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2話 これからどうする

 ササハたちがリオークの屋敷に来てから、丸一日。

 現当主である夫人と、その一人娘の少女が《赤の巫女姫》の影響か、まるで別人のように性格が変わってしまったと、ここに来る前に聞かされた。それに合わせ、二人を刺激しないようササハはメイド姿で潜入することになったのだが。


「なんでリオまでコソコソしてるの? 自分の家でしょ、ご家族に挨拶とかしなくてもいいの?」


 場所は屋敷の奥まった一階。下働きの雇用人に与えられるには立派で、しかし客人として通すには少々奥まった不便な部屋位置。


「リオークは家出ニン。親フコウ」

「え?! 家出って、それ本当なの?」


 ササハに与えられた個人部屋に、カルアンからやってきた三名の客人がテーブルを囲み昼食を取っていた。


「ぅ……。挨拶とか、別にいらないでしょ」


 視線を逸しながらリオは言う。


「僕のせいで変に刺激しちゃっても嫌だしさ。自然の流れに任せるべきだと思うんだよね~」

「黙ってて出くわしちゃうほうが、びっくりさせちゃうと思うんだけど」

「お嬢サマの言うとおりダ」


 ミルクティーベージュの長い髪をゆるく一纏めにした女性――レイラが、甘い菓子を頬張りながらササハに頷く。


「ほんとに僕のことはいいから! お構いなく!」


 半ば無理やり話を切ったリオに、レイラがやれやれと眉を下げた。


「リオークに来てやったのも、当主サマのお望み。死ぬ気で頑張れヨ」

「お前もな!」


 レイラの言葉にリオが半目になる。その隣でササハは「当主様か……」と数日前のことを思い出していた。


 数日前。カルアンを発つ前に、ササハは現カルアン当主に呼び出された。カルアン当主であり、父やラントの兄であるヒュメイク・カルアン。一体どういった人物なのだろうかと身構えたが、ササハの緊張は空振りに終わり、()()対面する事は叶わなかった。


――“この事は決して外部に漏らされないようお願い致しますが、当主様のご容態はよろしくないのですよ“


 言ったのはコナー・トナーという男。ラントと同様、ヒュメイクの補佐をしている男で、ササハも数回だけだが話したことがある男だ。いつも仕事に追われ、移動も駆け足で忙しそうな男だったが――この時ばかりは声を潜め表情に影をつくっていた。


 ササハがリオとレイラと連れ立って訪れたカルアン当主の部屋。室内には大きな仕切りが視界を遮り、仕切りの外側には更に魔法結界が施されている様子だった。

 姿は見えない。けれど呼吸音にしては歪な、無理に呼吸を促されているような音だけが室内に満ちていた。


 レイラは結界のぎりぎりまで近寄り、しかし髪一本すら触れないように、慎重に、ほんの僅かでも距離を埋めるため身を寄せようとしていた。


 ヒュメイクはすでに、まともに言葉を話せる状態ではないらしい。この事はなんと、ラントすらも知らないと言うのだ。


――“すでにレイラより聞いていると思いますが“


 そう切り出したトナーの話は、ササハとリオ、レイラの三人でリオークに行って欲しいということ。


――“元はそこの馬鹿……いえ、リオークの坊ちゃんからの提案だったのですが“


 リオが提案したのは仲間集め。王家や教団が未だ様子見の姿勢を取っている内に、他家の《呪われた四体》のフェイルを退治してしまおうということだった。

 《呪われた四体》を退治など、そんなこと出来るのかと目を丸めるササハに、「ササがやるんだよ」とリオがあっさりと言った。そこで一悶着あったがトナーが「確証はありませんが、現段階で可能性があるのがササハ様だけなんですよね」と言うのでそちらには素直に黙った。


 そして赤い文字。フェイルが人為的に操作されている可能性も出てきたのだ。あまり悠長に構えている時間はないのかも知れない。


――“当主様もササハ様のご同行を、なぜか望んでいらっしゃる様子で……“


 そこで初めてトナーが戸惑った様に表情を崩した。


――“私も詳細までは分からないので、あとはレイラにお聞きください“


 彼女はヒュメイク様の騎士なので。そう言って、カルアン当主と直接の対面は無く、形すら整わなかった面会は終わった。その後はあれよあれよと出発に追い立てられ、まだレイラからはヒュメイクの望みの詳細やら、目的やらは聞けていないまま現状にいたる。


「てか、なんでレイラなの? レンのほうが良かったなぁ」


 ぶすくれながら失礼をほざくリオだったが、レイラはリオなど眼中になく新しい甘味へと手を伸ばす。これが二人の距離感なのかなと思いながら見守るササハだったが、レイラが砂糖たっぷりの揚げドーナツを三つほど皿に取る姿に、いつか病気になってしまうのではと心配になった。


「そう言えば、レンシュラさんの用事ってなんだったの?」

「え、……と、さあ? ボクニモ、ワカンナイナァ」


 リオが空惚けるのをササハは横目で見ながら、砂糖でベタベタになっているレイラに気づきナフキンを差し出した。

 リオが危なかったと息を吐く。カルアンを出る前、ササハはレンシュラに会いたがったが、リオはレンシュラはすでに用事でカルアンを出た後だとササハに嘘をついた。


「レンは今、あの新人君の野暮用に付き合って、王都のほうに行ってるんだよねぇ」


 新人君――ロニファンのことだ。ロニファンは騒動のあと、ササハの言う赤い文字について耳し、だが彼がそれを知った時にはササハはカルアンを発ったあとだった。

 ロニファンは覚えていたのだ。最初にササハと会った時、彼女が赤い文字が見えたから触ったと言っていたことを。


「僕のほうが、ずっと前から、それこそロキアにいる時から順番待ちしてたんだもんね。むしろ僕にとっては《赤の巫女姫》のほうがついでかな」

「なに? なんて言ったの?」


 レイラに気を取られていたササハに、リオは「何でも無いよ」と笑って返す。嘘をついてまで順番待ちを死守したのだから。

 もちろんレイラにはばっちり聞こえていたようで、胡乱な眼差しを寄越されたが気づかないふりをした。


「それで、これからは具体的に何をしたらいいの?」

「ああ、それは――」


 ササハとレイラはメイド服を着ているが、あくまで目立たぬようという理由のみだ。現在屋敷の雇用人の数は極端に減らしており、その残り少ない雇用人たちには周知してくれているらしい。


 調べ物をするにしても、具体的にどこを、どうやってとササハが疑問を口にした時。


「ほら。あっちから来てくれたよ」

「足音がウルサイ。相変わらずダナ」


 走っている訳では無いが、力強い一人分の足音。リオとレイラは知ったようにげんなりとし、ササハだけが不思議そうに扉へと振り返る。

 近づいてきた足音はスピードを緩めることはせず、その勢いのままノックもなしに扉が大きく開かれた。


「ノア・リオーク!!」

「ああ、もう……ほんと煩いのが来ちゃった」


 開け放たれた扉の向こうには、白い騎士服を纏った一人の男が立っていた。

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