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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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八十九話【歪】

 寝ている美音(みおん)を腕に抱き抱え、全力で大廊下を駆ける。


 後ろが少し気になるが、今は言ってられる場合ではない。


「……なんだったんだろうな、あの音。歪な予感がするぜ」


「……同意見。僕も嫌な感じがしたよ」


 マストルが口を尖らせる。


 あの時感じた存在感。あれは特段やばい感じがする。アトラの時感じたものとは別格だった。


「止まれ!そこの使用人!」


 前方から僕たちを止める声が聞こえる。見たことの無い無数の鎧の兵、おそらく敵だ。


「マストル、頼める?」


「任せろ!」


 マストルは合図と同時に体勢を傾け、一気に敵の懐に入り込む。


「なっ……!貴様!」


「悪いな。こっちだって急いでるんでね」


 マストルが発したとほぼ同時に、無数の兵は意識を失った。


「フッ……峰打ちだ」


「カッコつけてる場合か。それと、全然かっこよくないぞ」


「う、うるせぇ!倒したんだから文句言うな!」


 ポーズを取っていたマストルを急かし、一階へと繋がる螺旋階段へと走った。


「ここだな……見るのはあの時以来か」


「あの時……そう言えば、結局美音(みおん)様はどうなったの?いつの間にか居たみたいな感覚なんだけど……」


「……どうだったっけ?ただ俺が帰ってきた時はもう居ましたよ的な感じだった気がするが」


「なんだよそれ」


 それでは地下に行って捜索した意味が無いだろう。無駄足とは言わないが、それによって受けた代償を考えれば行くべきではなかった。


 あの地下での襲撃で受けた傷は、僕ではなくヘヴンに残った。


「……」


「お前、また考え事してるだろ。しかも下なんか向きやがって。少しはプラスになれよ」


 マストルが肩を叩いてくる。正直、痛い。加減しろよ と返したくなったが我慢した。


「……そうだね。今はやるべき事があるんだ。それに、ヘヴン様には荒伽(あらか)がいるからね……」


「だな。そうと決まれば、さっさとここを脱出しないとな」


「そうだね」


 とは言ったものの、螺旋階段の長さは尋常じゃないほど長い。そしてでかい。


 手すりを伝ってスゥーって感じで降りたとしても、かなり時間が掛かる。


「どうしたもんか……」


 困り果てていたその時、後ろから猛烈な存在感を感じた。


「……マストル、振り返っちゃダメだ」


「……奇遇だな。俺も同じ事考えてた」


 足がすくんで動かないほど凶悪で、嫌悪してもしきれないような存在感。しかし、一度感じたことのあるような存在感だ。


「……女王の存在を確認した。直ちに連れて戻る」


 声から察するに男。歳は20前半と言ったところだろうか。だとしたら圧倒的に不利だ。


「……おい、そこの使用人ども」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 マストルが変な声で返事をする。


「……ほぉ、意識を保ってられるのか。分身体で見た映像だと感じきれなかったが、案外精神力はあるようだな」


 分身体?映像?何を言ってるのか全く分からない。


 それに、見ていた という事は、敵兵を倒すところも、大廊下を走っていた時も全て見られていたというのか?


「……そう焦らなくてもいい。俺はお前が抱いてる女王を奪取しにしただけだ。お前たちに危害を加える気は───」


「おっりゃあああ!」


 男が話している途中、横に立っていたマストルが突然、男に向かって動き出した。


 その場から勢いよく飛び出したマストルは、右足で蹴りを繰り出した。


「……哀れな。態々死にに来たのか?」


「へっ!死ぬのはてめぇだ!」


 マストルは男を射程圏内に捉えていた。この蹴りは当たる。


「……その蹴りが俺に当たるとでも?」


 男が言いかけた瞬間、マストルの蹴りは炸裂した。


 しかし、男は微動だにせずそこに佇んでいた。


「……なッ!」


 蹴りを当てたマストルだったが、瞬時に後ろに引き返した。


「……さすが危機察知能力に優れた異形質(イギョウシツ)……今ので引き下がるか」


 男は残念そうに言うと、服に着いた埃を払った。


「……今の蹴り、当たったんだよね?」


「……当たった。正確に言えば、アイツじゃない”何か”に……だがな」


 マストルが息を飲む。緊張しているのか、冷や汗を滲ませているのが見える。


「何かに……?あの男に当たったんじゃないのか?」


「……どうだかな。でも、あの感覚は人間のものじゃなかった。機械とか木材とか鉄筋とか……よく分かんねぇ感覚だ」


 見ていた感じでは、マストルの蹴りは確実に奴を捉えていた。音は確かに変だったが、男の周辺にはそれをガードするようなものはなかった。


「……アルト、こいつぁ想像以上にヤバそうだ」


 マストルにそこまで言わしめる敵……蹴りを炸裂させたあの時のマストルは何を感じたのだろうか。


 身震いがする。体が怯えているのか?


「……俺は子供だからって手加減はしない。時間も惜しい。終わらせる」


 男はそう言うと、手を前に差し出した。

読んでいただき、ありがとうございます。

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