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1話 ファイヤーボールッ!!

 ハンター。それは魔族の侵攻を防ぐため、魔物を討伐し人類の未来を守る職業である。


「おー随分大きいなー」


 そんなハンターになるためハンター免許試験を受けに来たオレは町の中心にそびえたつ建物を前に息を漏らした。


 今オレの横を通り過ぎたムキムキの大男もオレと同じく試験を受けに来たのだろうか。などと思いながら建物へ入り受付へと歩いていく。


「こんにちは。ようこそハンター免許センターへ」


 ハンター免許センターとはその名の通りハンター免許を取得するための施設だ。

 ここでは免許取得の他に免許証を紛失した際の再発行や免許の定期更新などを行う。

 ハンターは各町にあるギルドの依頼をこなし、報酬を受け取り生活している。依頼内容は主に、魔物討伐をしたり魔物が現れる危険な森や洞窟へ採取しに行くというようなものだ。

 命がけの職業であることからハンターには、宿屋で値引きされたり回復薬などの雑貨を安く買えたりなど、ちょっとした特典があるのだ。

 そのため免許を取得しただけでほとんど仕事をしていないペーパーハンターは、免許更新の際に資格を剥奪されてしまうのだ。

 オレも気を付けないとな。


「ハンター試験を受けに来たんですが」

「ではこちらにご記入いただいてもよろしいですか?」


 そう言いながら受付のお姉さんは申込書らしき紙を一枚取り出した。

 そんなことより受付のお姉さんかわいいな…。

 くっきりとしながらもどこか儚げな目に、シュッときれいに整った鼻、見るものすべてを魅了してしまう妖艶な唇に……。そして艶のある長い黒髪を後ろで一つ結びにまとめている。所謂ポニーテールってやつだな。とても似合っている。


「……あの、聞いてますか?」

「は、はい聞いてます! ………えーと……」

「申込書書いてもらっていいですか?」


 お姉さんは少し困ったようにこちらを見上げていた。

 すみません。あなたに見とれてしまって……なんてミジンコサイズのハートの持ち主であるオレには当然そんなこと言えるわけもなく…。


「あぁすみませんっ」


 オレは早口で言い、少し焦りながら記入した。


「レージ・オアコベトさんですね? では、こちらに本日の試験のスケジュールが書かれてますので間違えのないようお願いします」

「ありがとうございます」


 オレは軽くお辞儀をしながら時間になるまで広間で待つことにした。


「試験、頑張ってくださいね!」


 広間へ向かおうと歩き出したその時、後ろからかわいらしい声で鼓舞する声が聞こえた。

 ちらっと後ろを振り向くと受付のお姉さんは胸の前で両手で小さくガッツポーズをしていた。……かわいい。頑張ろう。

 必ず合格すると改めて決意を固め、オレはお姉さんに向かって親指を大きく立て、さわやかな笑顔を見せて広間に向かって歩き出した。


 そんなオレの後ろでは受付のお姉さんにおそらく応援されたであろう細身で背の高く、茶髪で目鼻立ちの整ったシュッとした男が「ありがとう。頑張るね」と爽やかに対応していたことをオレは知る由もなかった。


 ハンター試験は全部で三種類ある。一つ目は知識や常識、道徳などを問うペーパーテスト。

 二つ目は魔法を使って試験官と模擬戦を行う魔術テスト。

 三つ目も同様に試験官と模擬戦を行うのだがこちらは魔法は禁止。剣や槍などの武器、あるいは己の拳のみで戦う武術テスト。


 この三つの試験の点数を総合的に踏まえて審査するらしい。

 オレは魔法の技術は人並みにあると思うし、剣の腕だってそこそこいい方だと自負している。

 問題はペーパーテストだ。必死こいてやった一夜漬けが功を奏してくれれば良いのだが…。


「それでは始めてください」


 試験官による試験開始の合図の声に続くようにしてパラパラと一斉に紙をめくる音が会場に響き渡る。かくいうオレも合図と同時に紙をめくり、そこに書かれた問いを見ながら……


 ……あれっ、けっこうムズくね!?


 頼みの綱である一夜漬けがあまり歯が立たなかったことを後悔しながらも、常識問題や道徳問題など、解けるところを落とさないよう気を付けながら解き進めていった。


「はい、じゃあ次レージ・オアコベトさん」

「はい!」


 二つ目の試験である魔術テストを受けるために広い闘技場に来たオレは、名前を呼ばれ試験官であるお姉さんと相対するようにして立つ。周りには他の受験者もいて、各々準備運動したり休憩したりしながらちらちらとオレのことを見ている。

 フッそんなに見られたら緊張するじゃないか。


「それじゃ、始めるわよ」


 試験官の合図とともに、オレは先ほどから小刻みに震えている膝をこらえながら威勢よく叫んだ。


「ファイヤーボールッ!!」


 緊張のおかげか思ったよりも大きな声を発した自分の口に驚いた。近くにいた受験者たちがこちらを見ながら少し笑いをこらえている。

 やっぱり声、大きかったよね! ごめんなさいっ!

 試験官のお姉さんは笑わずにいてくれてるようだ。優しい。そしてかわいい。

 魔法はわざわざ技名を唱えなくても発動できるのだが、叫んだ方が力も入るってもんだ!


 体の中にある魔力を体の外に放出して発動する魔法は主に赤属性、青属性、緑属性に分かれる。それぞれの属性の濃度をコントロールして出力することで様々な魔法を発動することができる。

 今オレの手から出てきたおにぎりサイズの火の玉、ファイヤーボールは基本的な赤魔法の技で、ハンターならばいくら魔法が苦手でもほとんどの人が使用できるぞ。

 どうだ。すごいだろうっ!


 そんなこんなで魔術テストを終わらせたオレは、闘技場内をうろうろ歩き回り他の受験者の様子をなんとなく見ていた。

 けっこうたくさんの人がいるんだなぁとか、おーあいつの魔法すごいな! などと思いながら気の向くままに試験を見ているとふいに遠くの方から大きな声がした。


「アイスボールッ!!」


 どうやらオレと同じようなやつがいたようだ。声のした辺りが少しざわついている。

 うん、気持ちは分かるぞ!  落ち着けよな!

 叫んだアイツが良い結果を残せるよう祈りながらオレは闘技場を後にした。


「ふぅー後は武術テストだけか。ペーパーテストでしくじった分はなんとか魔術テストで取り返せたかな…。うん、きっと大丈夫だよな!」


 武術テストに備えるため、広間でベンチに座り体を休めながら自身を鼓舞していたオレに一人の男が近づいてきた。


「あ、お前魔術テストでファイヤーボールッ!! って叫んでたやつだろ」


 誰かなんか話しかけてきたぞ。あの時近くにいたのか。人の黒歴史に土足で踏み込みやがって! オレは動揺を悟られないように平静を装う。


「あぁ…まぁちょっと力んだ的な? 別にそこまで本気出す必要もなかったかもなー」


 我ながら上手く言い訳できたと思う。しかしなんだ、冷やかしに来たのかこいつ? 細身で背の高い茶髪の男。目鼻立ちの整ったシュッとした男。いかにもセンスがあってちやほやされてそうな奴だ。気に食わん!


「もしかしたら聞こえてたと思うけど、アイスボールッ!! って叫んだ男だ」

「お前かっ!!」


 オレは思わず立ち上がった。そして心の中で勝手なイメージで嫌ったことを詫びた。すまんかった、同志よ。思いがけない同志の存在にオレはうれしくなりスッと手を伸ばした。

 それに応えるように茶髪の男も手を差し出し、固い握手を交わした。


「頑張ろうな」

「ああ!」


 そう言い残し、オレは武術テストを受けるため会場へ向かった。

 オレたちに深い言葉はいらない。なぜなら同じ恥を共有した、それだけでオレたちは誰よりも固い絆で結ばれているからだ。


「次! レージ・オアコベト」

「はい!」


 三つ目の試験である武術テストの試験官に名前を呼ばれオレは前に出る。

 試験官の男は程よく日焼けした肌に鎧をまとい、幅の広い大きな剣を持っている。それを軽々振り回せそうなほど体がしっかり鍛えられ笑顔が眩しいほど爽やかだ。

 入り口ですれ違ったムキムキの大男は武術テストの試験官だったのか。


「それじゃ始めるぞ!」


 試験官は試験開始の合図を出すとともに、大きな剣を振り上げながらこちらに猛進してくる。

 笑顔が爽やかすぎて逆に怖いわ!

 オレは心の中でツッコミを入れることで少し緊張をほぐしながら、両手で剣のグリップを握りしめ、向かってくる刃を必死にはじき返す。


「ほらほらぁ! もっと気張っていけー!」


 そう言いながら何度も剣を振り下ろしてくる試験官の攻撃に耐える。

 おそらく「ひぃ〜」なんて情けない声が漏れていただろうが、そんなことは気にしない。今は目の前の戦いに集中だ!

 その後も試験官の猛攻を必死に防ぎ、オレは何とか試験を終えた。


 すべてのハンター免許試験を終えて広間で休んでいると、他の受験者も試験を終えたのか周りに人が少しずつ増え始めた。しばらくすると会場内にアナウンスが響き渡る。


「ハンター免許試験を受験した皆様お疲れさまでした。本日の試験結果は入り口前の掲示板に張り出されています。合格された皆様は後ほど受付までお越しください」


 オレはそのアナウンスを聞き、掲示板を見るため会場の入り口まで向かった。










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