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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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八十七話【万生状態】

 


 振り下ろした剣の先、誰もがマストルの死を確信した。しかし───


 ストンッ


 爽快な音を立てて、アトラの剣は床に突き刺さった。


「──誰がお別れだって?誰がさよならだって?」


 先程地に蹲ってたマストルは、いつの間にかアトラの後ろにたっていた。


「っ!いつの間に……!」


「……悪いな。お前の剣が遅すぎて殺しちまうとこだったぜ。あの時は少々油断したが、もう後戻りは出来ねぇ」


 怒りがこもった笑みを浮かべたマストルは、瞬時にアトラの目の前に移動し言う。


「あの時だって……?」


「あぁ、あの時だ。今の俺とさっきの俺は違うからな」


「一体何が違うと……」


「解放したんだよ、アレを。いちいち深くは言わんがな」


 マストルの口調から察するに、おそらく万生状態(エンペラーステップ)を解放したんだろう。


 ついに本気……と言ったところだ。


「……どんな小細工を使ったのかは知りませんが、私の勝ちは揺るがせません。もう一度貴方を倒します……!」


「そう来るよな。でも、俺だって学習くらいはする……殺す気で行くから覚悟しろよ」


 双方再び距離を取り、構える……訳ではなかった。構えたのはアトラだけだ。


「……?構えは取らないのですか?」


「本来俺は型とかそんなモンを使うタチではないからな。全力なら感覚重視派でね」


「……なるほど。では……行かせてもらう!」


 構えを深く取り、アトラは目を瞑る。


「七抜刀法……乱舞(らんぶ)!」


 先程とは違う踏み込み……しかも速い!


「マストル!」


「……アルト、そんなに心配すんなよ」


 アトラの鞘から剣が抜かれ、素早く加速する。剣の握り方を見るに、連撃。再生より早く斬り込む気だろう。


 しかし、アトラの斬撃は全て”外れた”。


「……外れた?」


 騎士団長が驚きの形相を浮かべる。

 それほどまでに凄い型なのだろうか?


「……な、なぜ」


 斬りこんだ先、剣を下ろしたアトラが騎士団長よりも驚きの形相で呟く。


「なぜです……?なぜバラバラになっていない?」


 それは斬撃が外れたからだろう。


「俺は剣の扱いには慣れてるもんでね。全部躱しといたぜ」


 笑って返すマストル。しかし、アトラは怒りの表情でそれに返す。


「ふざけないでください!僕は絶対に貴方を斬りました。刀身が肉を割いた感触……あれは避けられては感じられないものです。それを感じたということは……」


 剣がマストルに当たった、とでも言うのだろうか。しかし、それは有り得ない。


 現にマストルは平気だし、アトラの斬撃も全て見ていたが、マストルに切れ込みが入る瞬間は一度もなかった。


「一体、どんな小細工を使ったんですか……!」


「なんも?俺はただ避けただけよ。小細工は使ってない」


「嘘八丁な……当事者である僕は騙せませんよ!」


 マストルは、やれやれ と言わんばかりに頭をかくと、面倒くさそうな感じで答えた。


「……これ以上の誤魔化しは効かないようだな。そうだよ。俺はお前の斬撃を受けた。思いっきりな」


 マストルの思いがけない返答に、僕を含めたその場の全員が「えっ!?」と声を上げる。


「……やはりそうでしたか」


「そうでしたよ。んでもって、その攻撃は俺に通らなかった……そんだけよ」


「……それも嘘ですね?」


「何故?」


「僕の剣がその身体を割いた……しかも、今僕が使用した型は、仮にも我流最速の連撃の型……それに貴方の再生が追いつくはずがない」


 その言葉には少し驚きだ。再生云々より、今までの型が我流だった、という事にだ。


 しかし、マストルは表情一つ変えずその言い分を聞いている。


「僕が先程使用した”神成(かみなり)”は一撃で多量の面積を抉りとり、瞬時に致命傷や絶命を誘う技。ですが、切込みの速度がこの乱舞(らんぶ)には劣ります。この意味が分かりますか?」


 実際受けた訳では無いが、今の説明で理解した。それならアトラが理解不能になるのも納得だ。


 しかし、それはマストルを理解していないという事にも繋がる一言だった。


「……へっ、そこまで理解してるなら答えを教えた方が早いな」


 マストルは口元を歪ませ、悪役風に答える。


「お前の斬撃は通った。しかし、俺の再生がそれを上回った。それだけだ!」


 僕を除いた誰もが、その言葉に耳を疑った。


「そんなわけありません!僕の話を聞いていましたか!?」


「じゃあお前も俺の話を聞いていないな……俺、さっきなんて言ったか覚えてるか?」


「え……?ええと……」


「”今の俺とさっきの俺は違うからな”、って言ったんだよ。ていうか、このやり取りさっきもしただろ」


「……それとこれになんの関係が──」


「俺の力は神経の異常性を特質として発揮するものだ。その恩恵で得られるものは危機察知能力や再生などの”生存”に特化したもの……即ち”進化”だ」


「……進化?」


「そうだ。だから、俺の体はお前の斬撃を上回るため……進化(アップグレード)したんだ。だから今の俺にどんな速度で切り込んでも傷一つ残らない。音速だろうが光速だろうが、同じ事だ」


 それを聞いて軽くショックを受けた。

 ここまで強いとは思っていなかったので、置いてけぼりをな喰らった気分だ。


「……そ、そんな」


 ああ、さっきまでやる気十分だったアトラの顔が絶望に染まってる。もう終わりだ。見るまでもない。


「分かってくれたようだな。なら、やることは決まったな」


 勝負が決した所で、ふと美音(みおん)へと視線を移した。


 寝てる。相当暇だったのか、それとも気絶してるだけなのか、よく分からない。


 まぁしかし、寝てくれてるなら運びやすい。これでスマートに脱出できる。


「マストル、早めに終わらせてくれよ」


「おう、分かってるさ……さてと」


 肩を回しながらマストルはアトラに近づいていく。


「ここからが勝負どころだ。簡単に殺られてくれるなよ?」


本編読んでる方は気づいてる人もいると思いますが、本気状態→万生状態に改名してます。


いきなりですいません。一応過去回も修正してます。

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