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8話 え、これオレが少数派になるの⁉

「昨日はとんだ災難だったな」

「そうね。私はしばらくスライムの顔も見たくないわね。まだあのぶよぶよヌメヌメした感覚が残っているわ……」


 ヒナヨは昨日の戦闘でビッグスライムに呑み込まれた時の感覚を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 さすがにオレもあの感覚だけは好きになれないだろう。

 オレたちは新たに依頼をこなすため、サウスエッジの町の近くにある山へ来ていた。依頼内容は簡単なもので、回復薬の材料になるナオリソウを採取するというものだ。

 もう一度スライム討伐の依頼を受けるかという話にもなったがヒナヨの猛烈な反対により否決された。


「今回はナオリソウを採取するだけっスから、簡単っスねー」

「あたしはこんなのじゃ物足りないけどな」


 ……何やらフラグのようなものが立ったような気がしないでもない。

 それにしてもミミコは昨日と違って喋ってくれるようになったな。ビッグスライムの一件から、少しは気を許してくれたのかもしれない。


「おいおい、あんまり気を抜くなよ? その辺からまたビッグスライムが飛び出してきてヒナヨが呑み込まれるかもしれないんだから」 

「ちょっと、変なこと言わないでよ! 思い出しちゃったじゃない!」


 ぐりぐりと手に持っている杖の先をオレの頬に押し付けながらヒナヨが睨みつけてきた。

 すると突然、ヒナヨの近くの茂みから何かが飛び出してきた。


「きゃーーー!」


 ヒナヨは突如飛び出してきたそれに驚き、オレの顔に押し付けていた杖に力が入る。


「いてっいててて! 落ち着け! よく見ろっ! ただのスライムだ」


 オレは顔にめり込んでいる杖の先を外してヒナヨを落ち着かせた。


「スライムはもう見飽きたな……」


 昨日大勢のスライムに囲まれていたせいか、ミミコが少し顔をしかめている。


「ここは私の出番っスねー」


 サリアが鼻を鳴らしながら一歩前に出た。


「昨日のサリアの活躍はすごかったからな! こんなただのスライムごときサリアのパンチで一発KOだ!」

 

 そしてサリアは自信満々に長杖を振り下ろした。


「ファイヤーボールー」


 サリアの声が閑散とした山の中で響いた。鳥の鳴き声が良く聞こえる。


「……ん? 何してんだ?」

「何って、魔法っスよー魔法ー」

「いや、パンチで十分だろう」

「拳で戦う魔法使いがどこにいるんスかー」


 サリアはオレの言ったことが面白かったのか、けらけら笑っている。


「……まあ確かに、そんな魔法使いがいたらおかしいけど……。ビッグスライムの時はすごい威力のパンチかましてたじゃないか」

「あれは非常事態だから仕方なかったんス。本当はヤなんスよー」


 本人が嫌がっていることを無理強いするわけにもいかないので、オレは一先ず何も言わずに見守ることにした。

 サリアは引き続き、一向に発動する気配がしない魔法を唱え、長杖を振り続けている。

 その間もスライムはヒナヨのもとへと進み続ける。


「ちょ、ちょっと! あっち行ってっ! きゃあー!」


 やがて足元にたどり着いたスライムがヒナヨに向かって飛びかかり、その衝撃でヒナヨは尻もちをついてしまう。

 …………おい、昨日も見たぞこれ。


「もう魔法使い辞めろお前ー!」


 オレはデジャヴかと思ったら昨日も見ていたこの一連の流れに我慢ができず、つい叫んでしまった。

 横で見ていたミミコが苦笑いをしながら小型のナイフを投げ、スライムを倒していた。


「何でなんスかー!」


 サリアが口を尖らせて猛抗議してくる。


「何で使えるパンチより使えない魔法を使おうとするんだよ!」

「魔法の方がカッコいいじゃないっスかー!」

「全武闘家たちに謝れ!」


 ……なぜこうも魔法にこだわるのか。

 オレは何としてもサリアの気を変えられないものかと思い、優しく説得する方向にシフトチェンジした。


「どうしてそんなに魔法にこだわるんだ?」

「……大魔導士マロンって知ってるっスか?」


 少しためらいながらも理由を話すサリア。


「マロン……どっかで聞いた気がするな……?」


 ミミコが顎に手を当てて、その人物を思い出そうとしている。


「あーあれね! 絵本に出てくる竜を撃退する魔法使い!」


 ヒナヨが閃いたようにぽんっと手のひらを叩いた。


「オレも昔その絵本を読んだ気がするな……。確か、巨大な竜が世界のすべてを焼き尽くそうとしたときに、大魔導士マロンがその竜を魔法で封印して世界を守った、みたいな話だったか……?」 


 オレは大魔導士マロンについて描かれた絵本を思い出す。


 ————昔々、人間たちが仲良く暮らしていました。

 すると突然、バリバリと空が裂けました。

 そこから大きな黒い竜とともに、魔の者たちが現れたのです。

 魔の者たちは人間を苦しめ、大きな黒い竜は村を燃やし、町を燃やし、世界を燃やしました。

 そこである一人の女性が立ち上がりました。


「私はマロン。あの大きな黒い竜を倒して見せましょう」


 マロンはバチバチと輝く魔法を使い、見事大きな黒い竜を倒しました。

 人間たちはその女性を大魔導士マロンと名づけ大いにたたえました。

 しかし、その後大魔導士マロンを見たものは誰一人としていませんでした。

 ある少年が言いました。


「大魔導士マロンは光になったんだよ。光を超えて皆を見守ってくれているんだ」


 大魔導士マロンは光を超え、時を超え、今もどこかで世界を見守っています。————


 というようなお話だ。


「そうっスー。そして私は小さい頃、その大魔導士マロンに会ったことがあるんスよー」

「ええっ! すごいわね!」

「いや、会ったってお前……絵本の人物だろ? たとえ実在したとして、今も生きてるわけないだろ?」

「ホントに会ったんスよー」

「何よ、夢がないわね」

「つまらん男だな」

「え、これオレが少数派になるの⁉」


 まさか少数派になると思わず、驚いているオレを他所にサリアは語り始めた。


「私は山奥の小さな村の出身で子どもの頃はよく森で遊んでたんスよ。ある時、森の深くまで入っちゃって迷子になったんスよ。そしたら大きなクマの魔物に襲われて必死に逃げたんス。それでも追いつかれてもうダメだ! って時に颯爽と現れた魔法使いが華麗に魔法で魔物を倒したんスよ! あれはカッコよかったっスね~」


 サリアが当時のことを思い出したのか、少しにやけた顔をしている。


「それ本当にマロンなのか? ただの魔法使いのハンターじゃなくて?」

「あれは絶対マロンっスよ! ちゃんと絵本の通り女性だったっスよ?」

「じゃあマロンね」

「マロンだな」

「性別一緒なだけじゃねえか!」

「何となく顔も似てたような気がしないこともないっスよ」

「マロンよ」

「マロンだ」


 ……何でこいつらはみんなマロン実在派なんだ。


「実際にマロンがいるかどうかは一旦置いておくとして、サリアはその魔法使いに憧れたってわけか」

「そうっスねー。私もあんな風にバシッと魔法で魔物をやっつけたいっスー」


 ……サリアを助けてくれたのが魔法使いじゃなくて武闘家だったらよかったのに。

 そんなことを考えながら山を歩いていると、遠くの方に人影が見えた。


「お、誰かいるみたいっスねー」


 サリアもそれに気付いたようで、その人影に近づいてみるとちょうど男がスライムを倒しているところが見えた。おそらくパーティを組んでいるハンターなのだろう。その男の近くには各々武装した三人の女性がいた。

 こちらに気付いて振り返ったその男に、オレは驚いた。

 


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