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32話 まだですよ

 《青の剣士》討伐は数日に分けて行うことになった。理由はいきなり《青の剣士》に突撃をかますのではなく、周囲にいる複数のフェイルを減らしてからのほうが確実であろうとなったからだ。


 前日、教会へ訪れた様子からフリキティンは討伐を急ぎたいのではと思われたが、内心はどうあれ反対を示すことなく頷いた。


 何よりササハのフェイルとなった魂を開放する力――それの検証も行いたかった。フリキティンからすれば、そもそもそれが真実なのか。真実として、使用頻度はどれほどか。フェイルがいない場所で事前に試しもしてみたが、ササハの右手に模様が現れることはなく、いざという時に力を発揮できるかも分からない。だからこそ《呪われた四体》級ではない、通常のフェイルで確認すべきとなった。


 またこれまでの経験上、ササハがフェイルと接触し件の能力を使用した後、気を失ったり体調を崩すことが殆どだった。それも考慮した上で少しずつ《青の剣士》の兵力を削ぎ、ササハの力はできる限り温存する方針となった。


「ササハさんのお話では、フェイルは討伐したあと赤黒い石になる、と?」


 燃えているような、赤の炎を内包した黒の石。その赤は文字であったり、種であったり、フェイルに咲く薔薇の色でもあった。だっが、肝心のその文字やら石は、ササハ以外には視えていないことも話している内に分かった。


「ササハさんにお願いしたいフェイルの開放は二体のみ。《青の剣士》とそれ以外に一体――――お話を聞く限り開放時の負担も大きいようなので、通常フェイル討伐はササハさん以外の人員で行い、後に、石となった内の一つだけ検証のため開放をお願いします」


 そこでササハが体調を崩せば、撤退すればいい。


「この作戦を実行するにあたり、通常フェイルを数回に分けて分断させる必要と」


 あと


「《白の聖人》が憑いているフェスカを、《青の剣士》に近づけない必要があります」


 フェスカは未だ目覚めていない。そしてこの話を聞いているのはカルアン組四名と、フリキティン。そして眠っているフェスカから引き離してきたキャロルの計六名。


「質問いいすか?」


 訊いたのはロニファン。やや砕けた口調にキャロルが鋭い視線を向けたが、フリキティンは気分を害した様子もなくむしろキャロルを引かせるために軽く右手をあげ制した。


「構いませんよ。些細な事でも、気になることは事前につぶしていきましょう」

「ありがとうございます――じゃあ、周囲のフェイルを分断するって言ってましたけど、実際問題そんなこと可能なんすか?」


 ロニファンにはまだフェイルとの戦闘経験はない。だが、これまで数度目にした数体のフェイルは意思の疎通は難しく、おびき寄せようとしたところで反応を示すのかさえ疑問に思われた。


「それについては大丈夫でしょう。これまで……それこそ《黄金の魔術師》が現れフェイルが発生しだした数百年前から現在まで、《青の剣士》があの場から大きく外れることはありませんでした。実際これまで特務隊の騎士たちが《青の剣士》に挑んでも、《青の剣士》自身が動くことはなく、むしろ周囲のフェイルが攻撃と守備の形をとるような動きを見せるだけでした」


 それはまるで、上官が己の部下を動かすように。


「《青の剣士》はカルアンやリオークのように、封印によって完全に身動きを封じられてきた訳ではありません。しかしこれまで一度もアレがあの山の中腹から離れることはありませんでした。ただ、今回初めての例外が起こったようではありますが…………」

「隊長さんを斬ろうとしたことですよね?」


 ササハの確認の言葉にフリキティンは小さく頷く。


「そのような事はこれまで一度も――どの代においても《青の剣士》が人を襲う姿は確認されたことはありませんでした……。ですが、もしかしたら今回はフェスカに憑いている《白の聖人》に反応した可能性も考えられます」


 しかし一度目の接近時は視線は寄越せども、それ以外の反応はなかった。しかし二度目。フェスカの様子が可怪しくなり、途端、《青の剣士》はフェスカのみを狙い斬りつけてきた。


「ですのでキャロル・ハーツ。貴女にはフェスカ・エスラルグの監視を命じます――――――万が一の事態が起こった際には、どんな手段を使おうともフェスカを《青の剣士》に近づけさせないこと」


 万が一というのは? ササハは不思議そうな顔をしたが、レンシュラやリオは理解しているようだ。ロニファンもフリキティンの言いたいことは察しているようで、ひっそりササハへと耳打ちしてくれた。


「取り憑いてるっつー白の何とかが、あの兄さんの意識乗っ取ってなにかするかも知れないだろ」


 それこそ何をしでかすか予想もつけられない。


(フェスカさんは大丈夫かしら?)


 フェスカに《白の聖人》が憑いていると言うのなら、あの女性の霊がそうなのだろうか。


「問題がなければ、住民の避難が終わり次第出発します」


 最悪の事態を想定し、町の住民には避難勧告とその補助が行われた。しかし町の住民の殆どが、元は別の地から流れてきた放浪者の集まりであったため、今更別の地に一時的に移れと言われても拒絶の念が色濃く出た。町の外の世界など知らない。興味のある者はこんな辺鄙な地にある小さな町などとっくに去っている。そんな閉ざされた世界に残る住民が、避難を拒むのは分からないでもなかった。


「町への被害は出しません。そのためにも、《青の剣士》含めあの場に集結しているフェイル全て消し去ります」


 元は《青の剣士》監視のための騎士たちの拠点が発展したことから始まった町。町の至るところには、生活用魔道具と称し提供してきた魔道具が複数稼働している。その魔力提供者が町の住民であり、しかし、今では自分たちがどういった危険がある町に住み、別の目的のために作られた生活魔道具を使用しているのかすら知らない住民ばかりとなっていた。


 なので住民の避難と言っても、それほどの人数はなく、転移の魔道具も使えるとなった今ではすぐに済むだろう。


「それで、通常フェイルを分散させるって、具体的にはどうやるんですか?」


 ササハが率直な疑問をフリキティンへと投げる。やや不安に思っていたことが伝わったのか、安心させるような笑みを向けられ、フリキティンは落ち着いた様子で答えてくれた。


「通常と相違のない状況であれば、意外と簡単なんですよ。離れた場所からちょっかいをかければ《青の剣士》はこちらを気にするだけで、配下としたフェイルの一部を寄越してくるので。おかしな話に聞こえるかもしてませんが、それがまるで人間の部隊と同じように、防御と攻撃、偵察部隊といったように役割を分担しているような動きを見せるのです」


 なので数体のフェイルを引き離すこと事態は難しい事でもないのだと。


「通常ってことは、今は異常事態だったりするんですかー?」


 当たり前の顔をして、いつの間にか合流していたリオにフリキティンは何も追求はしなかった。


「フェスカがついて来なければ、おそらく通常です」

「えーなんかそれ、後々面倒事になる前フリな感じがするんですけどー」

「お前、失礼が過ぎるぞ」

「っいって!!」


 フリキティンが流したリオの態度を、レンシュラが拳を持って咎める。なかなかの威力で殴られたリオは涙目になり、目一杯抗議の声を上げた。


「痛った! ぃ、お前レン! 場を軽くするためのおふざけとか、冗談とか、何かそーゆーの分かんないかなぁ!!????」

「レンシュラさん酷い!」

「ササちゃん! そうだよね、いくらなんでも殴らなくても」

「今はノアにも伝わってるかも知れないのに、ノアも痛くなってたらどうするんですか!」

「ササちゃん!? あれれ僕のことは??」

「そうだな。アイツにはすまないことをしたな」

「レン!?!?」


 やれやれと肩を竦めるロニファンの斜め向かいで、フリキティンが「仲良がよろしいのですね」と呑気に微笑み、キャロルは早くフェスカの様子を見に行きたいと思いながらも平常を貫いた。





 そしてその話し合いから三時間後。通常フェイルの討伐はナキルニクが負うとカルアン組を含まない先発部隊組まれ出発をし、結果、その日からまる二日。ササハたちに出番が回ることなく、ある程度のフェイル討伐を完了させることに成功した。


 無数にも見えていた黒の群れはその威圧に錯覚を引き起こしていたのか、討伐されたフェイルの数は約五十ほど。首を落とされ《青の剣士》の配下然となったフェイル共の動きは鈍く、想定よりも被害は最小限に抑えられた。そうして討伐されたフェイルの中にロニファンの父親――チェイスが含まれているか否かは、まだ宿屋に待機を言い渡されているササハたちには確認することが出来なかった。

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