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2話 おいおい、0点て……

「うわっすごい人だな」


 試験結果が記載されている掲示板の前は結果を見に来た人で溢れ返っていた。

 結構な人数が受験していたんだな。今更ながらそんなことを思いつつオレは掲示板に近づいていく。

 よく見ると掲示板には合格者の名前が書かれた紙の他に、三種類の試験ごとに点数と受験者の名前が書かれた紙が張り出されていた。試験はすべて百点満点で、点数の高い者から順に上から記載されているようだ。

 オレはこのドキドキ感を長く味わおうと思い、先に試験の点数を見て結果の合否は最後に見ることにした。


「さて、ペーパーテストの点数は……」


 オレはペーパーテストの張り紙を順番に見ていく。


————レージ・オアコベト 42点————


 ちなみにペーパーテストの平均点は48点らしい。あれ、大丈夫か?

 まだテストは二つも残っているのでこんなとこでくじけてはいけない。

 一通りペーパーテストの結果を見ていると明らかに異質な点数が書かれていることに気づいた


————ミミコ・ルネーガ 0点————


 ……おいおい、マジかよ。ペーパーテストには常識問題や道徳問題などもあるため。0点を取るには白紙で提出するか、本当にヤバい奴かだ。

 オレはそいつの運命を心の中で嘆きつつも、下には下がいることに安心感を覚えた。


 そんなことよりも次は魔術テストの点数だ。魔術テストはそこそこ手ごたえがあったため、もちろん上から順番に見ていく。

 お、ようやく見つけたぞ。オレの名前。


————レージ・オアコベト 43点————


 あれ、思ったより低いな。魔術テストの平均点は45点であるため、またしても平均を下回る。

 オレの渾身のファイヤーボールが効かなかったのかな?

 そんなことを思いながらぼーっと魔術テストの結果を眺めているとまたしてもある点数が目に付いた。


————サリア・ウノ・マウホイ 0点————


 まぁ魔法が使えるかどうかは才能による部分も大きいため、仕方がない部分もある。よっぽど腕っぷしの強い武闘派ハンターならば魔法がなくても大して問題はない。

 どれほど屈強な戦士なのだろうかと頭の中でイメージを浮かべるが、今はそんなことよりも武術テストの結果の方が気になるので、オレは考えるのを止めた。


 ペーパーテストと魔術テストの結果が思うように振るわなかったため、オレは残る武術テストの点数を一心不乱に祈るようにして眺める。

 もちろん自信だけはあるので眺めるのは上からだ。


————レージ・オアコベト 48点————


 ……なんか厳しくね?

 オレは三種類のテストで一つも半分の点数である50点を超えられなかったことを試験官のせいにした。しかし、武術テストの平均点は47点であるためオレは心の中で全力でガッツポーズをした。もしかしたら勢いあまって体にも出ていたかもしれないが、それは気にしない。

 何せ遂に平均点を超えたのだから!

 オレはペーパーテストと魔術テストのことを棚に上げ、浮ついた心のまま武術テストの結果を眺めているとまたしても見つけてしまう。0という数字を。


————ヒナヨ・メノマーサ 0点————


 こちらもペーパーテストと同様に0点を取るのは難しいと思うのだが。

 仕方がない……オレが剣の指導をしてやろうか? なぜならオレは平均を超えているからな!


 調子に乗るのはここまでにしておいて、オレは一番の目玉であるハンター免許試験の合否結果が書かれてある紙に注目する。

 心なしか今まで騒がしかった他の受験者たちの喧騒も小さくなっていき、オレの体の中で激しく拍動する心臓の音がはっきり聞こえてきた。いや、ただオレが緊張しているだけかもしれない。

 オレは高鳴る胸の鼓動を必死で抑えながら掲示板を上から眺めていく。


 ……そして、オレは遂に端っこの方にしれっと書かれている自分の名前を見つける。

 やった! 合格だ。

 さっきまでやかましく動いていた心臓が一気に静まり返る。このまま脈が止まってしまわないか心配な程だ。


「いやー点数がなかなか渋かったから怖かったぜ」


 思わず安堵の声が漏れる。

 ……そういえば合格者は後で受付に行かなきゃだったな

 オレはしばらく施設内を歩き回って興奮が冷めるのを待ち、受付へと向かった。


「合格おめでとうございます!」


 合格の手続きをするため、受付へと向かったオレは、受付のお姉さんからお褒めの言葉をいただき少し照れながらも感謝を伝える。


「ありがとうございます」


 お姉さんはそれにニコッと笑顔で応え諸々の手続きを進めていく。


「所属ギルドはサウスエッジでよろしかったですか?」

「はい、大丈夫です」

「分かりました。それでは、二日後サウスエッジのハンターギルドで新人ハンターの説明会を行いますので、いらしてください」


 ハンターは各町にあるハンターギルドのいずれかに所属しなければならない。ハンターは常に危険が伴う仕事のため、もしものことがあった際に身元が分かっている方が何かと都合が良いのだ。

 所属ギルドの変更は簡単に行えるため、様々な町を転々として活動しているハンターもいれば、一つの町を拠点にして活動するハンターもいる。とりあえずオレが所属ギルドとして選んだのはサウスエッジの町だ。


 この世界はミルドという大陸を中心として東西南北に四つの大陸があり、計五つの大陸が存在している。ミルド大陸では主に魔族が生活しており、東の魔王、西の魔王、南の魔王、北の魔王がそれぞれ四つの大陸を侵攻している。

 ミルド大陸に近いほど魔王の影響も強く、凶暴な魔物も多くなるため危険も多い。

 南の大陸の端の方にあるサウスエッジの町は凶暴な魔物が少ないため新人ハンターが狩りを始めるにはうってつけの場所だ。今オレのいるハンター免許センターからも近いしな。


 そんなこんなで新人ハンターになるための諸々の手続きを終えたオレは免許センターから出るため出口へと向かう。後ろでは受付のお姉さんが顔の横で小さく手を振りながら「頑張ってください!」とオレを見送ってくれている。

 しばらく会えなくなってしまうんだな……悲しいぜ! と、この日初めて会った受付のお姉さんとの別れを惜しみながらハンター免許センターを後にした。


 サウスエッジへ行くため馬車乗り場に向かっていると、ちょうど馬車が出発の支度を整えているところが見えた。


「待ってくださーい! 乗ります!」


 オレは大声で馬車を呼び止めながら乗り場へと走っていく。


「はぁはぁ……サウスエッジへお願いします」

「おお、兄ちゃんちょうどだったな」


 オレは息を切らしながら御者のおじさんにサウスエッジまでの費用を渡す。

 そしてオレは馬車に乗り込むと、そこには見知った顔の男が座っていた。


「あれ、お前は……!?」

「……ん? ああ! ハンター免許試験の時の!」


 オレがその男に話しかけると、男もオレに気付いたようでオレたちはどちらからともなくお互いに右手を差し出し、固い握手を交わした。

 そう、何を隠そうこの男は同じ恥を共有した同志、アイスボール男だ。


 このままずっと握手をしているわけにもいかないので、オレは手をほどきアイスボール男に質問する。


「ハンター免許試験どうだった?」

「合格したよ! お前は?」

「オレも合格だ! これからサウスエッジへ向かうんだよ」

「奇遇だな。俺も所属ギルドはサウスエッジにしたんだ」

「マジか! これから長い付き合いになるかもな」


 そんな軽い雑談をしながら、オレたちはお互いが合格した喜びを分かち合った。

 しかし、あれだな、やはりファイヤーボールッ! て叫んだことは間違ってなかったということだな、うん。


「そういえば、名前まだ知らなかったな。オレはレージ・オアコベト。よろしくな!」

「よろしく、レージ。俺はメノト・ケイン・モチダだ。メノトでいいよ」


 オレとメノトはたわいもない話で盛り上がり、サウスエッジへ着くころにはすっかり日が暮れていた。




「さて、メノトはこれからどうするんだ?」


 馬車の旅を終え、サウスエッジの町へと降り立ったオレとメノトは何処とも無く、町を散策していた。


「確か二日後にはハンターギルドで新人ハンターの説明会があるんだよね」


 

 メノトの言う通り、二日後にはサウスエッジのギルドで新人ハンターの説明会が開催される予定だ。オレもそこに出席し、ハンターのいろはを教わるつもりだ。


「それまでは特にやることもないし、サウスエッジの町をぶらぶら散歩でもしようかな」

「お、いいなそれ」


 オレも説明会の日まで特にやることもなかったのでメノトの意見に軽く同意した。町を眺めながら歩いていると、オレはある建物が目に入った。


「おい、メノト。寄ってくか?」


 オレは親指をくいっと突き出して、見つけた建物の方向を指さした。

 

「……ん? お、行くか!」


 メノトはオレの指さした建物に気付くとこちらを振り返ってにやっと笑った。

 オレの指さした先にあるのは……そう、酒場だ。ハンター免許試験の合格祝いとして、一杯やろうじゃないか。


 オレとメノトは当てもなく歩いていた先程までとはうってかわって、目的地へと真っ直ぐ歩いた。


「へいらっしゃい!」


 酒場の店主のおっちゃんの威勢の良い声に歓迎されながらオレとメノトは酒場へと入った。随分にぎやかだな。もしかしたら俺たちと同じようにハンター免許試験の合格祝いをしている奴がいるのかもしれない。サウスエッジは新人ハンターに人気の町だからな。


「それじゃ、オレとメノトのハンター免許試験合格を祝って」

「「かんぱーーい!」」


 オレは手に持ったビールを一気に飲み干す。


「っぷはぁー! 沁みるぜ!」


 俺たちの祝杯は日が昇るまで続いた。途中、メノトは他の席で飲んでいたであろう女の子たちに話しかけられ、一緒に飲んでいた。オレも会話に加わろうとしたが、女の子たちはまるでオレを見ていなかった。

 ……まあ確かにメノトは俺から見てもイケメンと部類される方だと思うし、これくらいはしょうがないとしてもこんなに露骨かね!? 今日はよく酒が進むぜ!


 そんなこんなで楽しく飲み会は続き、オレは目が覚めると燦々と輝く太陽の下、道の真ん中で寝そべっていた。

 






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