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16話 もう

 認識阻害の効果は万能ではない。あくまで使用者に対する認識が曖昧になるだけで、魔法と相性が悪い人物や知り合いなど、気づく人は普通に気づく。


 なので先程ブルメアがラントの知り合いらしき人物に声を掛けられ、仕方なく離脱していったのもしょうがない。し、ハートィとブルメアを待とうと突っ立っていたら、今度は認識されなさすぎてササハが人にぶつかり、謝ったり流されたりしている内にハートィと逸れてしまったのも致し方ないことだ。


「う~ん、これは後で絶対に怒られるやつよね」


 ササハは途方にくれた気持ちで、ただしポーズだけは仁王立ちで街並を眺めた。結局ミアもまだ見つからないし、疲れたなとため息をつく。


「あの……」


 背後からの声にササハは振り返る。


「あ、やっぱり。さっきミアちゃんと一緒に居た方ですよね。良かったぁ」


 居たのはカレンと、フェンと呼ばれていた青年。


「少しお話させて頂きたいんです。ミアちゃんのことで」

「ミアのことで?」

「はい。私、彼女のことが心配で……ぐす。あの子とは同じ学校のクラスメイトだったんですけど、でも急に学校を辞めてカルアンに行っちゃって…………」


 突然涙を浮かべ語りだす。ササハに話していたはずなのに、カレンはすぐ隣にいたフェンへと縋った。カレンは健気に目元を拭い、フェンに微笑みかける。

 ササハは本当に何の用事なんだろうと静かに待つ。


「すいません。急に泣いちゃったりして。辛いのはミアちゃんなのに、私が泣くなんて変ですよね」

「そうですね」

「え?」


 カレンが驚いた表情を浮かべる。涙はすでに引っ込んでいた。


「あ、えっと、ミアちゃんなんですけど……あの、あの子大丈夫でしょうか? ミアちゃん――不安定なところがあって」


 カレンはすぐに眉を下げ俯くと、不安げな声でミアの心配を口にする。その小さく震えている肩を、フェンが優しく抱き支えた。


「カレンは本当に優しいね。不安定だなんて、本当の事を教えてあげたらいいじゃないか」

「なに言ってるのよフェン! 結局、あの事件はミアちゃんのせいの可能性があるってだけで、断定までは出来ないと先生方も仰っていたでしょう」


 あ、これは聞かなくてもいいやつだと、ササハは心の扉を閉じた。


「それにミアちゃんは大切なお友達だから。私はミアちゃんのこと信じてるわ」

「カレン」


 涙は引っ込んだはずなのに、なぜまだ泣き真似を続けるのか。ササハは面倒な人だなとため息をつくと、リオのよくやる作り笑顔を真似て手を振って見せた。


「ミアは元気にやってますので、なんの心配もないですよ。じゃあ、わたしはこれで」

「え? ちょっと」

「お前、まだ話は終わってないだろ!」


 フェンが引き止めるためササハの腕を掴んだが、ササハはそれを振り払う。ちゃんと手加減して。先程はこんな二人を連れてミアを追いかけようとしていたなんて、あの時の自分を本気で殴りたくなった。心の中でミアに全力で謝罪する。


 ササハは胸の内に湧いた苛立ちを、相手にぶつける前に退散しようとカレンを見る。それをカレンはどう捉えたのか、口の端を持ち上げ早口にまくしたてた。


「ミアちゃん、前の学校で問題を起こして学校に来れなくなったんです。だから、今一人で苦しんでるんじゃないかって、私……うぅ。――――ねえ。貴女ミアちゃんが今なにをしてるか知っているんでしょ? あの子今どうなって」

「なんでそんな楽しそうに聞くの?」

「へ?」

「そこの窓ガラスで確認してみなさいよ。あなた、すっごい意地悪な顔してる」


 衣料店の幅の広いガラスに何がそんなに楽しいのか、歪な笑みを浮かべるカレンが映っている。流石にまずいと思ったのか、カレンはすぐに笑みを引っ込め、しかしガラスに映ったカレンの姿を見たフェンは引いている様子だった。


「酷い……そんな、人の容姿を馬鹿にするなんて」

「容姿じゃないわよ。性根の事を言ってるのよ」

「なっ」

「わざわざわたしのこと探してまで、ミアが今も辛い思いをしてるか確認しに来たんでしょ? 本当に嫌! 不愉快! これ以上わたしの大切な友達に付きまとわないで!」

「っ――アンタ! 平民の分際で、誰に口きいてるのかわかってんの!」


 カレンが大きく手を振り上げる。これくらいなら避けれるとササハは後ろに下がり、弾力のある壁にぶつかった。


「何してるんすかお嬢さん!」


 後頭部がやわらかな双峰に埋もれ、顔を上に向ければハートィの顔があった。体勢を立て直し振り返ればハートィだけではなく、ブルメアと――そして、ミアの姿もあった。

 カレンのほうは手を振り上げたままの姿で静止ししている。ブルメアが何かしたのか、指揮棒の様な魔道具をカレンへと向けていた。


 カレンも、フェンも、ブルメアを見て顔色を失くす。顔を知っているわけではなく、ただ、身につけているものから、声を荒げていい相手ではないと察したようだ。ブルメアが確認するようにカレンとフェンを見、フェンは素早くカレンから距離を取ると表情を強張らせた。


「あ、あの。俺関係ないんで。ただ、この女に誘われてついて来ただけで……」

「そう。なら邪魔よ。消えて」

「は、はい!」


 カレンは魔道具のせいで喋れない。フェンはあっさりとカレンを見捨て、人混みの中へと消えていく。ざわざわと、ササハと言い合っている時から人の視線を集めていた。ブルメアが魔道具を引く。


「貴女ももういいわ。さようなら」


 開放されたカレンが、取り繕わずブルメアを睨む。


「あと、文句があるならお好きにどうぞ。私の屋敷は、あの丘の向こうにあるから。是非ご両親と一緒にいらしてね」


 しかし、ブルメアが私の屋敷と魔道具で指したのは、カルアン領主の屋敷がある方角で――。カレンの顔色はほぼ白へと変わった。もう彼女の目にミアは映っていなかった。


 逃げるようにカレンは立ち去り、ササハは安堵の息を吐く。人の目が煩いわねと言うブルメアの一言に、注目から逃れるように馬車への道を急いだ。


「もう! 貴女はすぐ騒ぎを起こすんだから!」

「なんでよ。わたし悪くないじゃない」

「お嬢さん。だからあれ程、手を繋ごうって言ったのに」

「繋ぐ前にハートィが逸れちゃったんでしょ!」

「ウチじゃないっす。お嬢さんが逸れたっす」


 誰も、何もミアに言わない。言ってもいいけど、訊いてもいいけど、それはミアに委ねてくれる。


「あ、ミアが泣いてる。わたしハンカチあるよ」

「だから、そういう事は口に出さないものよ」

「そうなの?」

「ハンカチは引っ込めなくていいの。全く」


 言ってブルメアも白地に繊細な刺繍が施されたハンカチを、走りながら差し出してくる。


「わわ、お嬢さんたち女子力が高すぎるっす! どうしよう、ウチ、シワシワのハンカチしか――て、これ前に洗濯したのいつだっけ」

「不衛生よ! 帰ったらすぐに洗濯に出しなさい!」

「はいっすぅ!!」


 ブルメアのハンカチなんて怖くて受け取れない。ササハはすでに無理やりミアの顔面に押し付けてくる。

 ハンカチに顔を埋めたミアが立ち止まった。


「みんな……ありが、と……」


 もう会いたくなかった。あんな人たちのために、自分の時間も、心も犠牲にしたくなかった。

 鼻をすすり、しばらくしてから顔を上げたミアは、気恥ずかしそうに視線を逸らすと再び走り出した。


「ちょっと、なんでまた走るのよ。私、これ以上、は」

「おんぶしてあげようか?」

「いらないわよ!」


 ブルメアが乱れた呼吸でササハに怒る。


 ミアは今の表情を見られないよう先頭を走った。



ブルメア様の護衛A、Bの会話

A「ひん! ササハお嬢様が何者かに絡まれてるぅ!!」

B「カイレス卿が対応出来る距離に詰めたから様子を見よう」

※止む終えない場合以外は、存在をないものにしろと(ラントに)言われてます


A「ブルメアお嬢様が格好良すぎるんだが??」

B「(なんだあの塊、尊い……)なんだあの塊、尊い……」

A「塊?」

※女の子がわちゃわちゃしている塊


みんな走るのが速い!

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