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「あ、あれ……」


 俺は気付けばよくわからない場所にいた。

 一帯が雲のようなもくもくとしたものに覆われており、ところどころ青空も覗くような場所。

 地面も白い雲で、俺はその上に乗っていた。

 ……うん、現実離れしてますな。


「気づいたか仲村順一朗なかむらじゅんいちろうよ」


 俺がにわかに混乱していると、突如として近くから声がした。

 見てみれば、そこには一人のおっさんがいた。

 だがおっさんと言っても見てくれは悪くなく、まるで古代ギリシャの英雄かのような服装をしていた。


「えーっと、あなたは……すみません、僕は悪い夢でも見ているのでしょうか」


「いいや、そんなことはないとも。これは紛れもなく現実だ。まぁひとまず自己紹介からいこうかな、私は第十七宇宙界の管理を任されている神だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 おっさんは神だと名乗った。

 俺はそれに対し、違和感を覚えた。

 神というのなら、もっとすごそうな雰囲気を醸し出していてもいいんじゃないかと思ったのだ。

 

 だが俺は下手にツッコむのはやめた。

 こういうちょっと頭のおかしい感じの人は、気持ちスルーしてやり過ごすに限ると、俺は今まで生きてきた十七年間で学んでいたのだ。


「神様。すごいですね」


「まぁ大したものではない。私は生まれつき神で、いずれ死ぬ際もおそらく神のままだ。そういう定めに生まれてきたというだけのこと」


「それで、ここはどこなんですか?」


「ここは私が先程生み出した仮想的かつ空想的な世界だ。お前と話をするためにわざわざ生み出したのだ」


 よく分からないが、謎の世界に俺は呼ばれてしまったということか。


「どうすれば地球に帰れるんですか?」


「それはできない。なぜならお前は死んだからだ」


「悪い冗談はよしてくださいよ。僕はこうして生きてるじゃないですか」


「車に撥ねられて死んだだろう。既に車に敷かれていた猫を救出しようとしてな」


「………………あ」


 そういや思い出した。

 高校からの帰り道……道路に横たわってる猫と目があった気がして、近づいてしまったんだ。

 そうしたら急に横に車が現れて……


「思い出したようだな。まぁ気にするな。お前は悪くない。そもそもお前の横に車が突っ込んでくるよう仕向けたのは私なのだからな」


「……え」


「お前には一度死んでもらわなければならなかったのだ。とある世界を救って貰うためにな」


 なんだか急に話が飛んで、訳が分からなくなりそうだった。


「ど、どういうことですか。確かに僕は車に敷かれた記憶があります。それはあなたが仕向けたことだというのですか」


「そのとおりだ。まぁすまんかったな。だが運が良かったとも言えるぞ? お前は地球ではないが、別の世界における救世主になれる……かもしれないのだからな」


「……はあ」


「まぁ混乱するのも無理はない。では説明させて貰おうか。それを話すためにこうして呼び出したのだからな」


 そうして神様による説明が始まった。





 話を一言でまとめると、異世界に転生して、その世界の脅威を取り払い平和をもたらしてほしいということだった。

 どうにもその世界には魔族と呼ばれる存在がいるらしく、人間たちは日々そいつらと戦いを繰り広げているらしい。

 しかしここしばらくで、魔族側に魔王と呼ばれる最強の存在が誕生したことで、それまでの均衡が崩れ人間たちがどんどん押されるようになってしまった。

 人間側もなんとかこらえてはいるが、このままでは遠くない将来魔族陣営に滅ぼされてしまう。

 そうなる前に手を打つべく、俺を勇者としてその世界に派遣したいんだとさ。なるほどなるほど。


「まぁ多少の苦労は伴うかもしれないが、それ以上に富と名声、そして力のすべてをお前は手に入れることができる。どうだ? 転生したくて仕方なくなっただろう?」


「いや、全くその気にはなってこないんですが……そもそもなんで僕なんですか? わざわざ地球で殺してまで選ばれるような人材なんですか僕は」


「随分悲観的だな。まぁ確かに地球にいた頃はなんの力ももたないヘタレだったかもしれんが、魂というのは世界によって持つ適性が異なる。お前が今度生きる世界はお前にとってこれ以上ない適正を発揮できる場なのだ」


「そう言われましても……」


 俺は本当に普通の高校生で、武術も習ったことがなければ喧嘩のやりかたも知らない。

 不安でしかないし、やっぱり殺されたことに全然納得もいかない。


「大丈夫だ。お前は凄まじい適性を持っている。具体的にはとんでもない『鞭』の適正を持っている」


「はい……? 鞭……?」


「そうだ。『九つの勇者』というシステムがその世界にはあってな。剣や盾などそれぞれの武具を極めしものが九人集まったものがそれだ。お前はその中の『鞭の勇者』になってもらう。現在杖と鞭の枠が空いていてな。本当にちょうど良かった。お前という強大な存在が入れば前線はかなり安定し、魔王討伐も夢ではなくなる」


「えぇー」


 なんだかもう決定事項のように話が進んでゆく。


「鞭……鞭ですか……」


「なんだその反応は。適正だけでいえば、現最強の剣の勇者をも凌ぐものを持っているのだぞ。それほどまでにお前の鞭への適性は凄まじい。私も見つけたときは三秒くらい震えが止まらなかったくらいだ」


 そう言われても、活躍できるビジョンがまるで浮かばないし……そもそもそんな戦うって柄じゃないんだけど俺……


「まぁ安心しろ。最強の鞭使いなのだ。それに万が一魔族に破れ命を散らしたとしても、また替えの勇者を用意すれば良いだけのことだ! まぁまた時間はかかるだろうがな」


「切り捨てる気満々じゃないですか」


「簡単なジョークだ本気にするな。でもよくわからんな、その世界にゆけばおおよそ人間に存在する欲望すべてを手に入れることができるというのに。地球時代の腑抜けのお前では考えられないことだろう? それが神である私によって保証されているのだ。私がお前の立場なら喜んで飛びつくものだがな」


 欲望……か……。

 そう言われてもいまいちときめいてこない。

 今までだってそう多くを望んでこない人生だった気がする。そうだなぁ、でも強いて言うなら……


「……魔王を倒したあとは、どうなるんですか?」


「それは勿論世界に平和が訪れる。正確には、人間陣営の平和が、だがな」


「僕はどうなるんですか?」


「勿論、寿命が尽きるまでその世界にいることになるな。お前はもうその世界の住人なのだ。任務完了後は、お前の好きに生きるとよい」


 おそらく寿命も桁違いに伸びていることだろうしな、と神様は付け足す。


 そうかぁ。まぁ色々思うことはあるけど、なんか有無を言わさぬ感じだしなぁ……選択権もなさそうだし……はぁ、諦めるしかないか。


「で、どうなんだ。転生するのだろ?」


「わかりました。そこまで言うんでしたら」


 もういいや、いろいろ考えるのも面倒だ。

 地球での生活にはどのみち戻れないっぽいし、結局どう考えたところで異世界に行くことに行き着く気がする。よくわからないけどやればいいんだろ。鞭の勇者になればいいんだろ。


「そうか、信じておったぞ。まぁいろいろ説明もしてやりたいことだが、基本的なことは他の勇者共が知っているからな。そいつらにじっくり聞くとよい。魔族対人間の戦いは主にオルギア大陸で行われているがいきなりそこに飛ばして即死しても虚しいからな。まずは隣のユンフォニア大陸に送るとする。そこで戦闘の経験を積むとよい。まぁお前なら大丈夫だ。なんせ最強の鞭の勇者なのだからな」


「まぁ……わかりました」


 そうして俺はなんやかんやで異世界に転生することになってしまった。

 強い光が視界を覆う中で、俺は考える。

 異世界、か……何が待ち受けてるんだかな。まぁ、なるようになるか。






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