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7話 仲間を大切に!

 オレとミミコはたくさんのスライムが合体して一つとなったビッグスライムを前に立ちすくんでいた。


「でかすぎるだろっ……」


 隣に立っていたミミコが思わず呟いた。

 無理もない、通常のスライムのサイズが片手で乗るくらいなのに対して今のコイツは四メートルは優に超えている。新人が相手にするには些か厳しいものだ。

 一体どうすれば…………。その時、オレはふとサウスエッジのギルド長であるギースが言っていた、ギース流ハンター十ヶ条の一つが頭に浮かんだ。


 ——ギース流ハンター十ヶ条、其の二! 『無理だと思ったら逃げろ!』——


 オレはギース流ハンター十ヶ条を思い出すことで少し冷静になった。

 無理だと思ったら逃げろ……か。ちゃんと聞いたら当たり前のことだと思うが、基本が大事ということ……なのだろう。

 オレはギースの教えに倣ってビッグスライムから逃げ出すことを決意した。



「ミミコさん! これはさすがに無理だ! 今すぐ逃げよう!」

「バカ言え、これくらい私一人でっ……!」


 ミミコはオレの言葉に耳を貸さず、左手で腰に差してあるもう一つのダガーを抜いて両手で構えた。そして自身に身体強化の魔法をかけて、ビッグスライムに切りかかる。

 何度もビッグスライムを切り裂くもミミコのダガーは刀身が短いため相性が悪く、裂けた部分はすぐにくっ付いて元通りになってしまう。


「……っ! しまったっ!」


 巨大なビッグスライムの大きさ故、常に上を警戒していたミミコは触手のように地面を伸びていたスライムによって、足を捕らえられてしまった。

 そして動けなくなったミミコを体に飲み込む勢いでビッグスライムが迫っていく。


「危ないっ!」


 オレは走り出しながら、手に持っていた剣を投げてミミコの足を捕まえている触手を切り離す。その勢いのまま、ミミコに向かって飛びかかったオレはその体を両手で突き飛ばした。

 しばらくの間、宙を舞ったオレの体はそのままビッグスライムに飲み込まれてしまう。


「うっ……くっ……かはっ!」

「お、お前っ……⁉」


 オレは必死にもがくも、やがて全身がスライムに覆われてしまう。

 ……くそっ! 呼吸ができない……。それに、スライムの中がぶよぶよヌメヌメしていて妙に気持ち悪い。

 

「レージがスライムに呑まれちゃったわ⁉」

「大変っスー!」


 遠くの方で待機していたヒナヨとサリアがこの異常事態に気付き、ワーッと騒ぎながら駆け寄ってきた。

 ビッグスライムのうねうねした細い触手が地面を這ってヒナヨたちのもとへ伸びている。


「……ぷはっ! ばかっ! お前ら逃げろ! がぼぼぼぼ……」


 その触手に気付いたオレは、スライムの中から必死に頭を出して仲間に逃げるよう促した。そしてまたすぐにスライムの中へと引きずり込まれてしまう。


「はいっスー!」

「分かったわ!」


 サリアとヒナヨはワーッと騒ぎながら逃げ出した。

 しかしミミコはオレの言葉に聞く耳を持たず、ひたすらビッグスライムを切りつけている。


「……ぷはっ! お前も逃げろ! ミミごぼぼぼぼ……」

「ふざけんなっ! 寝覚めが悪いだろそんなのっ!」


 ……うっ……さすがに息がっ……!

 薄れる視界の中、スライムの半透明の体越しに見えたミミコの紅い目は、フードの奥で鈍く光っていた。


「はあはあ……あっ」

「ヒナちゃん⁉」 


 必死にビッグスライムから逃げていたヒナヨはその焦りからか、足が絡まりその場に倒れ込んでしまう。

 その瞬間、地を這い迫っていた触手がヒナヨの足を絡め取り、自らの巨体へと引き込んでいく。


「きゃーーーわぷっ!」

「ヒナちゃんまで捕まっちゃったっスー⁉」


 くっ……。ヒナヨまで呑まれてしまったか……。

 オレは一先ずビッグスライムの中で暴れるヒナヨを落ち着かせた。

 ……さすがにまずいな……。ミミコの攻撃はあの巨体には相性が悪い。おまけにちょっとの傷ではすぐにくっ付いて再生してしまう。……何か強烈な一撃を叩き込めれば良いんだが……。


「……くそっ! こんなスライムごときにっ!」


 ヒナヨまでビッグスライムに呑まれたことでミミコはより一層焦りを見せ、ダガーを振る速度を速めた。何度も何度も振り続ける。

 しかし、裂けたスライムの体はすぐに元に戻ってしまう。 


「…………仕方ないっスね……」


 突然ポツリと呟いたサリアはビッグスライムの正面に立ち、常に大事に抱えていた長杖をそっと地面に置いた。

 ……? 何をする気なんだ? 

 必需品である杖を地面に置いた魔法使いを不思議に思っていると、サリアはすうっと大きく息を吸って腰を落とした。


「はあーーー……」


 体の中の邪念を全て外に出すように深く息を吐いたサリアは、右の拳に力を入れて構えを取った。

 その様子に気付いたミミコが一瞬不思議に思うも、すぐにビッグスライムから距離を取った。


「やああーー」


 気合が入っているのかいないのかよく分からない掛け声とともに、サリアは握ったその拳をビッグスライムの中心に目掛けて突き出した。

 その瞬間、ビッグスライムの巨体にぽっかりと風穴があいた。その衝撃で一つに合体していたスライムたちがばらばらに崩れ落ちる。


「——っ! 今だっ!」


 ミミコはばらばらになり小さくなったスライムを片っ端から切り刻んで一掃した。

 一方、スライムの中で捕まっていたオレとヒナヨは、サリアが起こした衝撃によって外へ吹き飛ばされた。


「た、助かった……。すうーーへぶう!!」


 地面に叩きつけられたオレは、ようやく外の空気を吸えることに安堵して目一杯息を吸った途端、上から降ってきたヒナヨのお尻で、新鮮な空気でパンパンなお腹を踏み潰された。


「あら、ありがとう。助かったわ」

「は、早くどいて……」


 オレは無理やりヒナヨをお腹の上から下ろして改めて新鮮な空気を吸い、少し疲れたように座っているサリアのもとへ向かう。


「すごいじゃねえかサリア! 助かったよ。そんな力があるならもっと早く教えてくれよ!」

「いやー……はははー……」


 オレの誉め言葉に少し困った様子でぽりぽりと頬を掻いたサリアは、照れをごまかすようにそのままぐでーっと横になった。


「ありがとう、サリア。助かったわ!」


 ヒナヨにも褒められ、サリアは少し気まずそうに視線を逸らした。

 それにしてもすごいな。あんな大きなビッグスライムを一撃で破壊してしまうとは。

 ……よく考えたらそうか。ハンター免許試験を突破することはそんなに甘くないはず。その中で0点を取っても合格することができるということは、他の科目が非常に良かったということになる。

 ヒナヨは高度な治癒魔法が使え、ミミコは全体的な戦闘力が高い。そしてサリアは武術に秀でていたということだ。


「……その…………すまない。迷惑をかけてしまった」


 自分のせいでパーティメンバーを巻き込んでしまった。その責任を感じて分かりやすく落ち込んでいるミミコがゆっくりと近づいてきて謝罪の言葉を口にした。

 ミミコは結構顔に出やすいタイプなのかもしれない……。


「そんなー迷惑だなんて思ってないっスよー」

「そうよ、ミミコが責任を感じることなんて一つもないわ」


 そんなミミコを励ますようにサリアとヒナヨが言葉をかけている


「この依頼だって皆で話し合って受けようって決めたじゃない」

「いやお前が勝手に受けてたじゃねえか」

「……そうかしら?」


 何をすっとぼけているんだこの子は! まあヒナヨなりに励ましているのだろう……きっと。

 もちろんオレも迷惑などと思っていないので、ここはひとつ、男として落ち込んでいる女性に優しい言葉をかけよう。


「そんなに気にすることじゃないさ。ギース流ハンター十ヶ条にもあるだろ? 其の三! 『仲間を大切に!』って」


 オレはギルド長であるギースの言葉を借りてミミコを励ました。


「ん? なんスか、その、ギー……?」

「えっと……あぁ」

「何よその薄っぺらい言葉」


 

 ……ん? 何か皆の反応がよろしくないぞ。……というか薄っぺらいって言うな! 薄っぺらいって! ギルド長のありがたいお言葉だぞ!


「あ、あれ? 皆は聞いてないの? ギースさんのハンター十ヶ条」

「誰っスかそれ? 知らないっスよー」


 一斉にきょとんとしだしたサリアたちを見てオレは急激に体温が上昇したのを感じる。

 ……あ、オレしか聞かされてないのねこれ⁉ てっきりみんな聞いてるもんだと! じゃあ長々と聞かされた武勇伝とかもオレだけなのね⁉

 どや顔でかつ、ノリノリでギース流ハンター十ヶ条を引用したことをオレは全力で後悔した。 ……ううっ……穴があったらそこに住みたい……。


「その……まあっ……ありがとな」


 何故かオレが励ましていたはずのミミコに励まされた。


「お、おう! ミミコさんも大事な仲間なんだから、気にすんなよってことだ!」


 オレは完熟トマトより熟した真っ赤な顔でギース事件をなかったことにした。

 するとミミコは少しうつむき、頬を少し赤らめた。

 ……まさかオレの恥がうつったというのか! 


「それと……さん付けは……しなくていい」


 唐突にそんなことを呟き、背中を向けたミミコにオレは少し驚いた。

 ここに来る道中二回ほど呼び捨てにして二回とも右腕を折られたオレは、ミミコのことをさん付けで呼ぶようにしていたのだ。

 本人がしなくて良いというのならそれで良いのだろう。


「そうか、分かった。みーちゃん!」


 オレは二っと笑って元気よくミミコを呼んだ。

 ——その瞬間、ミミコがふっと視界からいなくなりオレの左腕に強烈なキックが叩き込まれた。

 メキメキメキっ……ボキッ!

 森の中に乾いた音が鳴り響く。

 そして訪れる激痛にオレは地面を転がり悶える。


「ぎゃあああいたあああ!!」

「みーちゃんとは呼ぶな!」


 ……うううっそんな気がして右腕に力を入れていたのに左腕だとは……。


「あちゃー」

「はあ、何やってんのよまったく」


 ヒナヨは呆れながら重い腰を上げ、オレの腕を治療してくれた。

 いつもお世話になっております、ヒナヨさん! 


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