九十七話【マストル探し】
螺旋階段の部屋から出るための扉をこじ開ける。
「っはぁ……重い……」
「これくらい頑張って持ってくださいよ」
「僕は一応美音様背負ってるんだけど……」
「……それならいいんスけど」
謎の納得を貰ったところで捜索開始だ。
「じゃあ、僕は右行くから、マキは左をお願い出来る?」
「了解ッス。あ、ちょっと待って欲しいッス……これを」
「……何コレ?」
マキが差し出してきたのは、手のひらサイズの小さな短剣だった。
「世界剣さんの分離体的なものッス。もしマストルさんに遭遇しま場合、直ちにその場所が分かるようにって提案ッス」
「なるほどね」
気が効きすぎるだろうと思ってしまうほど配慮が良い。さすがマキに”無敵の剣”と言わしめただけはある。
「マストルさんに遭遇した場合はすぐに逃げた方がいいッス。一応その剣にも最低限の力を込めてあるので、ある程度は誤魔化せるッス」
「……大丈夫なの?」
「確信はありませんけど……まぁ世界剣さんからの提案だったので……やらないよりマシと思ったッス」
「……そうだねぇ」
マキの中では世界剣の言うこと=絶対みたいなイメージにあるのだろう。世界剣も楽ではない。
「……あまり頼りすぎないようにね」
「そこら辺は大丈夫ッス!」
何を根拠に大丈夫と言っているんだ?と疑問になったがとりあえず伏せておこう。
今大切な事はそれではない。
「じゃ、改めて二手にね」
「はいッス。それじゃあ気をつけて」
逆方向に走り出したマキに手を振り、右側の通路へと足を向ける。
外からは悲鳴と雄叫びのようなものが絶えず飛び交っている。混乱はまだ収まっていない。
「早く見つけださなきゃ……」
存在感を辿り、より強い者の場所を探る。
しかし、いくら探っても見つかるのは弱い存在感のみ。マストル程の存在感は欠片すら現れない。オマケに……
「そこの使用人ー!」
「……はぁ、めんどくさい」
攻め込んできた兵士たちが無数の列を率いて向かってくる。しかも、数が圧倒的すぎて前後左右囲まれた。
「大人しくせよ!貴様が第六部隊を壊滅させたのは知っている!」
単独行動だったので、迫ってくる敵は全て気絶程度に倒してきた。第六部隊……みたいな細かな名称は分からないが、おそらく倒したのだろう。
「……あの、えと、すいません。僕、急いでるので……」
「知ったことか!覚悟せい!」
「はぁ……」
出てくる敵の台詞がパターン化されすぎてため息が出る。
「ため息なぞ着いている暇があると思うのか!使用人の分際で!」
「……ありますよ。少なくとも貴方たち相手なら」
後方列から飛び出してきた一人の兵の攻撃を本能で躱し、反撃に甲冑ごと殴り飛ばした。
「な……!あの腕っ節のユーテルがやられた……!?」
腕っ節だかなんだか知らないが、これが強い基準なら全然余裕だ。
「あの」
「「ひいっ!」」
少し声をかけただけなのに怖がられた。もうため息も出ないくらい呆れてしまう。
「……もう一度言いますが、僕は急いでるんです。道を開けていただけないでしょうか?」
数は聖皇軍より断然多いが、一度植え付けてしまえばもう苦労はない。
恐怖とは実に便利な感情だと身に染みて実感する。
「どうするよ……」「素直に開けるか?」「いやそれだとあの方が……」「関係ねぇよ!死ぬよかマシだ!」「でも、取り逃したら殺される……!」
周りの兵士たちが口々に弱音を吐き散らす。状況が停滞している。
これはこちらから動いた方がよさそうだ。
「……道を開けないなら、こちらが開けるまで」
その場から思い切って踏み込み、前列へと飛び込み、立ちはだかる兵士の内の一人の鎧を掴む。
「うえっ!?」
「借りますね」
掴んだ兵士を目の前に思いっきり蹴飛ばし、道を作る。
「……とりあえず危機脱出ってとこかな」
嘆き叫ぶ兵士たちを尻目に、僕はさらに足を進める。全く甘ったるい連中だ。
「この角は……右でいいかな───」
分岐路を右に曲がったその時、僕は絶句した。
「……誰が、こんな事……」
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