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10話 うきうき質問コーナー

 通信石から聞こえた声に、ササハは嬉しそうに魔石へと身を乗り出した。そういえば以前に、ヴィートは第六魔力や魔法陣について研究していると教えてもらったことを思い出した。現在もまだリハビリのため入院中ではあるが、声の調子からして元気にやっている様子で安心した。


「ヴィートのほうこそ元気にしてた? 怪我はだいぶ前に良くなったとは聞いたけど」

『 はい、もうすっかり元気です! 今は汚染魔力で死にかけてた部位を、回復させつつ動かす練習中なんで体調的にはなんの問題もありません! 』


 それならば良かったと、通信石越しでもササハが破顔しているのが伝わった。


「おい」

『 ふぁい! な、なんすかシラー卿。折角お嬢さんに癒やされてたのに、邪魔しないでほしいです 』

「うるさい。聞きたいことがあって連絡したんだ、ぼやぼやしてないで話を進めるぞ」


 レンシュラの冷たい言葉にヴィートが嘆いていたが、それはまるっと無視された。


「あの、実は知ってたら教えてもらいたい事があって」


 ササハが苦笑交じりの声音で言うと、ヴィートも何ですかと大人しくなる。


「あのね――――」


 という訳でヴィートお兄さんとのナゼナニ質問会が始まった。


 問一:魔法陣を解析せずに、無理やり壊す方法ってあったりする?

 回答:無理やりだなんて物騒!? けどあることにはあります。その魔法陣を成り立たせている魔力を、ぶち壊せるほどの魔法をぶつけるんです。


 問ニ:それは具体的にどうやるの?

 回答:簡単に言えばただただドデカイ魔法をぶつけるだけです。もしくは特殊魔具の第六魔力のように魔力自体を具現化できるならそれをぶつける形でも同じです。

 ただ、この方法を試す場合は近くに何も無い広い場所をおすすめします。なぜなら魔法陣として完成されているものをぶち壊すほどの魔法だなんて、モノによっては周辺の地形が変わるレベルだったりするんで。


 問三:じゃ、じゃあ魔力を水に溶かす方法は知ってる? お母さんがお札を作る時に、インクや水に混ぜて使っていたんだけど、そうする理由や意味があるなら知りたいんだけど?

 回答:インクや水に? それは…………


 今までつらつらと返ってきた返答が止まった。少しの間何かを思い出そうとしているのか、独り言のような呟きが通信石から聞こえてくる。


『 ジブンも実際に見たことはないんすけど、魔力を(とど)めるためだと思います 』

「魔力を留める?」

『 はい。留めて貯める。今は魔石があるから使用されていない方法っすけど、昔のまだ魔石の流通量が少ない時代は、インクなどに術者の血や魔力を混ぜ込んで、液体に魔力を留まらせる方法があったらしいです 』


 この言葉にミアが興奮を示した。


「そうだわ! 確かに!! 今ので思い出したことがあるんですけど、昔読んだ本に古い呪術の中には術者の血に色々混ぜて、その液体で術式を書いたりしたって書いてあったのを見たことがあります! ――――そうか、血に混ぜるか、血を別の液体に混ぜるかの違いはあるけど、どちらも目的は魔力を別の媒体に保存しておくこと。今回のササハが言ってたのもこの事を」

「ミア、分かったから一旦落ち着こ」


 ぶつぶつと自分の世界に没入し始めたミアを、ササハがそっと通信石から遠ざける。ヴィートのほうは急に知らぬ声に詰め寄られ『 誰すか? 』『 何事? お嬢さん?? 何なのか教えてくださいシラー卿?? 』と困惑している様子が伝わる。


「要は魔石と似たようなものを、液体で代用しているということか?」


 レンシュラの言葉にヴィートは『 大まかに言えばそうなります 』と言い淀みながらも頷いた。


『 恐らくですけど液体に魔力を含ませるのは、単一魔法の命令を簡単に発動させられるからだと思います。例えば魔法陣の術式などは《始める》ことから、その魔法を《終了》させるまで《いくつもの命令》が組み合わさっているんす。それらが積み木のように組み上げられ、命令の一部でも欠けると正常に発動しない恐れがあります。ですが、単一命令――――例えば《光を放て》《水を出せ》など、それを発動させっ放しで構わないのなら、術式自体に込められた魔力が尽きるまでは発動している状態になると思います。理論上はの話ですけど 』


 ヴィート自身も試してみたことはないのであくまで推測の域だが、文字として書くためであるからインクだったのかと思えば納得もできる。そして札の文字を魔力水で消したのも、掃除のため、が加味されたゆえの水であっただけなのかも知れない。


 という事は、だ。


「じゃあ普通に魔法として放つより、液体に魔力を留めるほうが魔力を多く貯められるってこと?」

『 うーん……正直、試したことないので分かりません。けど、液体に混ぜるのはあくまで時間をかけて留めておくのが主な目的で、多く貯めることが出来る特別な理由がある訳ではないと思います 』


 例えば一人の人間が一度の魔法で全力を注ぐか、液体に留めるため十ずつ小分けに放出しても、合計の総量は同じ。むしろ別の媒体に放出するほうが、放出漏れなどが存在する場合総量は減る可能性だってある。


『 ただ、別の利点ならあると思います 』


 え? とササハが目を大きく開く。


『 例えば、魔法陣を真冬の池に張った氷だと仮定します。そしてその氷を壊したいと思った場合、魔力を直接ぶつける行為は氷をハンマーや石など、何か硬いもので衝撃を加えるようなもの 』

「うんうん」

『 それに対し、液体のように別の媒体に内包させた魔力を浴びせるのは、厚い氷を炎や熱湯などで地道に溶かすようなものだと自分は予測します。その前提で話すならば、前者は強力ながらも破片が飛び散るなど破壊したリスクも存在し、逆に後者は安全ではあるが余程の魔力を費やさない限り難しい可能性がある、といった感じです 』


 乱暴ながらも破壊するか、安全ながらも成功するかは怪しい地道な方法か――――ということだ。


「めんどくせ。壊せるなら、全員の特殊魔具でぶち壊しちまばいいんじゃねーの?」


 乱暴発言のノアの頭を、レンシュラが(はた)く。


「神殿には防犯面も含め、様々な術式が至るところに設置されているはずだ。そんな場所で魔力攻撃を連発させるなど、どんな誘発事故が起きるか想像したくもない」


 危ないから駄目。そのことはノアにも伝わったのか、ならどうするんだと唇を尖らせる。しかし何かを思いついたのか、すぐに明るい表情を浮かべた。


「あ、ならさ。水じゃなくてササハの特殊魔具ってやつに魔力を集めるのは?」

「わたしの特殊魔具に?」


 どういう事だとササハは眉を寄せる。


「ほらお前ぐにぐにした触れる透明のやつ出してただろ。あれ自体ササハの魔力なんだろ? ならただの水に魔力を集めるより、もっといっぱい集められるんじゃないか?」


 嬉しそうに発見ごとを報告するノアに、ササハは驚きのあと大きく頷いた。


「確かに! 魔力の膜の中に魔力、すっごいいっぱい集めれそう!」

「だろ!」

「…………いや、待て待て待て」


 一瞬もしかしてと思ったレンシュラだが、頭を押させ小さく首を横に振る。


「似たようなことは前に試したはずだ」

「でもあの時は全力じゃありませんでした」

「それでも、お前の全力を出したところで難しいだろうとなったはずだ」


 そう、三日目に呪具の破壊と同様のことを試そうとし、ササハの魔力量の七割程度をぶつけてはみたが、出た結論は全力でも難しそう。


 無理だろうと表情を険しくするレンシュラだったが、ノアの意見は違ったようだ。


「だから皆でやればいいじゃん」

「「「え?」」」

「ここにいる全員、足りねーなら神官さまにも手伝ってもらってさ、皆でササハのぐにぐにに魔力を集めるんだよ」


 そうしたら五人力(ごにんりき)だぜ! とノアが無邪気な笑顔で言った。


「五人力?」

「そう五人力!」


 ササハの表情もみるみる希望に満ち溢れたものに変わっていく。


「レンシュ――」

「カイレス弟!」

『 魔石での成功例はありますけど、ぐにぐにが分からないので何とも言えません!! 』


 ササハがレンシュラに許可を求める前に、矛を向けられたヴィートが頭をフル回転させる。


『 ある限られた空間の中に、異なる魔力を存在させることは可能です。ただその異なる魔力同士が混ざり合うことはないため、魔道具で行われた実験では一度魔力が途切れた扱いになって 』

「ぐだぐだうるせー。実際にやってみるのが一番はえーだろ」

「そうだそうだー」


 戸惑った声が通信石から漏れる。

 レンシュラとミアは腹を括った。

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