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壊れた時間は戻せない。〜箱の中の猫はマタタビの夢をみる〜  作者: ALP
ショートショートに魅了されて。
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うららかな春を越えて

風にさらわれる花びらの一枚一枚。枝に別れを告げたのかどうかは疑わしいが、空へと離れていく。橋の真ん中で立ち止まってそれを見ていた。


桜は殆どが散ってしまった。人々が上を向く回数も減ったことだろう。悲しいことに木の枝を見上げても意味はないという総意。


そうなるとまた来年まで春の到来を待つことになる。桜の美しさとはなんだろう。色?歴史?私はそれよりも重要な要素だと考えることがある。


それは期間が短いということだ。儚いものは美しい。春の桃色を楽しめるのは一、二週間くらいの限定的な景色なのだから桜は儚く美しいといえる。私達は希少なものに魅了される。


今度は下を向くとお世話にも美しいとはいえない濁った緑の池に沢山の花びらが浮かんでいる。池が白鳥の白さを際立たせている。


肩についた花びらを手で払う。そうすると二枚がひらりと落ちていった。その花びらはひらりひらりと池に落ちて、ひらりひらりひらりと春の死体に加わった。


桜の木の下には濁った死が待ち構えていた。


私はその儚く美しい桜が嫌いだ。春の季節が大嫌いだ。反射を忘れた池に自分の顔は映らないがどんな顔をしているかは分かる。


春は再来するけれど、同じ花びらの一枚ではない。私はそんな花びらの一枚に出会った。


広大な宇宙。他に生命体が存在してもおかしくない。いや、存在する。


ただ、出会ったことが無かっただけだ。


宇宙人が私の家に突然現れた。何度もインターホンを鳴らしていた。銀色の髪をしていて、銀色の服を着て、「私は宇宙人です」と名乗った。図々しくも泊まるところがないと私の家で匿うことになった。ご飯も地球のもので我慢するとのことだ。


私は宇宙人に色々と聞いてみた。例えば。


「かつてこの地球に強い電波信号を送ってきたやつがいる。観測した人はワオと驚いた。WOw信号と呼ばれる1977年に地球に送られた信号。あれと君は関係あるのか?」


「ああ、あれね。送った。送った。」


「どんな意味があったのか。」


「もうちょっとしたら遊びに行きますよって。」


真実なんて明らかになってしまえば、なんだそんなことかとがっかりすることも多い。宇宙人はチョコチップクッキーを頬ばりながら、続けて言った。


「40年くらい延期になったけど。約束通りに私は来たよ。」


「あっ。そういえば返事を貰ってなかった。ええと、『既読無視』ってやつ?」


「送ることはできるけれど、送り先を知らなかったんだろう。伝えておくよ。」


「あなたは優しい人だね。宇宙人式の返信の仕方を教えてあげる。」


宇宙人は私を褒めてくれた。ついでに電波の返信の仕方を教えてくれた。


次の日は宇宙人にUFOについて聞いてみた。


「円盤型なんてもう乗っている人なんかいないよ。燃費悪いしね。今はもっと四角い。あとガルウィングが付いてる。」


「ああ、あのスポーツカーのカッコ良いドアか。・・・四角いのか。三角はあるのか?」


「あるよ。星型もあるよ。高いけど。」


宇宙人は味噌汁を美味しそうに飲みながら教えてくれた。具はお麩がお気に入りのようで、毎朝、味噌汁に入れてやると大層喜んだ。


宇宙人と何度もトランプをした。あいつはいつも右側にジョーカーを持っていたから簡単に勝てた。3回に一回はそれを引いてやった。


あるときは深夜まで二人で話した。会話は尽きなかった。DVDを借りてきて映画を一日中一緒にみた。ケーキを買って帰ると飛び跳ねてはしゃいでいた。私が熱を出して寝込んでいると心配して隣にずっといてくれた。何の役にも立たなかったけれど。


ある日、宇宙人に聞いてみた。


「外には出なくて良いのか。もうちょっとしたら桜が満開で綺麗だ。折角なら見に行ったらいい。」


「いいの。」


宇宙人は悲しそうに言った。


「ピンク色の花は私が住んでいたところにもあったよ。故郷を思い出す。でもね、私はここからもう出られないの。宇宙船と同じ環境なのはあなたのこの家だけだから。」


あいつの言っていることなんて一つも信じられなかったが、妙にその話だけは本当のように聞こえた。


「地球の毒で死ぬ寸前だった。インターホンを鳴らすとあなたがドアを開けてくれた。ありがとう。もうちょっと。もうちょっとで助けがくるの。」


桜が満開になった。せめて花びらを見せてやろうと私はパーカーのフードに拾った花びらを入れた。宇宙人の反応を想像しながら急ぎ足で家に帰ってきた。


しかし、宇宙人はいなくなっていた。


私に友達と呼べる地球人はいなかった。でも、宇宙人にはいた。桜を見るとあいつとのくだらない日々を思い出す。


映画を観た。トランプをした。人生ゲームもした。ケーキを半分こした。何度も笑い合った。変なやつだったけど友達だった。色んなことを教えてくれた。


「・・・あっ!」


私は今まで引っかかっていた何かを思い出した。宇宙人式の返信の方法を私は教わっていたんだった。


私は入念に周りに誰もいないことを確認して、40年以上前の連絡に返信を試みた。


宇宙人は言っていた。


『人差し指で左目のまぶたを引っ張るの。そうしたら伝えたいことを念じて。』


私は宇宙人の指示通りにして、最後に伝えたいことを念じた。


目が乾いてきた。花粉も多い季節に私は自ら目に花粉を入れて、一体何をやっているんだろうか。馬鹿馬鹿しくなり、私は家に帰ることにした。


それから約三ヶ月後。外国の電波望遠鏡が妙な周波数の電波を捉えたとニュースになった。


きっと偶然だろう。読み方を聞いておくんだったと私は少しばかり後悔した。

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