表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘲笑う月  作者: てりやき
4/5

月と教授

「……どうですか?」

「うん、バッチリ」

 時刻は午後の八時。

 大学のすぐそばにある病院の裏には、学生が10名ほど集まっていた。

「校内の連絡用アプリを使ったの、失敗でしたね。教授の講義取ってる生徒、多すぎるんですよ」

「たしかに、何人居るんだろうね。多分、200は居るんじゃない?」

 そういえば、授業以外のことにあまり乱用するな、って言われていた気もする……

 まあ、これも授業の一環ってことにしておこう。

「それにしても、こんなに集まってくれるとは思わなかったな」

 俺は、まるで多くの弟子を持ったかのように錯覚した。

 というのも、弟子には、「我が子を預けられる責任感と、知的好奇心に溢れた童心を併せ持つ人材を集めるような文章を送ってくれ」と言ったのだ。

 そして、30分ほど掛けて、弟子はきちんとした文章を考えてくれた。

 悩みに悩んだのだろう。

 文章は、これだった。


 今日、日本時間午後◯時に、▢▢がある場所で会いましょう。範囲は市内すべてです。

 ◯のヒント:2005180925011109。二番目だけ、仲間はずれにする数。まずは、(教授の好きな数字の約数の個数)個に分けて見るんだよ。教授のエクセル特別授業受けた人ならヨユーかも?

 ▢▢のヒント:「◯のヒント」で仲間はずれにされた数を2()()で。ヒントとなる数字は、(教授の好きな数)−(教授の好きな素数)


「あれを読み解いた、ってことは……」

「数学好きか、俺の講義のマニアか。どっちかだろうね」

 ▢▢だけならまだしも、「◯のヒント」とか(好きな数字)に至っては講義の雑談のときにしか喋ってないから、きちんと話を聞いてくれていないと解けないはず。

 ……嬉しいねえ。

「じゃあ、そろそろ始めようか」

 パンッ!

 俺が手を叩くと、雑談をしていた未来の科学者たちは一斉にこちらを向いた。

「今日、ここに集まってくれたのは、ほかでもない、俺がただ新しい発明品を紹介したかったからだ」

 怖いほど大きな満月が、遠くで光っていた。

 月の輪郭をなぞるように、黒い線が現れた。

「俺が今掛けているこのメガネ。これが、今回の発明品だ。これは、簡単に言えば、円を見つけてくれる」

 額には嫌な汗が滲んでいた。

 少しめまいがしてきた。

「…………ふぅ」

 いや。

 取り戻すんだ。

 失った、自信、誇り、そして、熱量を。

「俺は、もともと数学者だったんだ」

 そうだ。

「今、こうやって化学(ばけがく)の教授やってんのは、数学の才能がなくて、他の奴らに手も足も出なかったから。俺は、逃げてきただけなんだ」

 すべてを打ち明けるんだ。

 自分の弱さ、愚かさを。

 俺が愚かだから、誰にも数学の魅力が伝わらなかったんだ。

 俺が弱いから、自分の発明を疑ってしまったんだ。

「……でも、俺は誰よりも、数学を愛していた」

 神様。

 申し訳ございません。

 少しの間だけ、この傲慢不遜な態度をお許しください。

「その美しさ、複雑さ、そしてその残酷さを、俺は愛してやまなかったんだ。だから今でも、未練がましく、数学のことばかり考えてしまう。このメガネは、そんな俺の傲慢さから生み出された、負の遺産だ」

 ただ、知ってほしかったんです。

 この地球(ほし)が、どれほど美しいのかを。

 そしてその美しさが、どれだけ数学に起因しているのかを。

「話を戻そう。今日は満月だ。あんなにきれいな球体が、月に一度、その全貌を見せてくれてるんだ。さあ、話は終わりだ。お菓子とジュースを……」

 俺はそう言って、後ろに置いてあったクーラーボックスを取りに行こうとした。

 その時だった。

 パチ、パチ、パチ、パチ。

 何事かと思って振り返ると、一番前で話を聞いていた子が、一定のリズムで拍手をしていた。

 と思いきや、その音はどんどんと大きくなっていき、気づけば全員が俺に拍手を送っていた。

「どうしたあ? 俺は、なんにも……」

 そこで、声が途切れてしまった。

「あれっ? おかしいな……」

 言葉よりも先に、涙が出てきて、どうしようもなくなって……

 固まったまま、ほろほろと涙だけが頬を伝って、落ちていった。

 パチパチパチパチパチパチ。

「……違うんだ……ちょっと待ってて…………」

 そうして、一人の女の子が歩いてきて、そっと俺のメガネを取った。

「教授。あなたはもう、一人じゃないんですよ」

 それだけ言い残して、彼女は生徒たちの元へ歩いていった。

「ここからは、教授に代わって、私が説明いたします。まずこれは……」

 俺はすべてを彼女に任せることにして、その場に倒れ込むように座った。

 そして、木々の隙間から見える空を見上げた。

「月が、綺麗ですなあ…………」

 そんな独り言は、一瞬にして、誰かの声にかき消された。

 残されたのは、この景色だけ。

「すげぇ!」

「これ、先生が発明したんですよね?」

「いや、すごすぎる」

 ……拭っても拭っても、止まらない涙。

 にじんだ光が、俺の視界をいとも簡単に埋め尽くしていった。

ここまで読んでくださった方、ご愛読ありがとうございます!

いやー……

正直、書き終わってから読み返して、全部消したくなりましたね笑。

書き直しても書き直しても、納得できなくて、諦めました……

本当は1000文字ぐらいの短編にしようと思ってたんですけどね、気づいたら5000超えてました。失敗でしたね。


長くなるとやっぱり、シーンが多くなっていって、その分考えることも増えていくんで、その場合は物語の流れとかをちゃんとプロットとして書かないといけないんだと思います。

今回はプロット無しで、日を何日もまたいで、結果、ごちゃごちゃ……

いや、もしかしたら、俺が気づいてないだけで、結構完成度高かったり?

感想、お待ちしております。

(あといいねもできたらお願いします)


次はもっと短い、短編出すと思います。

…………(だって、プロットの書き方よくわかんないんだもん)

「からっぽ」の連載の合間に、ひっそりと出すつもりです。

テーマも昨日決めました。

「トロッコ問題」で。

それでは、おやすみなさい〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ