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そうと決まれば、早速行動を開始したいけど…。
「今って何日なのかしら」
この部屋にはカレンダーが置いていないし、誰かに聞くしかないか…。
その時、丁度よく部屋の扉が開き侍女のソフィアが顔を拭くタオルと桶を持って入ってきた。
「あら、お嬢様おはようございます!もう起きていらしたんですか?」
「ソフィア!丁度良かったわ、今日って何月何日?」
「今日は2月16日ですが…どうかされました?」
「いいえ、ありがとう!」
突然意味もなく日付を聞いたものだから、ソフィアは意味がわからないという表情を浮かべている。
けれどそんなことはどうでもいい!
2月ということは、春から始まる社交界まであと2ヶ月…。私はそこで社交界デビューをする予定でいる。
「社交界、か」
「まあ、確かにそうですね!春になればお嬢様も社交界デビューできると、前から楽しみにしてましたものねぇ」
私の小さな呟きを拾ったソフィアは、パッと表情を明るくして言った。そして腰まで伸びたジェンキンス家に受け継がれるピンクブロンドの髪に、撫でるようにブラシを通す。
そういえば、1度目の人生の時は社交界デビューを楽しみにしていた。そこで運命の人と出会えるかも、なんて思っていたっけ。
…でも、まさかそこでジードに出会って散々な目に合うとはね。
「あと2ヶ月で新しいドレスを見繕って、髪飾りも準備して…ふふ、これから忙しくなりますわね!」
ジードとの事を考えてため息をついた私には気がつくことなく、ソフィアは2ヶ月後に行われる社交界デビューへ向けた準備のことを楽しそうに話していた。
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朝の支度を終え、朝食の為に食堂へ向かう。
グッ…と少しだけ重たい扉をソフィアが開くと、食堂にはすでに両親と年の離れた8歳の弟が座っていた。
「おはようございます、お父様、お母様、イーリス」
朝の挨拶を素早く終わらせイーリスの隣の席に着くとイーリスが、キラキラした笑顔をこちらに向ける。
「姉様!今日は僕がパンケーキをリクエストしたんだ!」
「そうなの?それは楽しみね、イーリス」
うん!と大きく頷くと、侍女達がキッチンから運んできた朝食を私たちの目の前に置いていく。相変わらず、イーリスは可愛い。
イーリスが言った通り、リクエストのパンケーキだ。
その他にスクランブルエッグ、サラダにスープといったバランスもよく考えられているメニュー。
口に入れなくても美味しいとわかる程、とてもいい香りに思わずこくりと唾を飲んだ。