村の祭り(下)
「撃てーー!!」
(待って待って待って)
日ノ本退魔軍…と言っただろうか。
彼らは炎怪…いや、女性に向かって幾つもの旋風を巻き起こしていた。
しかし、火に風は逆効果。
怪異は風を取り込み、どんどん肥大していった。
「おい!鑑属師!本当にあれは土怪なのか!?」
長がその様子を見て取り乱す。
鑑属師と呼ばれていた右にいる腰の曲がった老婆に向かって属性を問う。
老婆は取り乱しながらも、攻撃を続けた方がいいという趣旨の事を話していた。
「撃てー!撃てー!集中砲撃撃てー!」
そして、軍が攻撃に集中している間に、老婆は馬と共に何か怪しい動きをしていた。
(あっ)
老婆がそのまま逃げていってしまった…。
彼らは騙されたのだろう。
このまま攻撃を続けていても、埒があかない。それよりか、怪異はどんどん成長してしまう一方だ。
「待って下さい!止めて!!」
声…はやはり届かないか。
これは想定済みだ。
後ろからそろりそろりと軍の長の元へ忍び寄る。そして、長の背後を奪った瞬間、大声で叫んだ。
「止めろぉぉぉぉーー!!」
「「!?!?」」
軍が一斉にしんとなる。
すると、長はキッっと私を睨みつけ、怒鳴りつけた。
「なんだ貴様は!今攻撃しているところだろう!危ないから下がれ!」
どうやら彼なりに心配はしてくれたようだが、今はそれどころではない。
「よく聞いてください。」
「あの怪異は“炎怪”です。風は全く逆効果です!」
ここにいる全員がポカーンとなる。
無理もない。さっきまでその他大勢だった一平民が軍の長に物申しているのだから。
「な、何を言ってるんだ!鑑属師が土怪だと…」
「その鑑属師サマはもういませんよ。逃げました。」
「なっ……!?」
そう。貴方は騙されたのだ、とふんぞり返る。彼らは渋柿を食べたような顔をして、完全に士気が下がっていた。
「長さん。どうか私に指揮を任せて貰えませんか」
「はぁ!?」
無理を承知で長に頼み込む。
長は鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、私をまじまじと見る。
「私は、“見え”ます。」
自分史上1番真剣な顔を作る。もう時間がない。このままでは女性が取り込まれ、完全に同化してしまう。
「……分かった。」
私の真剣な表情を見たからか、遂に長は私に指揮を託してくれた。もちろん、周りの反発は凄かった。
「はぁ!長!」「何やってんですか!」
「こんな小娘に出来るわけ…」
「静かにしろ!!」
「どうやら、こいつは“見え”ているらしい。まぁ託して見ようじゃないか」
「小娘に、続けー!!」
小娘にカチンとしながらも、その掛け声と共に、指揮を出す。
託されたこの思い、必ず繋げてみせる…!!
「水属性の方々、前へ!」
「貴方はあの右側を集中して放射!」
「貴方は左下を落として!」
見える、見える!
私は見ようと思えばその怪異の“急所”も見ることが出来る。色が薄い所は集中して守れていないところ。
そこを突けば、簡単に崩せる…!!
「ま、真ん中を狙わないのか?」
「女性に当たるでしょーが!!」
「ひっ」
ガッと長に怒る。全く、こんな人が長だなんて…。この国も心配だな…。
「ギイィィィィ」
「おぉ!弱ってきているぞ!皆そのまま続けろー!」
長が嬉しそうな顔をして声をあげる。皆攻撃が効いてきているのが分かり、より一層攻撃が強くなった。
「フ、フザけるナ!!」
「「!?」」
突然炎怪の色が濃くなり、さらに巨大化する。その姿はまるで膨れ上がる餅のように、ぶくぶくと大きくなっていった。
自我が戻ってきているのを利用しているのか…。こちらの水属性攻撃はさっきから弱まってきている。このままでは……
「ワたしハ、ワタしハ…!」
「もういいんだ佳代子!やめてくれ…」
「「!」」
声のする方を見ると、焦げた着物を着ている男性の姿があった。
あの喧嘩をしていた男性だ。1番近くで光に当てられたのに起きれるなんて、相当思いがないと…
「俺が…俺が悪かった…。頼む…戻ってきてくれ…。」
男性はそう言うと女性の方に歩いていった。
「お前、危な…」
「待ってください。多分、大丈夫。」
確かに、凶暴化した炎怪に近寄るなんて、危険の極みだ。
本当の正しい行動は、止めることなのかもしれない。
でも、ここは行かせなければならない気がするんだ。
「佳代子…ごめんな……」
男性が泣きながら女性を炎怪ごと抱きしめる。相当痛いはずだ。
「アア、ア、アぁ、、」
「あ、アなた…?」
「佳代子…!」
女性が涙を流し、男性を抱きしめ返す。気が付けば、炎怪は消えてなくなっていた。
その様子に軍には感動の空気が漂っていた。
「私、今まで…」
「思い出さなくていいんだ佳代子…。俺が…俺が悪かった…。本当にすまん…!」
「軍の皆さん、本当にありがとうございました。ご迷惑をおかけして、なんと言えばいいか…」
男性は申し訳なさそうに頭をかき、女性の方を愛おしそうな目で見ていた。
その様子が見れれば十分だ。
「あぁ、お礼ならこちらの少女に。彼女が指揮をとったんですよ」
げっ。要らんことを長が言う。
長はよく見ると端正な顔立ちをしていて、まるで女性のようだった。そして顔に見合わぬ屈強な身体。髪の毛は後ろで赤色の麻紐で結わいている。その藍色の着物は彼の姿をよく引き立てていた。
「いえ、私はしゃしゃり出ただけなんで…」
「そうなんですか!ありがとうございます!」
うっ、感謝されるのは未だに慣れないな、とつくづく思う。
「あと長!少女だって言うけど、私はもう18の歳です。」
小柄な体格のせいでまだ15そこらの少女に見えることが多いが、私はもう成人している。
「せ、成人してるのか…!?」
「はい。」
「そうか、それなら…」ぶつぶつ
何やら長がぶつぶつと考え込む。
「お前、後でちょっと話がある。」
「はぁ?」