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29話 悶々としている

 フリキティンの話を聞いて部屋に戻った後、レンシュラは焦りと、同程度の苛立ちに眉間のシワが取れなくなっていた。立て続けに起こる想定外の出来事に、どう対処すべきか分からなくなっていたからだ。


 当初の目的はリオの行方探しと、ロニファンの里帰り。それがどうして《呪われた四体》の、しかも同時に二体と関わることになってしまったのか。ベッドに腰掛けやる気を燃やしているササハを横目に視線を落とす。


 これまでは避けることで時間を稼いでいた。《黒の賢者》を消滅させたササハの存在は、《呪われた四体》に抗う術はない――――というこれまで通りを覆してしまったから。


 幸い……なのか、予想を反して王家や教団からの圧力はなく、注視はされているが見逃されている感じもする。レンシュラは王族や教団の偉い方がどのような人物かは知らないが、もっと無理にでも接触を図ってくると思っていたが、そうでもなかった。


 最初こそ教団にレンシュラとリオは聴取の為に呼ばれたがその程度。あの時はまだササハの存在に気づいてなかったのかも知れないが、ならば矛先はよりレンシュラとリオの二人に向いたはずだ。だが、少なくともレンシュラは無茶な危害や圧力は加えられなかったなと振り返る。


(一年にも満たない――そんな短期間で《呪われた四体》全てと遭遇するなんて)


 そんな偶然あり得るのだろうか。少なくとも《赤の巫女姫》に関してだけはリオのお願いであったが、それ以外は違う。最初の町であるロキアや、今いるエンカナに行くことを決めたのは、ササハやレンシュラ達である。なのにその先々が、《呪われた四体》が封印されている場所だったなんて。


(…………頭が痛い)


 考えたところで答えなど持ち合わせておらず、時間の無駄でしかない。ならばレンシュラが今気にすべきは、フリキティンやフェスカの申し出に本当に協力をしていいのかだが、それも結局、ササハは覚悟を決めてしまった後なのだが。


 本当は、いつかこんな場面――残された《呪われた四体》とも対峙する場面――が来るとは思っていた。が、流石にこんなにも早く、しかも同時にとは想像もしていなかった。まだササハには、通常のフェイルとの戦闘経験すらまともにないのに。


 そう思うはずなのに、今この時すらこの町を離れようという気は起きない。今だってフリキティンからもっと《白の聖人》について情報を聞き出さないとと思う反面、それよりも早く《青の剣士》を何とかしなければ――――と、思考が散らかる。


(…………これも《呪われた四体》の影響だったりするのだろうか)


 《黒の賢者》は触れれば封印者以外にも呪いに蝕まれ、《赤の巫女姫》も記憶を奪うという影響が出ていた。それを思えば今回の急ぎ足な無茶ぶりに、根拠も対策もなく挑もうとしている現状はおかしいのではないか。


「ロニファン帰って来ませんね。迎えに行ったほうがいいかしら?」


 同僚を心配するササハの声に、要領を得ないレンシュラの考え事は、まとまらないままに思考のすみへと追いやられた。




◆◆□◆◆




 暗くなるのは一瞬で、気づけば空に星が輝いていたことにロニファンは大きく息を吸う。ここでも特殊魔具が使えるようになってから、とにかく一秒でも長く具現化を維持できるようにと特殊魔具を振り続けていた。


 本当はすぐにでも父のところへと向かいたかった。だが、向かったところでロニファン一人では何も出来ないだろうし、むしろ死にに行くようなものである。それでも気づけば足は山の方角へと向かい、フェスカやフリキティンが連れてきた騎士たちが山へ入る道を封鎖しているため、行っては追い返されるを繰り返していた。


 とにかく、じっとしていられなかった。倒れたササハに不調や異常はないと解って安心はしたが、安心した分、父の元へ向かいたい気持ちが強まった。


「やべ、そろそろ戻らないと」


 流石に他領の騎士がロニファンの自主練に付き合ってくれるわけでもなく、仕方なく一人で素振りをしていた。実践経験も、訓練生時代のお膳立てされたフェイルとの一戦ぐらいしかない。まともに戦える自信などなく、足手まといにならないようにするので精一杯かも知れない。


(くだんねー事は考えるな)


 ロニファンは大げさに頭を振り、宿がある方角へと向き直る。最初は宿屋の近くにいたが、追い返されると分かりながらも足は山へと向かい、不安を誤魔化すように彷徨いながら人気(ひとけ)のない場所で足を止めて特殊魔具を振るった。


 ギュ、ギュと雪を踏みしめ、明るい町なかを目指す。ここがどの辺りか検討もつかないが、領主から援助を受けているというエンカナの町には、町の規模に似合わず魔道具が十分に設置されている。


 そんな贔屓の理由も今なら分かる。《青の剣士》がすぐ近場に存在している為だ。今思うと数日かかるとは言え、こんな危険な場所に行き来出来る距離に、自分の家があったのかと苦い気持ちになる。


「――――ん?」


 町外れの、明かりなどない場所まで出ていたロニファンは帰路の途中で目を細める。この辺りには既に人は住んでいない様子で、空き家と思われる家が一軒あるだけ。町の住民か、騎士の誰かか。建物の近くに明かりも持たずに佇む人影に、ロニファンは無意識に警戒する。


 こんな山奥の小さな町で、物取りなどの物騒な人物ではないとは思うが。相手から視線を外さず、それなりの距離を保ちながらすれ違おうとした時。


「あ!!! お前っ――――!!!」

「ん?」


 ロニファンは暗がりの人物へと驚きの声を上げ、逆に相手は声を上げられた事に怪訝そうにロニファンへと振り返る。振り返ったのはロニファンより少し年下の、知った顔の淡い金髪。


「おまっ……ノア・リオーク!」

「??? は? 誰だお前」


 そこには怪訝そうな顔でロニファンを見返す、リオが立っていた。

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