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31話 受け入れられない

 突然のリオの存在に、ササハはこれまでの不満をぶちまけた。どうして勝手に姿を消したのか。結果的にエンカナで会えたとしても、どうして共に行動せず誘導だけするようなことをしたのか。


 そんな不満へのリオの答えは「一人で先に確かめたかった事があったから」ということであった。それにササハは一旦落ち着きを取り戻した。


「……確かめたかったことってなに?」

「家のこととか、家族のこと」

「確認は出来たのか?」


 レンシュラが疑問の続きを口にし、リオは首を横に振り否定を返した。


「僕としては先にこの町に着いてる予定だったんだけどね。あの子が違うところに行きたいって」


 ササハとレンシュラは困惑を浮かべ、ロニファンは更に理解が追いついていない表情をした。しかし話を遮ることはせず、静かに成り行きを見守ってくれている。


「お父さんが何か言ってたみたいで、湖を見に行ってたんだ」

「湖?」

「お父さんって、誰の? もしかして……」

「うん。お父さんはあの子の。湖は王都近くにあって『願い事が叶う』とか噂されてるトコ」

「湖の噂だけならオレも聞いたことあるわ。願い事して、湖が光ったらその願いが叶うとかなんとか」

「そう、それ」


 湖についてはロニファンだけは知っていたようで、ササハとレンシュラはそうなのかと頷くだけ。


「実際、湖には行ったんだけど何も起こらなくて。僕は別に用事はなかったから、あの子の目的が何とかは一切分からないんだけど」


 まるで子供の要望に付き合った保護者のように話すリオ。


「…………そもそも、お前の言う『あの子』とは誰だ? 一体…………何だ?」


 レンシュラの問いに、ササハの肩がビクリと揺れる。


「前までは記憶がないだとか言っていたが、今は?」


 レンシュラの声音には、ある程度の確信があるように聞こえた。すでに思い出しているたのだろう――と。その確信の、更に先のことはササハが一番知りたかったことであり、同時に、知るのが怖いことでもあった。


 リオとノア。


「お前の中に居るのは」

「っう――――!」

「リオ!」


 急に頭を抱え、腹を折るリオ。


「頭、いて……」

「大丈夫!?」

「おい、こっちのベッド、横になったほうが」

「あはは、大丈夫大丈夫。うぅ、いてて……どうやら、話してほしくないみたい」

「え……?」


 リオはすぐに上体を起こし、安心させるように笑ってはいるが、額には薄っすらと汗が滲んでいた。


「話して欲しくないって」

「うん。少し前――《赤の巫女姫》から記憶が戻った後からかな、お互いの記憶も少しなら覗けるようになってさ」

「……つまりは、お前のほうは忘れていた記憶も戻っているし、相手のことも多少は把握していると」

「そうだね。けど――痛い、痛い。分かったよ、勝手に話したりしないから頭痛で訴えてくるのはやめて~」


 理由は分からないが、リオの言うあの子。彼は自身のことを暴かれることを嫌い、リオの邪魔をしているようだ。


「ノアは…………」


 ササハが小さく、無意識に名前を呼ぶ。これまでリオの前では呼ばないようにしていた呼び名を。これまでも薄々は感じていたが、はっきりはさせたくなくて考えないようしていたこと。


(ノアはもう、死んじゃってる人なのかな)


 少なくともレンシュラはそう思っていそうだ。まるでリオに別の人格か、魂が入り込んでいるかのように。


(わたしは、わたしは………………)


 胸元で両手を握り込み顔色を無くすササハ。ロニファンが心配そうな眼差しを向けていた。







「で、《青の剣士》討伐に、ナキルニク家当主までいるって? なにそれ、都合良すぎない?? それなら早速、迅速、賢明な判断に基づいて明日にでも討伐に行こうよ」


 微塵も賢明さを感じさせないリオの提案に、レンシュラとロニファンは呆れを見せながらも否定はしなかった。


「いやに乗り気だが、なにかあるのか?」

「うーん……、僕のほうの確認したかったことに関係していると言うか――――あることを確認するためにちょうど良いと言うか?」

「あることとは?」

「一体のフェ――――――うぐっ!」


 青ざめ口を覆うリオは、なんとか吐き気を抑えている様子だ。


「リオ大丈夫?」

「だいじょばない……きぼちわるい~頭もいたい~」

「語尾を伸ばすなだらしない」

「苦しんでる人に対して酷くない!? うえっ」

「おいおい先輩、マジで吐くなら――ほら(うつわ)。部屋ん中でぶちまけてくれんなよ?」

「こんなところで吐かないよぅ」


 ササハはリオの背中をさすり、ロニファンが洗面用の器を差し出す。暫くもすればリオも落ち着き、この話もして欲しくないみたいとおどけながら言った。


「話を戻すけど――レン達の話からするとここには《青の剣士》と、他にも通常のフェイルが複数いるってことなんだよね」


 そしてその複数の中には、ロニファンの父親も加わってしまった。


「僕が気になるのはそっちなんだよね。だから《青の剣士》討伐のメンバーに僕も混ぜてくれると嬉しいなー」


 まだ討伐自体、決定事項ではないが。現在エンカナの町には、フリキティンが連れてきた特務隊のお陰でそれなりの人数が揃っている。恐らくフリキティンは元よりそのつもりだったのだろう。ならば人員の実力も申し分のない者たちだと思われる。


「フェイルってさ、倒したら赤黒い石になるんだよね?」


 突然リオがササハを振り返り言った。レンシュラとロニファンは何のことだと表情で語るが、リオがそれを気にすることはない。


「ロキアでさ。ササちゃん、石から助けてくれたでしょ」

「え? ――――えーと……」


 なんのことだと、ササハが思い出しきる前にリオは続ける。


「《青の剣士》を除いた他は、僕等でなんとかするからさ。そしたらササちゃんがいる。だから大丈夫だよ」

「リオ?」

「だから――――」


 リオは誰に話しているのか。一度伏せられた視線はすぐにササハへと戻され、今度はしっかりとササハを見つめながらリオは言う。


「後のことは任せるね、ササちゃん――――――本当に、お願い」

「――――――わ、分かった! よくは分かんないけど、分かった! 任せて、絶対大丈夫よ!!」


 困惑したままのくせに勢いだけは十分に頷くササハ。リオはそんなササハに「頼もしいなぁ」と嬉しそうに破顔した。




 そして翌日。フリキティンとの話し合いも簡潔に、《青の剣士》討伐隊が編成されることになった。

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