23話 助けて先輩
「まゆげ先輩、助けてください!」
「ウルベだ!」
ハートィとウルベの決闘から翌日。ササハは咄嗟に名前が出てこなかったウルベに、懇願の眼差しを向け見上げた。
一日の終り。全ての訓練後。
今日の訓練からカールソンが戻って来たが、顔色は相変わらずだったため、暇をしているレンシュラが代わりを務めた。訓練生とリオは意義を唱えたが、咎めはしないから手を抜きたいなら抜け、と言われ苦々しい表情で受け入れた。カールソンは温かい格好で、ただそれを眺めていた。
そしてササハとハートィを除く三名が、筋肉痛を引きずっている今。
「振り分け試験まで、あと二週間しかないんです!」
ササハは、未だに透明の棒でしかない特殊魔具を握り込み、改めてハートィに謝罪に来たウルベを捕まえ泣きついた。
「わたしの特殊魔具、短い鈍器でしかないんですよ~」
ササハは追い込まれていた。
これまでの三週間。一人だけ何の変化も成長もなく、カールソンを始めリオやレンシュラ、グラントにまで相談してみたが、特殊魔具は一度取った形から変化するのは稀だと、ただ哀れみの眼差しだけを返された。
「ハートィとウルベ先輩は形が変わるじゃないですか。あれってどうやってるんですか?」
ウルベは話しを聞いてやるとは言っていないが、服の裾をササハにがっつり掴まれている。ハートィからもお嬢さんの為にと、懇願の眼差しを向けられ、場所は訓練場。昨日無様に敗けた相手と対峙するウルベに、それなりに野次馬の視線が集まっていた。
訓練場にはリオとレンシュラ。今日はササハに付き合ってくれるのかミアと、興味が勝っているのかロニファンも残ったままだ。
「先輩!」
これはササハ。
「先輩!」
こっちはハートィが。二人揃って、キラキラお目々でウルベに訴えかける。
「ハートィに教わればいいだろ」
「ウチでは上手く言語化出来なかったっす!」
確かに無理そうだとウルベは顔をくちゃっとさせる。ならばと、リオとレンシュラの方を振り返ると。
「僕は変形は出来ないよ」
「俺もだ」
「だが、貴方たちならやろうと思えば」
「別に今のままでも困って無いから、やろうと思えなーい。だから無理だろうなー」
「俺もだ」
「どいつもこいつも、何なんだ! 可愛い後輩のために頑張ろうとか、そもそもだ! 昨日の今日だぞ!? 俺はここに来るだけで、どれほど気まずいか!」
ウルベの必死な叫びに、「そこをなんとか!」とササハが食い下がる。なんだこの根性。ウルベは面倒そうに大きなため息を吐き出した。
コイツは離さない。それは以前ハートィに絡んだ時に、嫌というほど思い知った。
嫌そうにウルベが広い方へと歩き出したのに従い、ササハは笑顔で「ありがとうございます!」と礼を述べた。
レンシュラが「お前たちも声を拾える距離で聞いていろ」と、ミアとロニファンに声をかけ、ミアは遠慮がちに、ロニファンはだるそうにしながら距離を詰めた。
ミアとロニファンの二人も気づいている。現在受けている指導は、通常のものではないと。特級騎士二人に、出来る人物は稀と言われている特殊魔具の変形が出来る二人の話し。
関係ないと意地を張るほうが愚かだ。
口で語るよりはと、ウルベは特殊魔具を具現化させる。ササハは邪魔にならない程度に後ろに下がった。
「これが通常の状態だ」
大きなトゲの突き出た球体。昨日、最初に具現化した時と同じく、ウルベの倍ほどの大きさをしている。
「基本、第六魔力の使用量は一定だ。球体部を小さくすれば鎖が伸びる」
言って実際にやってみせてくれる。小さくなった球体に対し、その分鎖が伸びた。
「トゲだけ伸ばしたりは出来ますか?」
「トゲだけ? ……いや、やったことはないが、そうだな、無理のようだ」
返答しながらも試してみたのか、すぐに否定が返る。
「丸いところを小さくして、その分トゲだけ長くするみたいな」
「出来ない。恐らく訓練をすれば可能かも知れないが、俺はそれに利便性を感じない。だから今後も出来ないだろう」
「便利だと思わないから、したくないってことですか?」
「したくないと言うより、無意識下の否定が邪魔になる」
そこでウルベは一度黙った。なんと伝えれば良いのか思案している様子だ。しばらくしてウルベが口を開く。
「特殊魔具は第六魔力を具現化させたもの。だが、それは毎度使用者が形を想像し作り出しているのではなく、魔石に形状が記憶された状態と言えるだろう」
ササハは不思議そうな顔をしながらも頷く。
「だから使用者が魔力を流せば勝手に具現化する。特殊魔具の形状変更は稀だと言われているが、理論上は不可能なことでは無いと思う。ただ変更したいと思っても、何も考えず魔力を注ぐだけの状態と、本来ある形を壊し新しく作り直しながら注ぐのとでは、手間がだいぶ違う」
「よく分かりません!」
「ぐ……っ!」
物分りの悪いササハに苦戦するウルベに、レンシュラが助け船を出す。
「カタシロで考えてみろ。布や紙で形を作ったカタシロに魔力を注げばいいだけのものと、魔力を具現化させカタシロを作り動かすのと。どちらが大変だ?」
「あ! 魔力だけのカタシロ!」
ササハには出来ないが、カエデが昔にやっていた。第六魔力だけで作ったカタシロ。ようやく納得したササハに、ウルベは腑に落ちない表情を浮かべる。
「つまり特殊魔具は、カタシロみたいなものなんですね」
「カタシロって何なんだ……」
「先輩。そこは今重要じゃないっす」
教えてやっているのに扱いが雑だ。
(そっか……。魔力だけのカタシロと似たような感じ)
ササハはぎゅっと、自身の特殊魔具に力を込める。解決した訳ではないが、なにか納得したように、ウルベとレンシュラの話はササハの中に落ちた。
「ありがとうございます! わたし、なんだかやる気が湧いてきました!」
ササハは感謝の言葉と共にウルベを見上げる。その姿はかつてウルベがまだ班長として働いていた時、今では自分を打ち負かすほどに成長した可愛くない部下を思い出させ表情が緩む。
やるぞと意気込むササハの元に、ハートィとミアが励ましの言葉をかける。
「用が済んだならもういいか?」
ウルベはすでに帰る気満々で半歩、足が入り口の方へと向いている。しかし、ササハはそれを普通に止める。
「なんでですか! やる気が出たって言ったら、これからじゃないですか!」
「知るか。と言うか、これ以上伝えられる事は何もない」
「忙しいんですか?」
「………………、いや。仕事上がりだが」
「なら良いじゃないですか!」
「気分的に嫌なんだ!」
「ハートィ!」
「先輩のケチ!」
「ぐぅっ……!」
簡単に嘘が言えないウルベの敗けである。その後ウルベは、見えないけれど触れるササハの特殊魔具に驚き、一緒になって頭を捻ってくれた。




