村の祭り(中)
ヒューーーー……
ドォォォォー…ン
「さぁさぁ!お好み焼きだよぉ!」
若草色の花火が打ち上がったと同時に、おばちゃんの掛け声で、客が沢山入り込む。
おっちゃんが客足の多さにホクホクしている裏で、私たち厨房は大忙しだった。
「そっち!紅生姜足りない!」
「こっちは鰹節ー!」
おっちゃんの娘、もとい私の親友である桜子が次々に足りない物を指摘し、指揮を取る。
皆が慌ただしく動く横で、私はお好み焼きを焼いていた。
正直、お好み焼きを焼くのは簡単で、1番忙しいのは追加物。
私は材料を乗せたら狐色に焼き上がるまで、時間を待つだけなのだ。
ぼーっとしながら祭りの様子を眺める。
やはり、祭りはいいなという思いにふけっていると、なにやら奥に人だかりが出来ているのが見えた。
「ねー、桜子、あれなんだと思う」
「さぁ?知らんね。それよりタレ!!」
桜子は汗を拭い、忙しそうに厨房の奥へ戻って行ってしまった。
よく人だかりの方を観察すると、何やら深緑の着物が見えた。
深緑の着物…今日昼に出会った女性と同じだ。
もしかして…、と思い目を凝らしてよく見る。やはり、間違いない。あの女性だった。
隣には大柄で、青の半纏を着ている角刈りの男性の姿がある。どうやら…口喧嘩をしている様子だった。
周りが止めに入ろうとしているが、大柄な男性に押しのけられ、入れない。
構図は大柄な男性が小柄な女性を恐喝しているようだった。
「おめぇが飯作らねぇから!」
「わ、私だって仕事をしているんです!」
そんな声がこちらまで響いてくる。
その声はまるで喧嘩している猫のようで、祭りには不釣り合いな声色だった。
しばらく見ていると、男性の方に動きがあった。
「もう我慢ならん!」
「こっちだって!」
おー…
「こんのクソあまぁ!!」
あー…
「こうしてやる!」
カッ
あっ!
と思った時にはもう遅い。
男性が女性に殴り掛かりそうになったその時、真っ赤な光が村全体を包み込んだ。
1、2秒程し、目を開ける。
そして、目の前に広がるのは、おぞましい姿をした炎怪に取り憑かれた女性と、恐れおののき地面にへたり込んでいる男性の姿だった。
村の人は大勢が光に当てられて倒れ込み、なんとか立っていた人も肩をガクブルと震わせ怯えている様子だった。
「ギイィィィ!ゥちのコにテをダスな!」
(まずい、これは…)
心に完全に入り込まれている。
どす黒い赤、これは炎怪の中でも最上級に強い怪異だ。おおよそ、今まで溜まっていた物が吐き出されたんだろう。
これは水だけでは対処できない。
周りに頼れるのは村の警備の屈強な男たち。でも、怪異に物理攻撃は効かない。
…どうにかしなければ……。
「オマえら、ミナごロ、シに、シてや、ル」
(っ、完全に取り込まれてしまっている。)
(どうすれば……)
「風属性、前へー!集中砲撃ー!」
知らない男の声。
後ろを振り向くと、馬にのり、半纏を纏った帝国の武士達がいた。
炎怪に向かって旋風を巻き起こしている。
女性等気にも止めずに集中砲撃だ。
しばらくして、長であろう着物を纏った若者が口を開けた。
「我らの名は日ノ本退魔軍!怪異、お前を退治しにきた!」
(いや、風は逆効果なんですけど…!?)