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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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九十五話【正念場】

 あえて援軍来ますよ的な言い方をして焦りを誘う。


 どうなるか……。


「ははは!援軍なら足止めしておいた。であるから安心せよ」


 そう来たか。


「……どうやって」


「我が軍を舐めるなよ。今回は質も量も素晴らしい数が揃っている。ここにいるのは全軍のほんの一部なのだからな」


 2800人が一部……これは逃げる筋を捨てた方が賢明なのかもしれない。


「……マストル、これは戦うしかないようだね」


「ひぇえぇ……俺帰りたいよぉ」


「帰ってるでしょ」


 泣きわめくマストルを落ち着かせ、戦闘態勢に入る。


 前と話し方を違わせたから、提案が来るか分からない。油断は出来ない。


「くくく……怯えているようだな。しかし安心せよ。そんな貴様らに取っておきの提案をしてやる」


「て、提案だと……?」


 おっと?これは少しいい感じなのでは無いのだろうか。


「どうだ、気になってきただろ?」


 ここで提案は好都合だ。現地点では最善手とも言える道なのだ。


 僕は同じように提案の開示を求めた。


「ふふふ……そう来ると思っていたぞ。では、その提案とは──」






 *






 そこからの展開は全て同じだった。


「俺の弟子にして配下であるコイツを倒せ!さすれば、大人しく引き上げてやろう」という騎士団長の提案。そして、それにキレたマストル。


 双方の合致により始まったマストルとアトラの一騎打ち。


 結果は変わらずマストルの圧勝。そして今、僕はその状況に直面している。


「……見事だった、マストル殿」


 騎士団長は奨励の言葉を添え、近づいてくる。


「約束だ。俺たちを解放しろ」


「分かっている。総員、直ちに道を開けよ」


 騎士団長が命じると、団員たちは素早く道を作る。これを見るのは二度目だが、本当に手際がいい部下だ。


 さて、道が開いたところで、ここからだ。


「ありがとうございます」


 お礼の言葉を言い美音(みおん)を抱き抱え、マストルを手を引く。


「おう?もう行ってしまうのか?」


「すいません。急いでるので」


 騎士団長からの引き止めも聞いている暇はない。


「お、おい。そんな急ぐ必要あるか?騎士団長もなんか言おうとしてたぞ……」


「あるよ。ここからが問題なんだ」


「も、問題……?」


 マストルは分からないだろうが、ここで誤ってしまえば全てが終わる。


 間違う訳にはいかない。


「はぁはぁはぁ……」


「ちょ、待てよ!俺戦ったあとなんだぞ!」


「でも急いでくれ!死にたくなかったらね!」


「はぁ?死にたくなかったら?」


 呆れるマストルを尻目に、急ぎ足で螺旋階段に向かう。


「止まれ!そこの使用人!」


 目の前に現れる無数の敵兵。こんな時に厄介な……。


「マストル、頼む」


「お、おうよ!」


 引っ張っていたマストルを前に投げ捨てる。


 その瞬間、激しい打撃音と何かが粉砕されていく音が響き、敵兵は宙を舞い、無様にも地に横たわった。


「……フッ、峰打ちだ」


「明らか峰打ちじゃないでしょ。音おかしかったよ」


「気にするな。倒せればいいんだ」


 ここら辺は前と違うが、おそらく許容範囲だろう。


「……っと、ここが螺旋階段の入口か」


「うん……急ぐよ」


 繋がる扉を突き飛ばし、螺旋階段へと走る。


「……よし、存在感は──」


 その瞬間、身がよだつような存在感が肌を通過した。


「……アルト、これは……」


「分かってる。振り返っちゃダメだ」


 この感覚、身に覚えがある。


「……女王の存在を確認した。直ちに連れて戻る」


 無機質で淡々とした口調……間違えない。


 あの傀儡の男だ。


「……おい、そこの使用人ども」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 マストルが変な声で返事をする。


「……ほぉ、意識を保ってられるのか。分身体で見た映像だと感じきれなかったが、案外精神力はあるようだな」


 ふと、視線をマストルに傾ける。


 足が少し逆方向に方向こうとしている。これは踏み込む時の足だ。


「マストル!馬鹿なことは考えるな!」


「……!なんでわかったんだ……」


 やはりそうだ。こいつは全く……


「分かるだろ。僕たちで行ったって勝てる相手じゃない」


「……けど……」


 分かる。挑まなければ何も始まらない。だから、捨て身でも、勝てないとわかっていても立ち向かう。


 だけど、それじゃダメなんだ。


「……気持ちは分かる。でも、無駄死だけはダメなんだ。僕たちの役割を忘れたの?」


「……そうだな」


 納得してくれたようだ。


「……随分と冷静だな。そんなに俺が弱く感じるのか?」


 問いかけには一切無視する。ここで下手に喋ってもいい事なんて一つもない。


「……反応無しでは面白くないぞ?貴様らの目論見は分かっている」


 嘘だ。わかっているなら、今頃僕たちは殺されているはず。


「おい、アルト……本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だから落ち着け。従順なふりをするんだ」


 落ち着け。ここが正念場なんだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

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