不思議な宇宙少年と気苦労人形
ここは、宇宙。
宇宙の中にゼーンダ星という星がある。
その、ゼーンダ星から水晶のような物で地球を見ている獅子の姿をした動物型宇宙人が2匹、名前はそれぞれヤモとタモ。眼鏡をかけた獅子がヤモで、キリッと上向きの太い真っ直ぐな眉をしている獅子がタモだ。
それをみているカケルという人型宇宙人。不揃いの黒色の髪を襟足まで伸ばし、力強く太い毛がもじゃもじゃと生えている眉、そして、その面白い眉に反して静かでスンとした佇まい、その中の澄んだ瞳が印象的だ。
ヤモとタモの年齢は770歳、カケルは150歳。寿命は800歳~1100歳で大体地球人の10倍位だ。
カケルにとって、ヤモとタモは本当の両親ではないが、とても馬が合い、一緒にいると楽しく幸せだった。
カケルはヤモとタモが大好きなのだ。
ここは地球。日本の北海道札幌市だ。
冬水ユキは朝食を食べ、高校へ行くための準備をする。
ユキは色白で黒髪ボブの少女である。身長は158cm体重50kg。
ここはユキの親戚が大家の、すずらん壮というアパートである。
彼女はここに住んでいて、1階3世帯、2階3世帯が住めるようになっているかろうじてシャワーがついているアパートである。近くに銭湯がある。風呂に入りたくなったら銭湯へ行く。
4月の始めに隣の102号室に赤野家が引っ越してきた。ユキの所と同じく3人家族だ。父、母、息子という感じだった。そこの息子がユキと同じ積雪高校に通う1年の赤野カケルだった。カケルの外見は、黒髪がもじゃもじゃ頭にあって、眉毛、襟足にももじゃもじゃしていて、中肉中背。ユキにとって何となく気になる男子だった。彼は学校へ行くために自転車置場にきていた。ユキも早く行かないと学校に遅れるため、自転車置場へ行った。
「おはよう」
ユキは小さく声をかける。
「おっ、冬水、おはよう!乗っていくか?」
カケルは自転車の荷台を手でぽんぽんした。
「結構です」
ユキは少し声を小さくして自分の自転車に乗って学校へ向けて出発した。
カケルとユキは同じ積雪高校へ通っている。
同じクラスではない。ユキは1年4組、カケルは1年3組だ。
そして、カケルもユキもミステリー部に入っていた。
ミステリー部は3年生3人、2年生2人、1年生4人の部室がない不思議な部活だ。部長は週に1度、部員にメールで招集をかける。この世に起こる不思議なことや、事件などを部員みんなで追究したり、調べたりするのだ。
放課後になり、そのミステリー部が行われる。メールにより、部員が部長のクラスの3年3組に集められた。
ユキもミステリー部の活動を行うために、指定された部屋(3年3組)に入って行くと教室にいた部員はまだ、赤野カケルだけだった。
ユキはカケルに話しかけた。
「赤野くんはどんな本を読むの?」
「俺?俺はこれだ。」
そう言い内容はわからないがある日本のミステリー小説の文庫本を見せてきた。
『気苦労人形』
という題だ。
更にカケルは
『気苦労人形VSユイコ』
と書かれた文庫本も出してきた。もはや、気苦労人形シリーズは、シリーズものらしい。
「貸してやるよ」
なぜか『気苦労人形』と書かれた方の文庫本一冊を私に押し付けてきた。
えっ?
そう思っているうちに他の部員もちらほらとやってきたため、ユキはその文庫本を受け取った形になってしまった。
ミステリー部、部長の隼が皆にひとつの人形を見せてきた。教壇にその人形をコト…と置いた。
その人形は木で出来ていて、眼鏡をかけてスーツを着ていた。
「これは、気苦労人形と言われている。」
隼部長はそう言った。
「気苦労人形!?」
私達ミステリー部員達はそれをマジマジとみた。
「どこかで実在していた人物で、頑張りすぎて木彫りの人形になってしまったと言われている。」
「それをどこから手に入れたのですか?」
「ミステリー部あてに僕の机の上に置いてあったんだ」
部長はそう言って不思議そうな顔をした。
眼鏡をかけてスーツを着ている人物といえば、サラリーマンだろうか?ユキはそう思った。
その後の部活は終わり、家に帰ってその文庫本を読んだ。
「気苦労人形…」
私は声に出してその本の題名を読んだ。
気苦労人形とは、日本のある家庭の主婦の話で、色々家庭で気苦労の多い事ばかり起きて、最後は身長20cm位の小さな人形になってしまうという話だ。
ユキが借りた小説ではそれでラストで終わりになっている。
ミステリー部の気苦労人形とは違うけど、普通の人間が悩みを多く抱え過ぎたら人形になってしまうのかしら?とユキは思った。
赤野君のもう一冊持っていた本はたしか、気苦労人形VSユイコ、つまり戦い?をしてるわよね?どうなるのかしら。赤野君に本を借りよう…。
そう思っていた。
すると、自分の学校鞄から、さっきの木彫りの人形が出てきてびっくりした。
その木彫りはいきなり動き出したのでユキは「キャー」と叫び急いで家の外へ逃げ出した。夜遅くともにも関わらず今日はまだユキの両親は仕事で帰ってきていないのだ。
そこへ、カケルが隣の部屋から出てきた。
「どうした?」
「あっ、赤野君…」
「木彫り人形が動いているの」
「何だって!!」
二人で木彫り人形のいる、ユキの部屋に入った。
カケルは今は動いていない木彫り人形をガシッと手でつかみ、
「後のことは任せろ」
と言い、人形を持ってどこかへ行ってしまった。後からその人形をどうしたかというと、部長に伝えてから、近くの神社へお払いに持っていったそうだ。
そして、別の日の今は積雪高校体育の時間。3組と4組の合同授業で体育館にいて、男女混合のサッカーをしている。
今年から体育の授業が男女混合になったりもしていて、今は混合でやっている。男子達は女子達に気を使っているのが見える。
体力などの差もあるし、これなんで混合で授業をしているんだろう?やりにくい。
すると、サッカーのボールがユキの顔目がけて飛んできた。
あっ、ぶつかる!!
思わず目をつぶり、手で顔にぶつからないように守り姿勢をとった。
!
あれ、ぶつかってない…。
カケルがボールをうばい、走り去っていった。
今は3組と4組の試合をしていたのだ。カケルは敵チーム。
ボールがぶつかるところだった。助かった。
たまたま敵チームだったから偶然、ということもあるかもしれないが、何か守られている感がし、ユキはドキドキするのだ。
5月の3、4、5日のゴールデンウィーク中は、
ユキの両親が共働きで忙しく、ユキ1人暇なのでどうなるかと思ったが寂しくなく過ごした。桜でも観て散歩でもしようと、歩いてすぐの桜並木通りに行くことにした。
そこには、赤野カケルを含め男子3人がいた。彼らも桜を観にきているようだった。
カケルがいつもの調子で私に話しかけてきた。
「よぉ~」
「赤野君!」
「綺麗だよね、桜」
知らない男子が1人、桜の木の写真を撮っていた。誰だろう?同じ学校でみたことあるような気もするし…。
「あいつは、うちの学校の写真部の緑川ハヤタ、そしてこいつは青木セージ。みんな同じ積雪高校1年だ。」
「そうなんだ」
どうりで、どこかでみたことがある顔ぶれだと思った。
「何してるの?」
カケルにそうたずねると、花見だと言って照れくさそうにどこかに行ってしまった。他の男子も彼に続いていなくなってしまった。
「つるんでるのね」
何となく寂しくなり、中学の時からの親友にスマホで電話連絡をして、街でも一緒に行こうということになった。
※街とは大体札幌の地下鉄の『大通』駅周辺をさしていて、北海道の桜の開花時期は大体ゴールデンウィーク前後なのだ。
「ユキちゃん久しぶり」
そう言う親友は、走幅里由。速水女子高校1年生。同じくホラー好きの女子だ。彼女はアニメも好きだ。
二人でファーストフードのポテトをつまみながら、ハンバーガー展でおしゃべりをした。
私は里由にゴールデンウィーク中に予定がないことを話すと5月4日の明日、話題のホラー映画『気苦労人形』を観に行かないかと誘われ、行くことにした。
そして次の日、日本の最近話題のホラー映画『気苦労人形』を観ようとしていると、赤野カケルとその友人達も映画を観にきていた。
チケットを買う機械の前でばったり会ってしまったのだ。
何となく近くに座り、皆でホラー映画を観ることにしたのだった。
皆、映画館の売店でポップコーンを買い、ジュースを買い、楽しんで観ていた。
映画はなかなか怖かった。
観たあとは、皆でファーストフードで感想を語り合い、解散した。
ユキとカケルは同じアパートなので、帰り道も同じだ。
二人は何となく連れだって帰ってきた。
「今日のホラー映画、『祈祷師と気苦労人形』怖かったなァ~」
と、どこか楽しそうにカケルは言った。
「この間赤野君がかしてくれた小説『気苦労人形』の映画化の作品よね」
映画ではユキが読んだ小説とは違う、オリジナルストーリーで、次々に木彫りの人形の気苦労人形になり、それをある知らないおじさんとおばさんがビニール袋に入れて集めていて、人々を次から次へと人形にし、日常を奪うというものだった。それらを元に戻そうとする霊能者というか祈祷師が、今売り出し中の若手俳優で、人形よりも、彼の演技が注目されている映画だった。
人形はどちらかというとちゃっちくて、効果音とか頻繁に使っているにも関わらず人形の動きも全く迫力はなかった。
「祈祷師の顔が迫力あって怖かったよなァ
~」
「ほんとね。人形に焦点が当たっていなかったわね。」
ラストは祈祷師がただただ格好良くってどんな内容だったか忘れた。多分気苦労人形にされた何人かは元に戻ったのだろう。映画館では若手俳優の祈祷師バージョンのプロマイドみたいのが売っていた。気苦労人形ストラップも売っていた。
「原作の方の続き読むか?」
「原作?あ、小説の方?続き読みたいな」
気苦労人形の小説のシリーズ2作目からの本を貸してくれることになった。
楽しみだなぁ~。そうユキは思った。
次の日、ユキはカケルから数冊の文庫本を数冊借りた。
ゴールデンウィークの3日目の5月5日は気苦労人形の2作目~の続きを読んでいた。
2作目~気苦労人形VSユイコ(ユイコは主人公の主婦の娘)
3作目~気苦労人形VSハルカ(主人公の主婦の夫の愛人)
4作目~気苦労人形チサコ(主人公の主婦の名前)VS気苦労人形トモコ(初めて会えた自分いがいの気苦労人形、友人になる)
5作目~気苦労人形集団(他にも気苦労人形はいる。木彫りの人形を集めている金持ちのコレクターの家へ気苦労人形集団が皆で押し掛けて、勝手に動いて掃除をしている)
6作目~気苦労人形外国へ行く
結局ゴールデンウィーク中、退屈はしなかったし、すべて読みきれずに休み明けも読んでいた。
特に6作目の「気苦労人形外国へ行く」は、コレクターがお気に入りの気苦労人形カンナ1体だけを連れて外国旅行へ行くのがお決まりなのであるが、たまたま気まぐれに他2体、主人公の主婦チサコ人形と友人の気苦労人形トモコも外国旅行へ連れて行く。外国で主人公の主婦人形チサコは、ある貧しい家の小さな娘の相談相手として、友人のトモコ人形も、近所の奥様の所へもらわれていった。
というラストだった。
主人公の気苦労主婦人形チサコは、よく知らない貧しい小さな娘の相談相手として大事にされ納得だった。
気苦労人形は話したりも出来るのだ。
赤野カケルの家の玄関のベルが鳴り、カケルが出たらユキがいた。
カケルから貸りていた本をすべて読んだので返しにきたのだった。
「面白かったわ、ありがとう」
ユキはそう言った。
「うん。冬水お前今1人?」
カケルはたずねた。
「ひとりだけど?」
「俺今から近くの銭湯行くんだけど一緒にいかねぇ?」
「うーん、」
家のシャワーも飽きたし、夜更けだけどカケルと一緒だから怖くないから銭湯行こうかな。
二人でアパートの近くの銭湯に行くことにした。入る時に出る時間を決めて帰りも一緒に帰ってくるのだ。
各々が銭湯に入って帰り道、ユキがこんなことを言った。
「両親はいつも仕事でいないから、寂しかったけど、カケルが引っ越してきて賑やかになって楽しい」と。
そして、こうとも言っている。
「私も気苦労人形になりそうだけど、なった後の話し相手がいないしね」
カケルはそれにこう答えた。
「冬水の話し相手は俺がなってやるよ」
「頼むわよ」
ユキが冗談とも本気ともつかないように答え、小さく微笑んだ。
カケルとヤモとタモは三年間地球で地球人になりすまして過ごした。
カケルは積雪高校1年生、赤野カケルとして過ごし、ヤモとタモはカケルの両親として過ごした。
カケルは普通の高校生として日々を過ごしていた。
そして3年間高校生活を楽しんでゼーンダ星に帰ってきた。
手には可愛らしい木彫りの人形を持っていた。
その人形の名前を"ユキ"と呼んでいた。