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19話 あり得なくもない

 混濁。雑多。無惨な記憶の断片が、否応なく流れ込んだ。


 子供が笑っている。赤い髪の小さな女の子。花畑で花の冠を作って遊んでいた。


 子供が泣いている。少女に成長した赤い髪の女の子。物を投げ捨てこちらを睨んできた。遠くでは女性が顔を両手で覆い震えている。


 女性が微笑んでいる。赤い髪の少しやつれた女性。小さな赤ん坊を抱きしめ、頬を寄せていた。


 走った。森を走った。夜だった、暗かった。転びかけても足元は確認せずひたすらに走った。はやく、はやく。迷って、焦って、ようやく掴んだのは細い子供の腕だった。


 。


 。。。


 持っていたカップを取り落とす。声を、音を発する前に呼吸が止まる。心臓が破裂して、倒れたと認識できぬまま横倒れの世界が暗くなる。


 最後に見たのは黒いモヤと赤い文字。これを植え付けたのは――――――………………。






「オ嬢サマ!」


 無理やり抱き起こされて短い息を吸い込む。耳鳴りがするほど鼓動が速く、もう一度呼ばれてようやく、ササハはレイラを見た。


「大丈ブか、オ嬢サマ?」

「レイラ、さ」


 少し埃っぽい部屋。リオーク前当主の私室。いつの間にか意識を失っていたのか、今は背中を支えられ座っている状態になっている。


「ケガないか? 急に倒れたカラ、びっくりした」


 言われて近くにあるレイラの顔を見た。元より白い彼女の顔は青白く、そういえば先程レイラも倒れていたはずだと思い出す。


「レイラさんこそ大丈夫ですか!? さっきドアのところで倒れて」

「ワタシは大丈夫。・・・さっきノは、ちょっト油断シタだけ」

「何かあったんですか?」

「よくは分からナイけど、たぶん呪具かナニカ。無理やり魔力を抜かレる感覚がした。そのセイで魔力ギレになりかけた。とても遺憾。不甲斐ナシ」

「魔力切れ、ですか?」

「ソウ。いっぱい血を抜かレルのと似てる。キモチワルくなって、くらくらすル」


 魔力コントロールの訓練をしていた時、ササハも覚えのある例えであったため成る程と頷く。

 それにしても魔力切れ。もし先程レイラから抜け出ているように見えた白いモヤがそうであるなら、その向かう先は呪具ではなかった。


「レイラさん。フェイルの(たね)って、死んでしまっている幽霊であってもそのまま残っているものなんですか?」

「フェイルのタネが幽霊に? ……どういうコト?」

「えーと、実は」


 急に何の話だとレイラは首を傾げる。レイラには大旦那様の霊は視えていなかったらしく、そこからの説明にササハは身振り手振りで必死に言葉を重ねた。


 元から倒れはしたが意識は保っていたレイラは早い段階で回復し、念のためを取って部屋からは一度出ることにした。外の光はまだ明るく、ササハが意識を失っていたのも一瞬だったようで、光が届く階段に腰掛け話を続ける。


 ササハの話と、レイラの話がまとまりを見せるに近づき、レイラの表情が険しくなっていった。


「つまり、あの部屋にはリオーク前当主のレイがいて、しかもソイツにはフェイルのタネが埋まっていタ。そしてワタシの魔力がそのタネに吸収されていタ・・・と、そんなコトあるのカ?」

「本当に、たぶんですけど。わたしにはそう見えました」

「オ嬢サマが見たものを疑ってルわけじゃないヨ。ただ、今までソンナ話聞いたことはなかったから、本当にそうだとハ言い切れないダケ」


 ササハが白いモヤや、フェイルの種を見たと言うのならそうなのだろう。だがその白いモヤは本当に魔力なのか。魔力だとして本当に種に吸収されていたのか、それらの確証は何もない。


「それに死んだニンゲンはフェイルにならない。ならない、ハズだ……」


 とうとうレイラは口元を押さえ、項垂れるように考え込む。通常フェイルは生きている人間しかならない。数少ない目撃情報もその例しかなく、そう思われてきた。

 だが、そもそもが霊が視えるということ自体が異例なのだ。見た者がいないだけで、あり得ない話だとも言い切れなかった。


「メンドーを想定してみヨウ」

「? 面倒?」

「そうメンドーで嫌ーなヨカン。全部、全部オ嬢サマの感じたとおりで、前リオーク当主のユーレイがフェイルになるかも知れないヨカン」

「あ、それはもう大丈夫だと思います」

「だいじょ――――……ン、え?」


 フェイルの種はササハが握り潰した。というよりも触れた瞬間破裂した。


「種は弾けてなくなったし、その時赤い文字も一緒になくなったんでフェイル化の心配はないと思うんです。経験上」

「ケイケンジョウ……」


 入隊したての新入りが真剣な表情でのたまう。何一つ大丈夫の根拠が見つからないが、それ以上に確認のしようが無さすぎる。

 だが、その根拠のない申告がすべて事実であるならば。


「うちのオ嬢サマ、ちょースゲーってコトだ」

「何がですか? わたしの何が凄いんです??」

「流石ダ。ステキ。イイかんじ。よーしよーし」

「ちょ、止めてください。髪の毛ぐしゃぐしゃになるぅ」


 犬猫を撫で回すように両手で勢いよくかき混ぜる。結っていた髪がほどけ、ササハは唇を尖らせながらまとめ直す。

 レイラの体調はすっかり戻ったが、失った魔力まではすぐには回復しそうにない。


「とりあえず明けの館(アッチ)に一度、戻りましょうカ」

「そうですね。リオのことも心配だし、早く戻りましょう」

「リオークのことはどーでもイー」

「そんなこと言わない」


 素知らぬ顔でレイラは立ち上がり、ササハの背を押し先を歩かせる。レイラは一度だけ来た道を振り返り、出てきたばかりの部屋を見る。ササハには気づかれないよう周囲の様子を探る。


(……本当に、うちのお嬢様は凄いのかも知れない)


 自然とレイラの口角が持ち上がる。最初に訪れた時にはあった奇妙な違和感。その違和感も今は消え去り、なにも感じなくなっていた。






 そうして戻った明けの館。昼前に医者から異常はないと言われたリオは、夜が過ぎ、翌日を迎えても目を覚ますことはなかった。

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