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3話 え? 今日なの?

「……ん? ……あれ? ここ、どこだ?」


 オレは目を覚ますと、道のど真ん中で寝転がっていたことに気付く。

 どうやらオレは昨日酔いつぶれてそのまま外で寝てしまっていたらしい。


「……くっそー頭いてー」


 オレは鉛のように重く、奥の方でズキズキと痛む頭を押さえながら宿屋の方へと歩いていく。昨日町を散歩している途中、たまたま宿屋を見つけていたオレはその場所を覚えていたのだ。

 昨日の自分の行いを少し誇らしく思いつつも、飲みすぎたことを後悔していたオレは千鳥足のまま歩いていく。


「……そういえば、メノトのやつはどうしたんだろう」


 昨日一緒に酒場で飲んでいたメノトもどっかで寝てんのかな? などと考えるも、今は自分のことで精一杯なのでオレは考えることをやめた。


 ボーっとする頭の中、オレはしばらく歩き続け遂に宿屋へたどり着いた。

 途中、何回か胃の中の物が体の外へ出たことは秘密だ。

 オレはなんとか力を振り絞り、扉を開けて中に入ると宿屋のおばちゃんが驚いた様子でぱたぱたとスリッパを鳴らしながら駆け寄ってきた。


「あら! あんた大丈夫かい? 顔が真っ青じゃないのよ!」

「……ああすみません。……少し飲みすぎたみたいで……」

「とりあえず上で休んでいきなさいな」


 宿屋のおばちゃんはそう言って、半ば強引にオレのことを二階の開いている部屋へ連れていってくれた。正直すごく助かった。実際一人で歩くのも辛かったからな……。

 オレはおばちゃんに流されるまま部屋へ案内してもらい、軽くお礼を言ってから部屋の中へ入りベッドへ一直線に向かっていった。


 ベッドは肌触りもサラサラで心地よく、ふかふかでありながらもしっかり反発してオレの体を包み込んでくれる。


「……あー……最高だ……」


 オレはベッドに寝転びながら目を閉じ、一度深呼吸をしてぼーっとする頭に酸素を送り込み、眠りに入った。


 カーテンの隙間から差し込む眩いオレンジ色の光に当てられ、オレは目を覚ました。寝すぎたせいなのかまだ頭が痛い。

 もうこんな時間か……。どれくらい寝ていたんだろうか。

 オレは寝ぼけた目をこすりながら部屋を見渡すと、ベッドの横のテーブルの上にはいくつかの果物と経口補水液とみられる飲料が置かれていた。オレは起き上がり、飲料を手に取ろうとするとそのそばに置かれたあるものに気付く。


「……これは、体温計? なんでこんなとこに」


 オレは体温計を手に取り、何となく自分の体温を測ってみた。

 ピピピッと乾いた機械音が鳴り、オレは体温計の数字を見るとその予想外の数字に目を疑った。

 オレの体温を測ったその機械には「38.5度」と表記されていた。


「……めちゃめちゃ熱あんじゃねえか」


 おいおい、勘弁してくれ。明日は新人ハンターの説明会だぞ。風邪ひいて出れませんなんてシャレにならないぞ。

 オレは自分に文句を垂れながら、過去の記憶を遡り風邪を引いた原因を探った。

 うん、一つしかないな。考えなくても分かる。オレは過去に戻って酒に酔いつぶれて道の真ん中で寝転がっている自分にビンタしてやりたいと思った。

 その時、部屋のドアからコンコンという音がして宿屋のおばちゃんがゆっくり扉を開け、中へ入ってきた。


「あら、起きたかい」

「ああ、はい、おはようございます」

「やだね。今は夕方だよ」

「あ、そっか……そういえば、これはおばちゃんが?」


 オレは果物と飲料が乗っているお盆に目をやった。


「あんた随分具合悪そうだったからねえ。サービスだよサービス」

「ありがとうございます」


 おばちゃんの思いやりが胸にしみるぜ。いつかこの恩は返さないとな。


「ちゃんと体温は測ったのかい?」

「はい、ちょっと熱があるみたいで」


 オレは体温計に書かれた数字をおばちゃんに見せた。


「あんれま。じゃあ今日は一日ゆっくり休むといいよ」

「そうですね。明日に備えて回復しとかないと」

「明日は何かやることがあるのかい?」

「明日は新人ハンターの説明会があるんです」

「え? 町のギルドでやるやつかい?」


 おばちゃんはきょとんとした表情でオレに質問した。

 オレはその表情を不思議に思いながらもその質問を肯定した。


「あんれ、説明会は今日やってたはずじゃ……」


 ……ん? 今なんと? 今日が説明会の日だって?


「…………ええっ⁉ 今日なの⁉ ……ごほっごほっ」


 オレは驚きのあまり少し大きな声で叫び、せき込んでしまう。うう……のどが痛いな。


「うちに泊まってた若い奴らも張り切って出て行ったよ」

「マジかよ! 今から行かなきゃ!」


 オレは急いでベッドから降り、荷物をまとめて部屋の外に出ようとした。すると、急に目の前がぼんやりとし、平衡感覚が分からなくなった俺はそのまま床に倒れてしまう。


「あんた大丈夫かい!」


 おばちゃんが急いでオレに駆け寄り、心配してくれている。


「……大丈夫です。ちょっと目眩がしただけで……」

「その体じゃまともに歩けやしないよ。今日はゆっくり休みな」

「いや、でも……」

「今から行っても明日行っても変わりゃしないよ。どうせ間に合わないんだからね。はっはっはっ」


 いや、全然笑い事じゃないんだが! と、心の中でツッコミを入れるも、おばちゃんの言う通りでもある。今はもう日も暮れていておそらく説明会も終わっていることだろう。このままギルドに向かったとしても、何もできずまたぶっ倒れるのがオチだろう。


 ……仕方ない、ギルドには明日向かうか……。


「そうですね、今日はここで休んでいきます」


 オレはテーブルに掴まりながら何とか立ち上がり、ベッドへと戻る。

 オレはふと、気になったことを一つおばちゃんに聞いてみた。

「そういえば、オレはここでどのくらい寝てました?」

「四時間くらいじゃなかったかしら」

「そうですか、ありがとうございます」

「それじゃ、明日は頑張りなね」


 そう言っておばちゃんは部屋の扉をゆっくり閉めてパタパタと歩いて行った。


 しかし、まいったな。まさか説明会をすっぽかすとは。華々しくハンターデビューするつもりが、いきなりしくじってしまった。

 オレはなんでこんなことになったのか、一度状況を整理した。


「確かハンター免許試験の二日後が説明会で、その日の夜に飲み会をしたよな。それで起きたら昼過ぎで、風邪を引いてここで四時間くらい寝ていたと。説明会は今日で、今はもう日が暮れているな」


 ……うん、やっぱり原因は一つだな! おそらくオレは飲み会の後、道で丸一日寝ていたんだろう。

 ……アホかオレは! あの飲み会のせいですべてが台無しになったことを後悔した。……まあ今更考えたところで意味ないか!

 オレは一旦全てを忘れようと、目を閉じて眠りについた。


 翌朝、目を覚ましたオレはベッドから降りてカーテンを豪快に開けた。


「くー! 気持ちいいなー!」


 オレは全身を使って思い切り伸びをする。朝日が体の隅々まで沁み渡る。昨日までの体のだるさが嘘のようだ。


「……とりあえず熱でも測るか」


 オレはテーブルの上にあった体温計を手に取り、熱を測った。……よし、平熱だ! 万全に回復した体調に安堵していると部屋の扉からコンコンと音がした。


「起きたかい? 体調はどうだね?」

「はい、おかげさまで回復しました」


 おばちゃんは部屋の扉を少し開け、顔だけこちらをのぞかせながら優しい笑顔で言った。


「そうかい、それは良かったね。今日は頑張ってくるんだよ」


 そう言っておばちゃんは忙しなく、どこかへ小走りで駆けていった。

 忙しい中わざわざ気にかけてくれたのだろうか。ありがたい。


「さて、オレもそろそろ行きますか……」


 フゥーっと一度深呼吸をして気合を入れる。

 オレはギルドへと向かうため、荷物をまとめて部屋を出る。宿屋の入り口で一泊分の宿代より少し多めに代金を支払い宿屋を後にした。

 オレの後ろではおばちゃんが「あら、あんたちょっと多いよ」と驚いていたが、「これは気持ちですよ」とだけ言ってオレは歩き出した。これくらいはかっこつけさせてもらわないとメンツが立たないってもんだ!

 ……さて、今日の昼飯は抜きだな!



「……どうしようか……」


 サウスエッジの町のギルドへと着いたオレはギルドの前で尻込みしていた。

 ……こういうのって一言目難しいよな。


「すいませーん。昨日の説明会忘れちゃって!」


 ……いや、違うな。


「あれ、説明会って今日ですよね?」


 いや、違うな。オレはギルドに入った時の一言目を何にするか色々とシミュレーションしていく。……うーん分からん。

 しばらくの間ギルドの目の前であれこれ試していたので、周りから見たら明らかに不審者である。


「ええいままよ!」


 オレは考えていても答えが出ない問題を投げだし、勢いのままギルドへ入っていった。


「すみませーん! ……ってあれ?」


 ギルドに足を踏み入れると、オレはここにいるはずもない人物と目が合った。


「あ、レージさんですね?」」


 そう、何を隠そうサウスエッジのギルドの受付にはハンター免許試験で受付をしていたお姉さんがいたのだ。まさかこんなにすぐ再開できるとは! 

 それにしても、まさかオレの名前を憶えてくれていたとは……! こんなに嬉しいことはないぜ。

 オレは驚きながらもお姉さんがいる受付へと歩いていく。


「どうしてここにいるんですか?」

「私昨日からここに異動になったんです。そういえば自己紹介してなかったですね。フィオン・フロストです。改めてよろしくお願いしますね」


 フィオン・フロスト、素敵な名前だ!


「へー偶然ですね。フィオンさん! これからお世話になります!」

「そんな、大袈裟ですよ……。あ、そんなことより昨日の説明会はどうしたんですか? レージさんはいらっしゃらなかったみたいですけど……」

「いやあ、ちょっと体調崩しちゃったみたいで……」

「そうだったんですね……。もしかしたら試験の疲れが出ちゃったのかもしれませんね。でも、今は元気そうでよかったです!」


 フィオンは少し心配そうにしながらも胸の前で小さくガッツポーズを作りオレを励ましてくれた。

 ごめんなさい! フィオンさん! 本当は酒に酔いつぶれて風邪引いただけなんです! くうっ……心が痛いぜ。


「それで今から向こうの部屋で個人説明会を行うことになるんですが大丈夫ですか?」

「もちろんです!」


 まさか、フィオンさんと個人説明会になるとは! オレはとことんツイてる男だな!


「それでは、先に向こうの部屋で待っててくださいね」


 フィオンは部屋の方向を手で示してオレに入るよう促した。オレは一人部屋の椅子に腰かけフィオンが来るのを待った。

 んん? なんか緊張してきたな……。いかんいかん、一旦深呼吸だ。フゥー。

 それからしばらくして、部屋の扉からコンコンとノックする音が聞こえ、扉がゆっくりと開いた


「やあ、君がレージ君だね」


 野太く、凛々しい声とともに部屋に入ってきたのは、短い金髪をオールバックにしてサングラスをかけた、顎髭の生えたいかつい男が入ってきた。


 …………あれ? フィオンさんは?


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