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嘲笑う月  作者: てりやき
2/5

教授とメガネ

 俺は、これで世界を変えられる自信があった。

 けれども、どれだけすごいかは、やはり外部の人間による評価が無いとわからない。

 ということで、俺はありとあらゆる場所に出向いて、紹介していった。

「このメガネ貴方の見える景色が、世界が、変わることでしょう!」

 正直、初日、なんなら1箇所目で気に入ってもらえると思っていた。それぐらい、この発明を自負していたのだ。

 ただ、相手にするどころか、施設内にすら入れてくれなかった。

 たまたまだろうと思って次々と巡っていったが、何の成果も得られずに、そのまま1日目が終了。

 だけど、ここで終わるほど俺はヤワじゃない。

「……よしっ。やるか!」

 2日目。数撃ちゃ当たると思い、ありとあらゆる施設をしらみつぶしに回っていった。

 ただ、やっぱり初日と変わらず、骨折り損のくたびれ儲け。

「…………」

 その後も手を変え品を変え、果敢に挑戦していったが、時間だけが過ぎていった。

 3日目、5日目、8日目、13日目……

 気がつけば、21日。ピッタリ三週間経っていた。

「……なんでだ?」

 研究所・博物館・水族館を中心に、片っ端から潰していって、話を聞いてくれたのは科学博物館2箇所のみ。あと北海道さえ行けば、東日本をコンプリートするというところまでやったのに……

「メガネを手に取りもしないで、何が分かるってんだよ!」

 そう。

 そもそも、誰もメガネを手に取ってくれなかったのだ。

 やけくそ気味に、何も言わずにそこら辺の人にメガネをかけてもらったこともあったが、「普通のメガネ」だと言われて、思わず殴りそうになった。

 どうすれば、円が見えることの素晴らしさに気づいてもらえるのか。

 どうすれば、見える景色の美しさに気づいてもらえるのか。

 科学者の俺にとって、それはあまりにも専門外な(とい)だった。

「……はあ〜」

 そして結局、俺は大学に戻って、大人しく論文の続きを書くことにした。

 行き詰まったときは、敢えて一旦その問から離れてみるのも大事なのだ。

「本当に、申し訳()()ませんでした」

「……ん?」

「……あれ? なんか変でしたね。なんでしたっけ。申し訳、ございありません? 申し訳、ありませんございます?」

「ふふふっ」

「申し訳ございません、だ」

「あっ、そうでしたね! 申し訳ございません」

 大学側には、なんか、首の皮一枚というところで許してもらえた。三週間、音信不通になっても案外なんとかなったから、やっぱり、世の中なんとかなるもんなんだなと思った。

 弟子は、研究室に入った瞬間にビンタしてきたけど、いつもの説教はしてこなかった。多分、怒られた後で露骨にテンションが下がっていたから、気の毒だと思ったのだろう。

 まあ、兎にも角にも、俺は大学の一教授として、普通の仕事をする日常に戻ったわけだ。 俺は、これで世界を変えられる自信があった。

 けれども、どれだけすごいかは、やはり外部の人間による評価が無いとわからない。

 ということで、俺はありとあらゆる場所に出向いて、紹介していった。

「このメガネ貴方の見える景色が、世界が、変わることでしょう!」

 正直、初日、なんなら1箇所目で気に入ってもらえると思っていた。それぐらい、この発明を自負していたのだ。

 ただ、相手にするどころか、施設内にすら入れてくれなかった。

 たまたまだろうと思って次々と巡っていったが、何の成果も得られずに、そのまま1日目が終了。

 だけど、ここで終わるほど俺はヤワじゃない。

「……よしっ。やるか!」

 2日目。数撃ちゃ当たると思い、ありとあらゆる施設をしらみつぶしに回っていった。

 ただ、やっぱり初日と変わらず、骨折り損のくたびれ儲け。

「…………」

 その後も手を変え品を変え、果敢に挑戦していったが、時間だけが過ぎていった。

 3日目、5日目、8日目、13日目……

 気がつけば、21日。ピッタリ三週間経っていた。

「……なんでだ?」

 研究所・博物館・水族館を中心に、片っ端から潰していって、話を聞いてくれたのは科学博物館2箇所のみ。あと北海道さえ行けば、東日本をコンプリートするというところまでやったのに……

「メガネを手に取りもしないで、何が分かるってんだよ!」

 そう。

 そもそも、誰もメガネを手に取ってくれなかったのだ。

 やけくそ気味に、何も言わずにそこら辺の人にメガネをかけてもらったこともあったが、「普通のメガネ」だと言われて、思わず殴りそうになった。

 どうすれば、円が見えることの素晴らしさに気づいてもらえるのか。

 どうすれば、見える景色の美しさに気づいてもらえるのか。

 科学者の俺にとって、それはあまりにも専門外な(とい)だった。

「……はあ〜」

 そして結局、俺は大学に戻って、大人しく論文の続きを書くことにした。

 行き詰まったときは、敢えて一旦その問から離れてみるのも大事なのだ。

「本当に、申し訳()()ませんでした」

「……ん?」

「……あれ? なんか変でしたね。なんでしたっけ。申し訳、ございありません? 申し訳、ありませんございます?」

「ふふふっ」

「申し訳ございません、だ」

「あっ、そうでしたね! 申し訳ございません」

 大学側には、なんか、首の皮一枚というところで許してもらえた。三週間、音信不通になっても案外なんとかなったから、やっぱり、世の中なんとかなるもんなんだなと思った。

 弟子は、研究室に入った瞬間にビンタしてきたけど、いつもの説教はしてこなかった。多分、怒られた後で露骨にテンションが下がっていたから、気の毒だと思ったのだろう。

 まあ、兎にも角にも、俺は大学の一教授として、普通の仕事をする日常に戻ったわけだ。

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