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なつみの記憶
私がまだ小学校二年生くらいの頃だったと思う。
父が、近所の中華料理屋さんに連れていってくれた。
夫婦がやっているような、カウンターと小さな座敷しかない小さなお店。
「好きな物食べていいからね」
父が笑いかける。
「ラーメンがいい」
私は一番安い、ラーメンがいいと言った。
「なっちゃん、ラーメンだけでいいのかい」
「いいの。ラーメンが一番食べたいから」
父はラーメンを二つ頼むと、なぜか私の顔をじっと見つめた。
「なぁに。どうしたの」
「何でもないよ。なっちゃん、大きくなったなぁと思ってさ」
「なつはまだチビだよ。クラスでも前から三番目だし」
「そうかぁ」
父は何か思い出すようにそう言うと、運ばれてきたラーメンを静かにすすり始めた。
「なっちゃん、おいしいかい」
「おいしいよ。とっても」
それが父との最後の記憶。