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13話 女子の集い

「んぅ~! 美味しい~!」


 週終わりの七の曜日。唯一訓練がない日。つまりは休日。


「誘ってくれてありがとうね、ブルメア!」


 しっとり滑らかなクリームを頬張り、ササハが満面の笑みで言う。


「あ、あたしもご馳走になって、本当に良かったの? こんな高そうなお店……」

「もちろん! ――良かったよね、ブルメア?」

「ええ。遠慮せず、好きなものを頼んで頂戴。元はお父様に対する、営業――ご招待だから、楽しんでもらえたほうが報告しやすいわ」


 とブルメアは言うが、ただササハと一緒に出かけたい。の一言が言えないブルメアのために、口実としてラントが用意した嘘のご招待だ。もちろん店とは事前に口裏を合わせているが、ブルメアは微塵も疑っていなかった。


「今日は女の子同士、甘いもの食べて交流を深めましょ! ブルメア本当にありがとー」

「あ、ありがとうございます」

「ウチは女の子って歳でも無いんすけど……仲間に入れてもらえて光栄っす。ありがとうございます」

「お礼なんていいのよ。本当に、お父様に頼まれただけだし」


 ルティーアの街にあるスイーツショップ。貴族御用達のお店らしく、二階建ての立派な店構えである。一階は持ち帰り品などの販売スペースで、二階はカフェスペースとなっていた。

 しかし、ササハたちがいるのは一階にあるテラス席で、特殊な魔法石で結界を張った常時一組だけの特別席であった。


 店からも少し距離があり、横を向けば整えられた庭園がある。庭園にも自由に出入りが出来、自然が好きなササハもご満悦である。


「でも、ミアが一緒に来てくれて嬉しいな。もしかして甘いもの好きなの?」


 ササハが振り返り、問われた言葉にミアが徐々に顔を赤くさせ、バツが悪そうに小さく頷いた。


「わたしも甘いお菓子大好き!」


 恥ずかしそうなミアに、ササハは満面の笑みで同意を返した。ハートィが苦笑し見守っている。

 ブルメアは逆に甘い菓子は好まないのか、紅茶に砂糖もミルクもいれず、甘さ控えめのスコーンを食べている。ササハはそれにジャムやクリームをかけたが、ミアはさらに蜂蜜や砕いたチョコをトッピングしたりとてんこ盛りだ。


 ミアが自分の皿に乗っていたケーキとスコーンを食べ終わり、もじもじと恥ずかしそうにしている。


「ミア、今度こっちのケーキは? さっきブルメアと半分こしたけど、おいしかったよ」


 ササハが中央に置いてあるケーキスタンドを指差す。


「ウチが取りましょうか?」

「甘いのがお好きなら、そちらのショコラケーキもおすすめよ」


 ハートィとブルメアにも勧められ、ミアは更に赤くなりながらも皿を浮かせた。


「あたしばっかりがっついて、意地汚いのは分かってるんですけど…………、ここのケーキ、美味しすぎて……ごめんなさい」

「貴女、そんなこと気にしていたの?」

「そんなこと言ったら、わたしだって同じだよ。けど、折角美味しいもの頂いてるんだから、ありがとう! 幸せ! でいいじゃない」

「お嬢さんの言う通りっす!」


 ミアは少し逡巡したあと、浮かせた皿を前に突き出した。そこにケーキトングを持ったハートィが、「いっぱい食べるっす」と色々乗せてくれる。ゆっくりしたいという事で店員は下がらせているが、呼べばいつでも来てくれる。


「飲み物の追加を頼みましょうか」

「わたし中の人に言って来るよ。ついでにお土産も見てきていい?」

「なにか気に入ったものでもあった? わざわざ行かなくても此処へ呼んで、追加注文と一緒に頼めるわよ?」

「ううん。お菓子を持って帰りたいんじゃなくて、ラッピングが可愛かったからみたいだけ」

「そう……ラッピング……」

「ブルメア?」


 こっそりお土産を用意したら喜んでくれるかしら、とブルメアが呟く。


「なら注文は私がしておくから、見に行って来るといいわ」


 言われてササハは素直に頷く。ササハは軽い足取りで店内へと入っていった。すかさずブルメアはメニューを頼み、ハートィに手伝ってもらいながら品を選ぶ。ミアも選んでいいのよと言われ、ミアは恐縮しきりだったが、結局クッキーの詰め合わせを遠慮がちに遠慮なくお願いした。


 そんなやり取りはつゆ知らず、ササハはカラフルな店内に興奮を滲ませる。

 建物自体は淡いクリーム色。ケースの中には様々な種類のケーキ。壁に備え付けられた棚には、可愛らしく、かつ上品に包装された土産物は見ているだけで気持ちが弾んだ。


 価格設定が高いためか、混雑している訳ではないがそれなりにお客もいる。ササハは迷惑にならないよう移動し、来店音がしたことから入り口へと視線を向けた。

 入り口近くは中が見えやすいよう、大きなガラスが四枚続き、その一番端に扉が続く。扉の上にはベルがついて、そのベルが鳴る扉から一人の男が店の中へと入ってきた。


「ンフフ。やっぱりササハ君でしたか」

「先生!」


 入ってきたのは、屋敷で家庭教師をしてくれていた恩師。ケイレヴだ。開いているか分からない、つり上がった糸目に特徴的なメガネ。左顎にはホクロがあって、ササハにスケッチブックをくれた人物だ。


「お久しぶりです、先生」

「はい。お久しぶりです」


 ケイレヴは通常でも笑っている様な表情なので、二人ニコニコする。


「先生、今日なんかお洋服白いですね」

「はい。これはお仕事着なんですけど、途中で抜けて来ちゃいました」


 それは良いのかと思うが、本人は笑顔なので問題はないのかも知れない。

 それに――


「先生のお仕事って?」

「神殿に来る人たちとのお話です」

「神殿……」


 今日のケイレヴは白いフード付きのローブに、金糸の刺繍。何故か頭には五分の一ほど欠けている花かんむりに、胸元には紫色の魔石がついた装飾品。

 ササハは最近、この衣装を着た人物と会った気がする。

 そう。


「大神官様?」

「はい。先生は先生で、大神官様ですよ」

「えぇっ!? そ、知りませんでした!」

「ンフフ。ビックリしましたか?」

「ビックリしました!」

「それは良かった」


 良くはないが、確かに驚いた。


「大神官様……なら、一人でいちゃ駄目なんじゃないですか? あとお仕事に戻らないと」

「先生の特殊魔具はとっても強力なので、一人でも大丈夫なんです。あとお仕事には戻りたくないです」

「そうですか……」

「そうなんです」


 ケイレヴの特殊魔具とは、頭を囲うように浮いている花かんむりの事だろう。若干斜めに傾いている花かんむりだが、動くことはない。

 じっと花かんむりを眺めていたササハに、ケイレヴが笑顔のまま店の奥を見た。


「こちらは甘味を提供するお店でしょうか? どなたかとご一緒に?」

「はい。従姉妹と友達とで女子の集いです」

「おや。今日はいつも一緒にいたお二人はいないのですか?」

「レンシュラさんとリオのことですか? 今日はいないです」

「そうですか」


 物凄く残念そうに眉を下げるケイレヴに、そう言えば前にレンシュラに反応していたなと思い出す。


「先生はレンシュラさんとお知り合いなんですか?」

「いいえ」

「?」

「? ああ、ンフフ。知り合いではなく、私が一方的に存じ上げているだけですよ」

「なるほど」


 納得の表情でササハが頷く。ケイレヴはイヤリングをつけていたのだが、突然その石が光り微振動を始める。

 ケイレヴが嫌そうな声をもらす。


「そろそろ戻らなければ――バレちゃいました」

「バレちゃいましたか」

「もっとお話していたかったのに」


 くすん、とケイレヴは泣き真似をする。


「では、またお会いしましょうね」

「はい、また」


 ケイレヴを見送り、店の扉がベルを鳴らして扉が閉まる。


「は。しまった。お店の中で話し込んじゃった」


 邪魔になってしまったのではと周囲に目を向けるも、誰もササハのことは気にしておらず、何事もない様子で時が流れている。

 誰の迷惑にもなっていなかったのなら良かったと、テラス席に戻ったあとに遅いとブルメアに拗ねられた。




 それから店を出る間際になって、可愛らしくラッピングされたキャンディーをもらった。ササハは大いに喜んで、ブルメアも満足そうに口元を緩めていた。

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