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壊れた時間は戻せない。〜箱の中の猫はマタタビの夢をみる〜  作者: ALP
ショートショートに魅了されて。
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ハロー・ヘイロー (Hello,Halo.)

「人の作業を省略して効率を高めるのがロボットなのだが。」


マグカップに入れたコーヒーをずずっと音を立てて飲みながら博士が語り出した。いつもの金曜日。


「ロボットを作るときに愛くるしい姿にするのは何故だろうな。」


回転椅子に座る博士は床を足で蹴り回転させた。ゆっくり回してゆっくりと椅子と博士が回る。


「漫画やアニメの影響ですかね。自分もロボットはそういうものだと思っています。それに見た目は良いに越したことはないですし。」


「自我を持たせるのは何なんだ。エラーじゃないかそれは。いやまてよ?学習し、最適解を算出するロボットならその自我とやらに従ってした行動は最適解になるな・・・うわっ!」


椅子の回転中に身体のバランスを崩し、博士は床に仰向けで倒れた。天井を見つめながら呟く。


「私はロボットではないようだな。今後は安心して『ロボットではありません。』にチェックマークを付けることにしよう。」


「コーヒーを持ちながら回転椅子で遊ぶのは人間である証拠ですね。」


「一理あるな。私はさっきの行動に生を感じた。貴重な収穫だ。それともこれも最適解の合理的行動なのか?ああ白衣がびしゃびしゃだ。ああ、中にまで。」


そう言うと博士は起きあがって白衣を脱いだ。女性が衣服を脱ぐ動作というのは何というか美しい。


「・・・助手。君もロボットではなさそうだ。」


博士は呆れた顔を向けてきた。何も言い返せなかった。月を見るような目をしていたのだろう。


「精巧に作られたロボットと私に違いはないな。どちらが模倣か分からない。」


博士とそんな会話をしたのを今、思い出した。


その博士がロボットを作ったのだ。5センチくらいの小さな人形が二つ。そのロボットはどこか見たことのある姿で愛くるしいものだった。


「こ、これは。」


「私そっくりのロボット。確かに愛くるしいかも知れないが、それは意図せずの偶然だな。そして、君そっくりのロボットも作った。君のあらゆる行動を想定し、君のように学習していく。小さいが私達を圧縮したような存在だ。」


「まるでクローン技術ですね。凄いな。今、博士に尊敬と同時に畏怖を抱いています。」


「安心しろ。私はロボットでも人間でも優しい。サイズは小さくした。同じ大きさなら入れ替わられても誰も気が付かない。」


「知りたいことがあるんだ。私達と同じ行動をするロボットに同様の環境を提供した場合、ロボット達はどんな行動をするのか。ロボットの特性はどうしても出てくるのだろうか。ぽち。」


例の如く博士はスイッチを押した。


そして一週間が経った。今週も博士に会いに行くと玄関が閉ざされていた。


インターホンを鳴らすと中からガチャリという音がした。博士が少しだけドアを開けて顔を覗かせた。


「やあ、来たのか・・・。」


博士はいつも玄関を施錠しない。しかし、今回はどうしたことか。不思議に思ったので聞いてみた。


「博士。鍵なんて閉めてどうしたんですか。」


「き、気紛れだよ。」


若干、博士が俯いたような気がした。博士はいつも目を見て話をする。自分の話を聞かせるとき、相手の話を聞くときのどちらも。意識的に相手に最大の敬意を払っているのか、無意識なのかは分からないが、博士の人柄が表われている。


その博士が目を合わせてくれない。


「ロボットはどうなりましたか。」


「あ、ああロボットね。ええと、だな。先に質問していいか。どうなってると君は予想する?」


実は自分と博士の写し身について、この一週間ずっと考えていた。だから、博士がした質問についての回答は自分が早く彼女に伝えたかったこと。博士を驚かせたい。そのために考えに考えて、出した結論はこうだ。


「当てにいきます。『ロボットは僕と博士のロボットを作った』です。同じ頭脳ならそういう考えに行き着くのではないかと。そして、ロボットが作ったロボットはロボットを作る。」


「・・・いい発想だな。」


博士がドアを閉める。不正解のようだ。


「博士!?どうしたんですか本当に?見せて下さいよ!?このまま見ないで帰るなんて出来ませんからね!?」


「やだ。帰れ。」


「博士!?」


「やだ!やだ!」


どれだけ頼んでも、博士は部屋に入れてくれなかった。彼女が声を荒げることは無かったが、何か気分を害するようなことをしてしまったようだ。


「・・・わかりました。今日は帰ります。」


「ああ、すまない。許してくれ。違うんだ。別に君が嫌いになった訳じゃない。」


声色で博士は察したのだろう。理由の分からない拒絶をされて妙な空気が流れる。何か自分がしてしまった訳ではない、それだけが聞けて良かった。


「博士。僕は博士の助手です。何か困ったことがあったら言って下さい。僕は博士との時間が大好きです。博士の発明を毎週楽しみにしてます。また来週、来ていいですか?」


一呼吸置いて博士が口を開く。


「勿論。そして。正解だ。覚悟を決めたよ。」


そう言うと、あのキィという錆びついた金属が擦れる音がした。あれだけ拒んでいた博士がドアを開く。意外なことだった。


「前言撤回する。入ってくれ。・・・私が間違っていたよ。浮かんだことを探究し、目の前の謎を追求する。私の師匠の言葉だ。私は謎が謎であることは耐えられない。それは君においてもそうだろう。忘れていたよ。私は臆病者だ。」


「博士は臆病者ではないです。それに、結果的に見られるならそれだけでありがたいです。」


「優しいな君は。さて。私が結果を伝えたくないのには理由があった。・・・言うぞ。」


博士の緊張が伝わってくる。


「・・・はい。どうぞ。」






「・・・恥ずかしかったからだ!」


◆●★▲ ◆●★▲ ◆●★▲ ◆●★▲ ◆●★▲


博士の部屋に入りロボット達を見る。ケーブルに繋がれたロボット。その線は束になって大きなモニターに通じている。


「ここに条件を入れる。過去の発言や行動を追加要素として加える。それだと主観が入るがそれは時を進ませて発生可能性の少ない行動やあり得ないデータを排除していくから精度は上がっていく。すると画面に私達のことがモニターに表示されるようにした。そして先程全てのデータが取り込まれた。」


「いつから僕の発言をデータ化していたんですか?知らなかった。」


・・・。


博士は答えない。聞こえている筈だけれど彼女は答えてくれない。


「これが一年後。沢山イベントが発生するから一年間で最も重要なことをまとめてくれるようにした。」


表示された文字を読む。


「『博士と助手の関係性は続く』。」


普通だなと素直な感想が出てきた。でも、その普通が有り難い。普通の普遍の有り難さなんて失うまで分からないのだから、こうして確認できたことが嬉しい。こほんと博士が咳払いする。


「問題は5年後だ。一人で見るんだ。見たらそのまま帰宅しなさい。絶対だぞ。」


博士はカチャカチャとキーボードで入力し、条件設定だけして部屋から退室した。ドアが閉まるや否やモニターに映し出された文字。


『博士と助手は子どもに恵まれる。よかったな。』


「なっ!」


それが表示された後に文字が自動で画面に入力されていく。


『あくまでも可能性だぞ。相当高いが。ふ、幸せな人生を送るといいさ。助手。この文字はどうせ君が見ていることだろう。私は機械ばかり弄り回していたようなやつだ。どうか別の方向性で、別の要素で私を楽しませてやってくれ。』


『色々な可能性を見た。そこには大抵君がいた。未来を予測する。それは偉大なことではあるが。予測不可能な未来も良いぞ。あっ。そうだ助手。』


「・・・何ですか。」


『タイムマシンだけは止めておけと伝えておいてくれ。そんなことをしなくても。私は。いや間違えた。博士と君は。』


ロボットは僕と博士のロボットを作ったという予想は半分当たっていたのだった。それが無限に連鎖していくのではなかった。


世代を経て続いていくのだった。


ん?タイムマシン?とりあえず博士に伝えておくとしよう。


見たらそのまま帰れって言ってたっけ。でも遠慮はしない。今度じゃなく今。嫌な顔をするだろうか。怒るだろうか。


博士と話がしたくなった。

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