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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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九十一話【壊せ】

「が……が、があああ!」


 後ろに引き下がったマストルは、突如として胸を抑えながら苦しみだした。


「……!?マストル!大丈夫か!?おい!」


「……うむ、やはり耐久性も十分だ。これなら良い傀儡が作れる」


 男は笑って呟く。


「……マストルに何をした」


「……俺は何もしていない。ただ、やつが自滅しただけに過ぎん」


「自滅……?」


 後ろからだが、マストルの行動は一つ逃さず見ていた。自滅のような動作はなかったはずだ。


「……信じていないようだが、それは本人に聞けば分かる」


 そんな事言われてもマストルは (うずくま)って話ができる状態じゃない。


「お前がそうさせたんだろ!」


「……俺が言っているのは真実だ。根拠もなく否定するな。それに───」


「ぐ、ぐぎ……」


「……そろそろお前の仲間も死ぬしな」


 先程は激しく蠢いていたマストルだったが、次第に動きが少なくなっていた。


「どういう事だ……なんで、こんな事に……」


 マキはいないし、メイもここにはいない。このままでは本当に……


「マストル!返事をしてくれ!お願いだ!」


 体を何度とも揺する。だが、数分後、マストルは動かなくなり、冷たくなった。


「……長かったな。いいデータが取れた」


「……ふざけやがって!よくもマストルを……!」


 何度声を掛けても、マストルが返事をすることはなく、その声は虚空に消える。


「……そう焦るな。お前もすぐにそいつと同じ場所に送ってやる」


 男は無慈悲な声で告げる。


「……トートよ。実験対象に死を」


 男が命じると、黒砂の傀儡(トート)はその体を宙に散らす。


「……くそ!」


 なんでこんなにも、僕は無力なんだ?


 本来の目的である美音(みおん)を危険に晒して、あまつさえ友を失った。


 あぁ、なんて無力なんだ。こんな自分、”壊れてしまえばいいのに”。


「……そうだ。僕が僕じゃなくなればいいんだ。そうすれば、奴を……」


 意識が途切れた先にある”何か”。怒りでもない、冷淡さを保った狂気の表面。


「殺せる」


 いつからだろうか。こんなにも、人を殺したいと思ったのは。


 いつからだろうか。自らを手放してでも、殺したいなんて思うようになったのは。


「……始めよう」


 そこから、僕の全ては”何か”に突き動かされた。


 まずは、あの邪魔者(傀儡)を取り払わなければ。


「……邪魔」


 右手で迫ってくる黒い砂を振り払う。


「……今のを風圧だけで防ぐか。……操作系か?」


 驚く男、所詮こんなものか。なら、まだ余裕はある。


「おい、お前」


 ただ、一つだけ問いたい。


「……なんだ」


「マストルに対して、何か言うことは無いのか?」


 ここで謝罪の一言でも出てきたなら、せめてもの救いで痛みなく殺してやる。


「……何か言うことがあるのか?俺は実験体(モルモット)を本来の使い方通りに使っただけだ」


「……マストルが実験体(モルモット)とでも言うのか?」


「……そうだが?何も不思議なことではないだろう?」


 人一人殺しておいて、贖罪を表す気もない。慈悲なんて考えた僕が馬鹿だったようだ。


「……で?お前も死ぬ気になったのか?」


 何を言っているんだ?死ぬのはお前だ。でも、その前に


「……美音(みおん)、少し待っていてくれ。僕はやるべき事があるんだ」


 美音(みおん)まで巻き込む訳にはいかない。せめて危害が及ばないよう、保護でもしてあげる。


「……小結界(バリア)だと?操作系ではなかったのか?」


「……どうだっていいよ」


 咄嗟に出たものだから、僕自身もどうやって出したのかは分からない。


 でも、今優先すべき事は決まっている。疑問は後回しだ。


「……殺してやる」


「……よいだろう。お前にも、あの子供(ガキ)が味わった傀儡の味を教えてやる」


 傀儡の味?そんなもの味わう前に壊してやる。


 マストルの仇……この手でとるまでは。

読んでいただき、ありがとうございます。

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