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5話 ……え? もう? どうやって?

「誰かオレを拾ってくれる人はいませんかー! 何でもするんで! とりあえず一回だけでも!」


 オレはギルドの入り口に立ち、通りかかる人々に叫び続けていた。オレは両手で『誰か俺を拾ってくださーい!!』と書かれた木の板を掲げながらひたすらパーティを組んでくれる救世主を待ち続ける。どれくらい経っただろうか。朝早くギルドに来ていたが、もうすぐ太陽がオレの真上にやってくる。

 ……みんなにはオレの姿が見えていないのだろうか。そんな気さえしてくる。時折こちらをちらっと見てくれる人もいたが、申し訳なさそうな顔をして通り過ぎていく。……そんな顔をさせてすまない! これしか方法がないんだ!

 そんな自問自答をしながら気を紛らわせていると、近くを通った人影から声が聞こえた。


「あ、なんかちょうど良いのがいるみたいっスよー」


 その声と共にとある少女がこちらにタタタッと駆け寄ってきた。 

 ……え、かわいい。オレは反射的にそう思った。

 長く艶のある黒髪を頭の横で二つに結び、淡く青味がかったその瞳でオレのことを少し気だるげそうにジトーっと見ていて愛らしい。歳はオレとそう変わらないだろうか。おでこの少し横のあたりに、にこにこマークの周りに花びらみたいなものが付いている変な形の髪飾りを着けている。……今の流行りなのだろうか。

 体には膝下くらいまでの長い黒色のマントを羽織っており、右手には木製の長杖を持っている。おそらく魔法使いのハンターかもしれない。


「私たち新人ハンターなんスけど、うちのパーティに入らないっスかー?」

「え、マジで⁉」


 ……マジか⁉ あんなに断られ続け、ハンター生活を半ば諦めかけていたオレがこんな美少女に誘ってもらえるなんて……! 女神だ! 紛れもなく女神だ!!

 オレは人に誘ってもらえたことと、神の救いが訪れたことの喜びで、少しの間言葉を失っていた。


「……えっ! ……もしかして嫌っスかー?」


 オレがしばらくの間黙っていたため、それを否定と捉えた少女が今までジトーっとしていた目を少し見開きながら悲しそうに言った。


「いやいやいやそんなわけない! ぜひ! お願いします!」


 オレはこの機会を逃したら一生後悔すると思い、全力で頼み込んだ。


「やったー。うれしいっスねー」


 少女は気の抜けた声で喜ぶ。……なんだかぼんやりした子だな。オレはそんなことを思った。


「あら、あと一人やっと見つかったのね、良かったわ」


 先ほどの黒髪の美少女とは違ったタイプの美少女が現れた。

 ……あ、またかわいい。オレはまた反射的にそう思った。見た目はオレより少し幼く、背も高くはないがキリっとした印象を受ける顔立ちだ。胸のあたりまで伸びた透き通るような金色の髪がサラサラと風になびいていて美しい。頭には可愛らしいリボンが付いたヘアバンドを着けている。

 全体的に白を基調とした衣服を纏っていて、清楚な雰囲気を感じる。

 金髪の美少女はその藤色の瞳をキリッと輝かせてオレの方を向いた。


「ふうん、これが新しいメンバーかしら。なんか普通な感じね」

「確かに普通っスねー」

「これって言うな! オレの方が年上だろ絶対! あと、普通で悪かったな!」

「あら私はもう16なのよ? 十分大人だわ」

「おー大人っスねー」


 まあ確かに15歳から成人になるので、大人といえば大人だが……。

 あとさっきからヌルっとした合いの手がうるさい。


「オレは18だ」

「ならほとんど一緒ね」

「どこがだ……」


 なんだこの子は。なかなか気の強い子なのかもしれない。対照的にオレの横にいる黒髪の子は「私と同い年っスねー」とのんびり喋っている。ってオレと同い年なのか! なんか親近感が沸いて良いな! オレは何か少し嬉しくなった。


「なにニヤニヤしてるんスかー?」


 おっと、顔に出ていたらしい。気を付けないとな! そんなことを思っているとまた新たな人物が現れた。


「………………」


 無言のまま近づいてきたのは、フードを深く被った背の高いクールな女性だ。歳は……そうだな、20歳くらいだろう。ガムでも噛んでいるのか、口から小さな風船が膨らんでいる。

 フードの隙間から見える短く整えられた銀色の髪が日の光に照らされ、キラキラと輝いている。それが褐色の肌と相まって綺麗だ。よく見ると鋭く尖った八重歯が生えている。

 とてもスタイルが良いにも関わらず、動きやすい軽装であるため、オレは少し目のやり場に困る。

 銀髪の少女は腰に下げたダガーを手でさすりながらちらっとこちらを見て、またすぐ遠くに目をやった。


「ようやく四人そろったっスねー」

「これでやっと依頼が受けられるわ」

「お前らも苦労したんだな……!」


 うんうん、オレには気持ちが痛いほど分かるぞ! しかしこの子たちも新人ハンターらしいがこんな美少女たちがなんで余っているんだ……? 普通は真っ先に話しかけられるだろうに。

 オレは不思議に思ったがそんな些細なことはどうでも良くて、パーティメンバーが遂に揃ったことの方がオレにとっては嬉しかった。


「そういえばまだ名前知らなかったっスねー。私はサリア・ウノ・マウホイっスー。魔法使いやってるっスよー」

「サリアか、オレはレージ・オアコベト。よろしくな」


 オレは三人に向かって挨拶を交わした。…………あれ? サリア・ウノ・マウホイって確か……。

 

「私はヒナヨ・メノマーサ。ヒーラーよ」

「よろしくな、ヒナヨ」


 またしても見た覚えがある名前に、オレは嫌な予感がした。


「………………」


 オレは流れ的に名前を紹介してくれると思っていたのだが、終始無言でもごもご口を動かしてガムを噛んでいる銀髪の女性にオレはどうしたものかと思い、ちらっと顔を見た。

 フードの付いたベストを着ているがそのフードを深く被っているため、顔がよく見えない。ちらっと見えた限り、フードの奥では紅く染まった鋭い瞳がこちらを睨みつけていることが分かった。

 …………え、何で睨まれてるのオレ。


「言っておくが、あたしはお前らとなれ合うつもりはない。一般ハンターになるまでの付き合いだ」


 膨らんだガムが弾けたタイミングで、女性はそう言い放ち、頭に被っていたフードをより深く被った。

 新人ハンターは一人では依頼を受けられないので、このフードを被った女性は仕方なくサリアとヒナヨと組んでいるみたいだ。


「じゃあ私が代わりに紹介するっスねー。こちらシーフのみーちゃん!」

「そうか、よろしく! みーちゃん!」


 オレは元気よくみーちゃんに挨拶をして、握手をしようと手を伸ばした。

 みーちゃんはその手を掴み……勢いよく捻った。——その瞬間、オレの腕が右回りに一周以上回転した。


「いっでええええええ!!」


 思いもよらない激痛にオレは思い切り叫んだ。オレの腕が肩から外れてぶらーんとしている。

 

「ちょっ! おまえっ! 何すんだ!」


 オレは激痛に耐えながら必死にみーちゃんに訴えかける。しかし、みーちゃんはオレの右腕がぶらぶらしているのを見ても動じずそっぽを向いてる。

 ……こいつ、とんでもない奴だ! 

 オレがそんな風に思いながら激痛に悶えているとヒナヨが呆れながら近づいてきた。


「まったく情けないわね。肩外れたくらいで」

「いやいや大事だろこれ!」

「はい。これでいいでしょ」


 ヒナヨがめんどくさそうにしながらもオレの腕に治癒魔法を唱えた。その瞬間、オレの腕からすぅーっと痛みが引いていき、見る見るうちに元通りになった。


「え! 治った⁉ すげえ!」

「私はヒーラーなんだからこれくらい当たり前よ」

「いやこんな回復力のあるヒーラーはなかなかいないぞ!」

「そ、そうかしら?」


 ヒナヨは少し頬を染めながら答える。すると、みーちゃんが近づいてきて、そっと一言告げた。



「気安くみーちゃんと呼ぶな」

「いや、そこ⁉ この一部始終見ていてそこ⁉ 何で人を大けがさせておいてそんな冷静なんだ! なあサリア!」


 オレはこの流れを見ていたサリアに同意を求めようとして彼女の方を向いた。すると、サリアはニコニコしながらオレのことを見ていた。

 あれ……? おかしいぞ……? まさか…………。


「……お前らヒナヨの回復力を知っていたな? 知ってたからオレの腕があんなにぶらぶらしててもそんな落ち着いていたんだな?」

「あははーそうっスねー……」


 サリアは頬をポリポリと掻いてごまかしながら認めた。

 ……なんだこのやらせは! ただオレが痛い思いをしただけじゃないか! 

 オレはだんだん落ち着きを取り戻していき、大分逸れた会話を無理やり戻した。


「それで、結局……名前は?」

「…………ミミコ・ルネーガだ」


 ミミコ・ルネーガか……。オレはこの瞬間全てを悟った。何故、今こんな状況になっているのかを……。


 遡ること三日前、ハンター免許試験の結果を眺めていたオレは明らかに異質な点数を取っていた人たちの名前を何となく憶えていた。


「お前ら全員、テスト0点じゃねえかあああああ!!」


 オレは叫んだ。やっとパーティメンバーを見つけた喜び。しかしそれを掻き消すように見事に揃った0点の人たち。オレはいろんな感情がべちゃっと潰れたような叫び声をあげた。

 ミミコ・ルネーガ、ペーパーテスト0点。

 ヒナヨ・メノマーサ、武術テスト0点。

 サリア・ウノ・マウホイ、魔術テスト0点。……おい、こいつに限っては魔法使いなのになんで魔術テスト0点なんだよ! まあそれはともかく、なぜ真っ先に声を掛けられるであろう美少女たちが誰とも組めずに余っていたのか、それは一目瞭然だ。

 ハンターは命がけの職業だ。ましてや新人ともなれば危険も多い。そこにわざわざテストで0点を取ったような人たちを連れていくのか? 答えは否だ。


 オレは迷った。このままこいつらと組んで大丈夫なのか? しかしここで断ると次にパーティを組んでくれる人に出会うのはいつ頃になるのか? 

 オレがこの問いに対して長考しようとした時……。


「はい、依頼受けてきたわよ」

「ありがとうっスー」

「………………え?」


 ヒナヨが依頼の紙を持って歩いてきた。


「……え? もう? どうやって?」

「これがあれば受けられたわよ」


 そう言ってヒナヨは手に持った四枚のハンター免許証を見せてきた。

 そこには何故かヒナヨ、サリア、ミミコの免許証の他に、オレの免許証も含まれていた。

 オレは急いで自分の腰にぶら下げているポーチを確認した。…………っ! ポーチがいつの間にか開いているっ! 

 オレはポーチの中身もすぐに確認したが、そこに入っているはずのオレのハンター免許証が無くなっていた。

 オレが顔をあげると、ミミコが少しだけ得意げに笑っていた。…………お前か。

 うちのシーフはどうやら手癖が悪いらしい。


「それにしてもレージの顔写真良いわね」


 ヒナヨは手に持ったオレのハンター免許証を見て、笑いながら言った。


「…………フッ……」

「なかなかイかしてるっスねー」


 ミミコとサリアもオレのハンター免許証を覗き込んで、各々感想を漏らした。


 ……おい、ちょっと待てっ! それは……!


「やめろおおお! 見るなあああ! それは半目なんだあああーー!」


 そんなこんなでオレはこの三人とパーティを組むことになった。






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