九十四話【進む】
これからどうしてやろうか と考えながら大廊下を駆ける。
マストルは知らないだろうが、王室にヘヴンはいない。いるのは美音なのだから。
しかし、今でも少し疑問だ。何故美音があそこにいたのだろうか?いる理由なんてないだろうに。
「何モタモタしてんだ!もっと早く走れよ!」
「……これで精一杯だよ!」
返しもあの時と同じがいいだろう。本当にあの時と同じに事が進むのか分からないので、安易に返してはいけない。
「ヘヴン様!大丈夫ですか!?」
同じように扉を突き飛ばし、いるわけのないヘヴンに向かって叫ぶ。
「……いねぇな。気配も感じられない」
「……そうだね。でも、ここから出た痕跡が見つからない」
概ね予想通りの反応だ。
「とりあえずここからの出ないと──」
「うむ?アルトにマストルではないか。こんな所で何をしておるじゃ?」
「うわっ!み、美音様!?」
完全に忘れていた。ここに来た時、美音は突然横から出てきたって事を。
そのせいで心臓が止まるくらい驚いた。
「ど、どうしてここにいらっしゃるのでしょうか……?」
まずい。驚いた反動で語彙が死んだ。
「どうしてとは……何となくじゃ。義妹と話でもしようかと思うてな」
「ほっ……」
良かった。返しもあの時通り。これで違う答えが出てきていたら驚いたでは済まなかった。
「すぅ……お言葉ですが、その理由は嘘ですよね?ヘヴン様がここにいない事と、何か関係あるんですか?」
「わ、妾は嘘などついておらん!お主、妾の言葉を否定するのか!?」
よし、ここもあの時と同じ。これでもう過ちを犯すことは無い。
しかし、ここからの展開には少し悩むところがある。
本来ならここで僕がここにいる理由について言及するのだが、それをする必要はあるのだろうか?
これがただの勘違いであれば、僕は無罪の美音を怪しめた愚か者だ。美音からのイメージを良い者にするためにそれは果たして賢明なのだろうか?
答えは……多分ノーだ。なにより──
「いえ、美音様がそう仰られるのなら、それが真実でございます。疑ってしまったこの愚か者をどうかお許しくださいませ」
美音だから嘘ついても大丈夫だ。何も悩むことはなかった。
「……う、うむ。分かってくれたならよいのじゃ」
美音も少しオドオドしているが納得はしてくれてる。
「……何やってんだ?」
「いや、何でもないよ。僕の勘違いだった」
「そうなのか?ならいいんだが……」
「うん……そろそろ来る」
「……何が?」
すると突然、ドンッ!という音を立て扉が吹っ飛んできた。
「あっぶね!」
マストルに直撃しそうだった扉を吹っ飛ばした正体はズカズカと王室に入ってきた。
「貴様ら!そこを動くな!」
「……まじか?」
「まじよ」
王宮兵士とは違う服装をした軍兵らしき男たちが、僕たちの目の前に立ちはばかる。
「……来たか」
「いやなんでそんな冷静なんだよ!これまずいだろ!」
何でと言われても、既に知ってたからとしか言いようがない。まぁ言わないけど。
「……何となく」
「な訳あるか!」
無理があったか。
「美音様、僕の後ろに下がってください」
「う、うむ」
衝撃で声も出ない美音を後ろに下げる。
「なぁ、お前アイツらに勝てると思うか?」
お前なら勝てるよ と言ってやりたいところだが、それは完全にアウトだ。
「……そう見えるのか?」
返しは前と同じにする。
「そっかァ……」
肩を落とすマストルを尻目に、敵の数を確認する。
改めて存在感を探ればその数は容易に測れた。
「……2800。多いな」
思ってた数より二倍ほどいた。
「……逃げられるかな……」
改めて逃げる道筋も考えたがおそら無理だ。
アトラですらあの速さ。ならば騎士団長は言わずかもなく速いだろう。
「いや、どこに逃げ道あるんだよ。入口にギュウギュウ詰めだぞ。隙間一つすら見えんわ」
「……まぁ考えればそうなるよね」
マストルの考えも尊重すれば戦闘は避けられないものとなる。
いや、戦闘自体はあって良いのだが、その後が問題なのだ。あの謎の男……アレに遭遇してしまえばバットエンドだ。
どうにかしてここを変えなければならない。
「ふん。やっと大人しくなったな、そこの二人……と、後ろに隠れている女王様ァ?」
そうこう考えていると、騎士団長が前に出てきてお決まりの台詞を吐いた。
前と同じ通りに答えてもいいのだが、それでは何も変わらない。
ここは勝負に出る。
「……だからなんだと言うのですか?貴方たちが何者かは知りませんが、そんなにゆっくりしている暇はあるのですか?」
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