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28話 混乱中

「流石だオ嬢サマ。()()を脅シに呪具のことを黙ラせよう!」

「レイラさん!」


 無人の小屋に隠された地下室。牢獄のような場所へと続く手前の部屋で、ササハとレイラは両極端の反応を見せていた。


 呪具にしか意識を向けていなかったレイラだったが、ササハが不穏なことが書かれた資料に声を上げたため、改めて周囲の確認することにしたのだ。


 あの怪しい牢獄のような場所やら、わざわざ隠すような真似をすることから、元より胡散臭さは感じていたが。


「テフォダ・リオークはここに子供ヲ連れてきて、人体ジッケンしてた! これはヒドイことだ! ユするネタになる!」

「そうですけど、もっと真剣に考えてください!」


 テフォダ・リオーク。先代リオーク家当主であり、大旦那様と呼ばれていた人物。四年前に他界しているが生前は活動範囲の広い人物だったようで、海向こうからの輸入品なども積極的にやり取りし自領へと持ち込んでいた。

 また領地の発展にも力を入れており、特に後進育成――学校や孤児院などへの援助や支援を惜しむ人物ではなかったと言われている。


 そんな人物がだ。


 暴かれた地下室で見つけた記録の数々。そこにはテフォダ・リオークが、十歳以下の子供たちに対し非人道的実験を行っていたということが記されていた。なぜそれがテフォダ・リオークの仕業だと分かったかと言うと、態となのか何かしらの意図があったのか、実験経過が記録されていたカルテのようなものにサインがあったからだ。ご丁寧にも、一枚一枚。牢獄側から見つかった書面全てにだ。

 それはまるでテフォダ・リオーク以外の人物以外に行き着かないようにしてあるかのようで、このサインが本人の意思からなされたものであったなら、テフォダ・リオークが何を思ってこのサインを残したのかをレイラだけは何となく察した。

 全ては自分独りの行いだと、そう吹聴するようであったから。


「オ嬢サマ。これイジョウは無いも出ないヨ。一度モドろう」


 薄暗い、オレンジ色の照明の下。ぼんやりとボードを眺めていたササハに声がかかる。デスク正面のボードには暗号文字で書かれた複数枚のメモと、一枚の姿絵。


 テフォダ・リオークが利用した子供は孤児や流民の身寄りのない子供が主で、特に念入りに調べられていたのが魔力量の増減の記録で、どうやら彼は子供たちに何かしらの魔力実験を行っていたのではと読み取れた。


 そうしてテフォダ・リオークが見つけた、最後の実験体がノア・リオークだった。確証はなかったがわざわざ姿絵をデスクの正面に貼り付けているのだ、そう大きく間違ってはいないだろう。


「途中でミつけた()()は持って行く? いいショウコになる」

「……もう一度中身を確認したいので、そうします」


 立ちすくんでいたササハにレイラが指したのは、ササハが持っている一冊の手帳。革張りの、少しよれてしまっているそれは、室内を探っている時にデスクの下に落ちていたのをササハが見つけた。


「この手帳、中に書いてある文字は読めない文字ですけど、最後のページだけ違うのが気になって」

「意味ゼンゼン不明だケドね」


 ぱらぱらと手帳を捲り、白紙が広がる一つ前で手が止まる。そこに至るまでの文字は暗号文字のようで内容は分からなかったが、手記が終わった最後のページには、思い出せない、忘れるなと殴り書くように知った文字で綴られていたのだ。


「念の為ベルデさんに、手帳の持ち主が分かるか確認してみましょう」


 もちろん呪具のこともと付け足したササハに、レイラはきゅっと眉を寄せて面倒そうにした。それと同時に、レイラから見たササハが意外と平気そうで安堵もした。――――本当は、そうではないという事実には気づかずに。




 明けの館に戻ってきたササハは、徐々に冷静さを欠いていた。否、元より冷静な訳ではなかった。ただ単に身近ではない、現実味を帯びない残酷な事実を、ようやっと理解しようと意識が向き始めただけであった。


(リオのおじいちゃんは、リオに酷いことをしていたの?)


 館に戻ってすぐ、レイラはどこかへと消えてしまった。レイラは呪具を安全な場所に保管しなくてはいけないからとか、危険だから一刻を争うから止めてくれるなだとか言っていたが、ササハはあまりよく覚えていない。途中レイラが拍子抜けしたように驚いた表情をしていた気もするが、ササハに疲れているのなら休んだほうがいいと言い残し、呪具を持ち去ったのだ。

 この時のササハは呪具のことより、地下室で知った出来事で頭がいっぱいだった。


「リオも、ノアも大丈夫かしら」


 今日はまだ一度も顔を見ていない。昨日も丸一日眠ったままだったのだ。はやく元気な姿を見て安心したい。どくどくとようやく焦りだした心臓に、ササハは持っていた手帳を無意識に握りしめた。


 大丈夫かと心配しながらも、嫌な場所で見つけた手帳を隠すという気遣いすら浮かばず早足になる。もう少し、あと少し。目の前の角曲がれば、目当ての部屋の扉が現れるというところで、幼さの残る声がササハを呼び止めた。


「おかえりなさい」


 ササハは我に返ったように足を止め振り返る。


「メル君」

「呪具を見つけてくださったのですよね。お連れの方がどこかへ持ち出そうとしていたので、止めさせてもらいました」

「え?」

「もちろん手荒なことはしていませんよ。少し眠っていただいているだけです。が、少々風通しのいい場所なので、その――――体調を崩されるかもしれません」

「どういうこと??」


 黒髪の、ササハにメルと呼ばれた少年。メルが突然現れるのはいつものことだが、まるで弁明するかのように早口になるのは初めてだった。


「仕方がなかったんです。このまま呪具を持ち出されては、今後どうなったか確認出来ませんし。ですが僕では呪具を壊すことは叶わないし、あの女性を説得することも物理的に引き止めることも出来ないので」


 なので魔力干渉を無理やり起こし気絶させたらしい。そしてその場所がたまたま屋敷の外であった、と。


「レイラさんになんてことするのよ!」

「それは申し訳ありません。なのですぐにあの女性の移動と、呪具の回収をお願いします」

「レイラさんはどこに居るの? 放っておいたら風邪引いちゃう!」


 こんな真冬の最中に外に寝かせておくだなんて。所在無さ気なメルに、ササハは柔らかくため息をつくと持っていた手帳をポケットへと押し込んだ。


「案内してちょうだい。レイラさんの居場所を知ってるのは、メル君だけなんだから」


 そしていつもの調子を取り戻し、ササハは明るい声でメルを促した。メルの説明ではレイラは屋敷の裏手側に居るらしい。二人並んで廊下を駆け進み、途中、案の定とでも言うべきがお叱りの声が響いた。


「こらぁ! 廊下を走ってはいけない!」

「ごめんなさい!」


 かつてない程の声量。揺れる窓ガラスは外の風のせいであるが、もしかして今の大音量のせいかもと勘違いしてしまいそうなほどの大声。


「ベラバンナ! かけっこは外で行う遊びだ! そもそもかけっこは一人では行えない遊びであるから、室内でする遊びをもっと熟考すべきではないだろうか」

「え、と。ベルデさん。わたし別に遊んでた訳じゃな――――」


 別の廊下から、険しい表情で向かって来るベルデ。発言内容は悪ふざけをしている子供を叱るようなものではあったが、重みのある声音には本気の苛立ちも感じ取れた。


「なんで……メル君。レイラさんは呪具は危ないからって、封印しておくって言ってたのに」

「僕が見た時は、呪具の封印を解いた様子はありませんでしたよ」

「なら、なんで」


 大股で、肩を怒らせながら歩いてくるベルデ。そのベルデの肩越しに、一匹の呪鬼が掴まっているのが見えた。

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