理ゲームにもなってないじゃないですか。」

「悩むって事はな、自分の想像の範囲内でしか、考えられないって事だ。その良い女だって、自分が想像する想定内の良い女だ。・・・・ろくに出世も出来ない男が想像する良い女が、良い女であるわけがない。・・・・・『あなたは世間を知らな過ぎですよ?』と瀬能さんに言われた。」

「・・・・瀬能さんに。物凄い上から目線ですね。」

「ああ。お前には言われたくねぇと思った。自分が良い女みたいな風に言うし、な。」

「僕はそこまで言っていませんけど・・・・」

「まぁただ、瀬能さんの言う事も一理あると思ってな。確かに、想像する良い女っていうのは、自分が過去見たり聞いたりしてきた、身近な良い女だ。そりゃそうだ、人口の半分は女だ。もっともっと凄い良い女がいるハズだってな。」

「それはそうですけど。・・・・見た事も会った事もない、良い女なんて想像できませんよ?」

「出世する男っていうのは、金もあるし余裕もある。なにしろ勝負勘がある。・・・行ける時には行くんだよ。どっちか選べじゃない。全部、俺のものって考えるらしい。」

「あのぉ否定はしませんけど、直感?って言うんですか、仕事が出来る人は、理路整然と物事をこなす上に、そういう感覚的なものを大事にしているっぽいのを感じますが、でも、女なら誰でもいい、ってそういうのは、倫理的におかしくないですか?」

「いや俺もそう思う。節操のない奴は俺は嫌いだ。」

「木崎さん。変な所で真面目ですもんね。」

「ただな、節操を気にしている時点で、出世のチャンスだとか仕事のチャンスだとか、そういうのを失っているって瀬能さんは言っているんだよ。どの口が言っているかは謎だがな。」

「自分の価値観で考えたら、そうなりますよね。そういう考え、最初から持っていませんもん。女の人を選べるなんて、人生で経験した事ないですもん。一人だってやっとだったのに。・・・・価値観の枠の中の、良い女が、良い女のハズがないですもんね。自分の合わせ鏡みたいなもんで。」

「そう! それなんだよ。笹塚、お前、頭、いいな。・・・・世の中の女、全部、自分のものみたいに思っている奴は節操も無いが、価値観も無い。だから、良い女も無限大。悪い女も無限大。可能性は無限大ってことだ。」

「出世は出来るかも知れませんが、仲良くは出来ない気がします・・・・・あの、自分と、考え方が合わなさそうで。」

「とりわけ、良い女の代表格が”仕事が出来る女”と”容姿が理想の女”だ。」

「・・・・・悩みますね。」

「ここで瀬能さんからのヒントだ。男が求める女の第一要件。それは価値観。次が話が合うか。」

「話が合う? ああ、分からないでもないです。」

「話が合うっていうのはな、価値観が一緒っていう事も含まれているが、何より、大事なのは、頭が良いって事なんだよ。何を話しても的確に答えてくれる。それは頭の回転が早くなければ出来ない芸当だ。・・・・昔から美人は三日で飽きるっていうが、頭の良い女は、一生、飽きる事がない。」

「ああ。なるほど。・・・・真に優秀なのは”仕事が出来る女”って事ですか。」

「優秀とかは関係ない。一緒にいる事で自分が出世できるし、一緒にいて飽きないし、良い事しかない”仕事が出来る女”が最適解だ、という事だ。」

「なるほど。」

「男は、顔よりそういう頭の回転の早い女を選んでいる、選んだ方が幸せだ、って瀬能さんが言ってた。」

「その・・・・幸せっていうのがひっかかるんですけど。それもあれですか、その、凡人の枠を出ないとか、そういう話ですか。」

「そうなんだよ。それ。・・・・仕事が出来る良い女を捕まえておくことが、多くの場合、幸せな人生を歩んでいけるって話だな。

実際、頭の良い、仕事が出来る女は、愛人にされやすい。・・・・されやすいっていうのは言い方が良くないな。お互い同意の下で、不貞を行っているわけだからな。」

「??? 話が急に僕の範疇を超えましたけど?」

「だからお前は出世できないんだよ、さっきも言ったろ? 男は頭の回転が早い女が好きだって。出世するような仕事が出来る男は、もう瞬間的に、自分とそれ以上の頭の良い女が分かるんだ。そんな良い女、金になる女、放って置く方がおかしいだろ? 金のある奴ほど、頭の良い女を囲いたがるんだ。・・・女だって、嫌な気はしない。だって、お前は頭が良いって認められているんだからな。ま、ただ、不貞の片棒を担いでいる倫理に耐えられるかは別の問題だがな。女っていうのはな、承認欲求の塊みたいな生き物なんだよ。お前の事が必要なんだ、お前がいないと駄目なんだ、なんて言えば、コロっていくんだよ。コロっとな。」

「・・・・そんな簡単な話ですか?」

「瀬能さん曰く、頭の良い女ほど、コロっと行くらしい。・・・・シャアの所のナナイとか」

「アニメの話じゃないですか」

「いやいや、パチンコ、競馬、おまけに無職。極めて社会不適合な人間に、何故か、貢いでいる女。あれはそういう類の共生関係だ。だめんずとか昔、言ってたアレだ。女本人は、こんなクズと別れたいけど、クズ人間であればあるほど、母性がくすぐられ、金は貢ぐは暴力を振るわれるは、セックスはやり捨てされるは人生としては散々だけど、人間として求められているから離れられない。ほら、九十年代のカルト集団の毒ガス事件。あれだって一緒だ。」

「木崎さんも言ったようにそれって共依存でしょう?決して良い関係ではありまえんよ?」

「そりゃそうだよ。倫理とか病的とかの話はこの際、関係ない。・・・・頭の良い女ほど、一度ハマると抜け出せなくなるって話だ。」

「・・・・・はぁ。」

「良い女を捕まえたかったら、お前も、人生の道を踏み外してみることだ。とびっきりの良い女が、コバエ取りの臭いに寄ってくるコバエみたいに捕まえられるぞ。」

「僕、コバエ取りになりたくないです。それに人生、踏み外したくないです。平凡でいいです、平凡で。・・・・良い女なんか寄って来なくていいから、静かに暮らしたいです。」

「それはそうと、お前は、”頭の良い、仕事の出来る女”を愛人にする、んでいいんだな?」

「なんで念を押すんですか?別に誰が愛人でもいいですよ、僕には愛人は分不相応です。」

「お前、つまらねぇ奴だな。愛人の一人や二人、欲しいと思わないのかよ?」

「いや、もう、・・・・・カミさんが怖いんで。カミさん一択で。」

「”容姿が理想の完璧な女”を愛人に欲しい男は、既に出世している、更に言えば、自他ともに認める成功者、権力者らしい。これから出世していこうというタイプじゃなくて、既に出世しきっているタイプがこういう、お人形さんみたいな、何も出来なくても良い女を選ぶんだそうだ。」

「はぁ。」

「富も名声も権力も全部もっているこのタイプの男は、正妻の他に、側室が何人いようとも別段、何とも思わない。一人が二人に。二人が三人。三人が四人になった所で自分の生活が変わる事がないからな。一夫多妻の典型的な思考らしい。家族が増えても困らないし、むしろ家族が多い方が、ステータスという面もある。何人子供がいようとも気にしないみたいだからな。」

「戦国時代の武将じゃないんだから。・・・・まぁ、世界でも珍しい制度ではありませんけど。」

「しいて言うなら、先進国でこれが行われると、財産やら相続やら大変になるから、あまり歓迎はされないみたいだけどな。家族イコール人材って考え方だから、家族は多いに越したことはない。

そうそう。だから”見た目重視の女”を選ぶ男は、時代錯誤だが男尊女卑の男根社会の考えをする人が多いようだ。悪いとは言わないが、な。見た目を重視しているって事は、女を女として見ているっていう、言ってしまえば、一番、男女の関係性として、純粋であると言える。女としての魅力を最大限、生かしているからな。」

「・・・・まぁ。人間、見た目が九割って言いますからね。」

「そう。見た目の魅力だ。もうそれだけに特化しているんだ。もう、成功しているから、二番目三番目の女は、最高の容姿。理想の女でいいんだ。・・・・仕事の相談をする訳でもないし、家事をやらせる必要もないし、ただ、欲しいのは癒し。女に求める物は癒し。癒しが欲しいんだ。お前、癒し、足りてるか?」

「足りてませぇん。絶対的に足りてません。癒し、欲しいです。」

「いいか?笹塚、”仕事が出来る女”はお前を出世させてくれる。”見た目が最高の女”はお前に癒しをくれる。・・・・さぁ、お前ならどうする?」

「・・・・あぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ」

「・・・・・はっはっはhっはっは」

「悩みます。そんな女の人がいてくれたら、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁ」

「お前みたいなサラリーマンじゃ無理だけどな。」

「・・・・・・・・・・。」

「お前は愛人を作れるタマじゃない。小心者だからだ。」

「それは木崎さんだって、お互い様でしょう?」

「まぁあなぁ。それは瀬能さんにも言われた。・・・・木崎さんは少し知恵が足りないから愛人は持てませんってな。」

「・・・・何でも言いますけど、瀬能さんはどこ目線で語っているんですか?」

「仮に愛人を持つなら、一人じゃ駄目だ。お前も聞いた事があるだろ?女を囲うなら、渡部方式だ。」

「渡部? 渡部篤郎?ケイゾクの? RIKACOの元ダンナの?」

「ちがう、アンジャッシュの方だ。多目的トレイは論外だけど、セコイしな。渡部で見習う所は、人数だ。女を囲うなら大人数。数は多ければ多い方がいい。数が少ないとすぐ本妻と裁判するとかそういう話になる。だけど、人数が多くなれば話がややこしくなる。三角関係は登場人物が三人だから角が立つが、頂点が増えれば増えるほど、真円に近づく。丸になるんだ。角が取れれば、丸く収まるって話だ。」

「ダジャレですか?」

「バカヤロウ、ダジャレじゃねぇよ。愛人は多くなれば、多くなるほど、裁判になった時、問われる罪の重さは人数分、重たくなるけど、抱える責任は反比例するように少なくなるんだ。責任能力が無いって判断されるからな。無責任って奴だ。無責任はいいぞ、無責任だから。責任、取れないから。」

「それは相手が呆れているだけでは?」

「それが目的なんだろ?相手を呆れさせるっていうのが常套手段なんだよ。だから愛人は多い方が良い。」

「・・・・あのぉ、ギャルゲーじゃないんだから、ヒロインの同時攻略なんて、現実的には不可能ですよ。特に僕みたいな人間には。」

「ああお前、ときメモでキャラ一斉に出して、爆弾処理失敗して、一人さみしく卒業式、迎えるそういう奴だな?・・・・詩織に悪口言われる。そういうタイプだろ?」

「まぁまぁまぁ。そうですけど。初回プレイはそうでしたけど。」

「笹塚、覚えておけよ。俺も瀬能さんから聞いただけだけど、女っていう生き物は、多面的ではないらしい。常に、一方向の顔しか、見せないんだそうだ。」

「また小難しい話を? どういう意味ですか?」

「女は役割分担が出来ない。コンピュータで言えばシングルタスク。常に、一つの役柄しか、こなせないっていうのが瀬能さんの理論だ。」

「はぁ。」

「さっきの話に戻るけど、どうして成功者は愛人を幾人も持つと思う? 一人一人、こなせる役柄が違うからだ。この女は”仕事に特化”この女は”見た目に特化”そしてこの女は”家庭に特化”っていう具合にな。一人の女が、全部の役割をこなせないから、一つ一つ細分化して、役割を与えるんだと言う。だから、愛人は多い方が、効率が良いんだ。」

「理に適っているような、適っていないような、」

「それに役割を分担した方が、女自身の存在価値が高まる為、お互いに喧嘩にならない。領分をわきまえる、お互いの領分に踏み入れない。専門家は専門家に任せる。・・・うまく愛人を活用するにはこの方法が最適化なんだと。まぁ軍隊と同じやり方だ。結局、組織化してくと、行きつく所は愛人であっても、軍隊と一緒になってしまうんだな。」

「・・・・はぁ。」

「ただし。ただし、それは指揮官が優秀だった場合だけだ。指揮官がクズな組織は、崩壊する。内部から崩壊する。・・・・優秀な人間は気づくんだ。自分の働きが活かされていないと。自分が最適な働きをするのに邪魔をする奴がいると。自分が最高のパフォーマンスをしているのに、他に足を引っ張られたら嫌だろ?女って生き物は、男と違って、全体として個という考えを持つ。全体のパフォーマンスが上がる事が、最大の喜びなんだ。」

「ああ、それは分かります。女子特有の仲間意識というか、女子特有ですよね、あの、結束力っていうのは。高校や大学の、集団競技で見る異様な結束力の正体がソレですね。」

「個だけが目立つのを良しとしない。反対に、個が足を引っ張るのも良しとしない。全体で最大限のパフォーマンスを発揮してこそ、女の快感が得られる、という仕組みなんだ。・・・男は個に走りがちだけどな。そこが違うらしいぞ。」

「・・・・そこは分かる気がします。」

「”頭の良い愛人””見た目の良い愛人””家庭を大事にする本妻”、各々が最高のパフォーマンをたたき出しているはずなのに、結果として、成果が出ていない。皆、おかしいと気づく。気づき始める。そして、その原因は、指揮官だと気づく。そう、自分達の君主であると。・・・・極めて優秀な女達は、欠陥の原因を排除する事だろう。その欠陥がなくなれば、自分達の最大最高のパフォーマンスを発揮できるのだから。な。」

「・・・・・ん?」

「女達の持つ組織力は万全だ。あなどれない。鉄壁だ。鉄壁。優秀であればあるほど、ネズミ一匹、髪の毛一本、通る事がない鉄壁の要塞を作るだろう。女達は、個が全であり、全が個だからだ。」

「ちょっと待って下さいね、木崎さん。僕も荒唐無稽の話としてまぁ、聞いてきましたよ。でも、それって、本末転倒じゃないですか。男と、愛人達だったのが、愛人達の方が主となり、主従逆転してしまっているじゃないですか。男の方が、搾取される側になっている。」

「そういう事だ。成功者、権力者の愛人ともなると、女の方も、完全無欠。完璧な役割をこなす女だ。・・・・愛人として女を飼い馴らすっていうのは、余程の手練れじゃないと無理なんだよ。」

「・・・・手練れ・・・ですか。」

「たぶん、何かの手違いで、いや、散々溜まっていた鬱憤が爆発した際に、軽い拍子にコロっといってしまったのかも知れないし、真相はその本人達にしか分からないけど、主人となる男が死んでしまったとする。・・・女達は鉄の結束力をもって、互いを守るだろうな。法律なんか通用しねぇぞ。女って生き物は、感情で生きているんだ。女の絶対は絶対だからな。絶対、墓場まで持っていくと決めたら墓場まで持っていくだろう?もう、そこに真実なんて無いんだよ。真実なんて、どうにでも取り繕う事が出来るからな。」

「・・・・あの、木崎さん?いったい、何の話をされているんですか?」

「いや、なに。瀬能さんが、さ。あの人も、なんだかんだ小渕さんの世話になってたらしい。イベントでよく顔を合せてたしな。ま、瀬能さんの方が、流石に愛人メンバーに入りたくないって言ったそうだけど。」

「・・・・誘われていたんですか?」

「ああ、十三号? 十三号は嫌だって言って断ったらしい。俺が女でも、十三番目は嫌だな。いくら生活を保障されても十三番目は。・・・・順位も付けられるしな。」

「小渕さん、何人、愛人がいたんですか?」

「よく知らねぇけどさ。小渕さんの供養に、仏像、彫ってるんだってよ。掘れるか、どうか、分からねぇって言ってたけど。若い、そういう愛人のしきたりを守れなかった女が新しく入って、女達の輪を乱したのか、当の本人がいよいよ女達にそっぽを向かれたのか、分からないけど、あの死に方はおかしいって、瀬能さんが。だからせめて供養してやるんだ、って言ってたぞ。」

「ちょ、ちょっと待って下さい。 え? それじゃ、小渕さんは? あの、心臓発作じゃないんですか?」

「だから俺は知らねぇって言ってるだろ? 死因なんて知らねぇよ。興味もねぇし。 奥さんが告別式で言うだろ?きっと。・・・・本当かどうかは怪しい所だけど。十三番目の候補様が怪しいって言っているんだから、怪しいんじゃねぇか。」

「あの、・・・・昨日か、一昨日、女の変死体が見つかったって。新聞に載っていましたけど?」

「変死体?・・・・・ああ、だから瀬能さん。仏像を二体、掘っていたのか。」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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