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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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八十三話【提案】

「アルト!もっと早く走れよ!」


「これ精一杯だよ!」


 王室を目指し、ただひたすらに大廊下を駆ける。


 そこら中から従者たちの悲鳴と走る音が聞こえる。王宮は混乱状態だ。


「ヘヴン様!無事ですか!?」


 王室の扉を突き飛ばし、叫ぶ。

 しかし、目の前にある王の椅子には誰もいない。


「……いねぇな。気配も感じられない」


「……そうだね。でも、ここから出た痕跡が見つからない……とりあえずここから出ないと───」


「うむ?アルトにマストルではないか。こんな所で何をしておるじゃ?」


「うわっ!み、美音(みおん)様!?」


 部屋を出ようと振り返ると、その後ろには不思議そうな顔で僕を見つめる美音(みおん)の姿があった。


「ど、どうしてここにいるんですか!?」


「どうしてとは……何となくじゃ。義妹と話でもしようかと思うてな」


「は、はぁ……?」


 美音(みおん)がヘヴンと話を?いや、絶対に有り得ない。


 僕はあの時の言葉を忘れてはいない。何を考えているかは知らないが、理由なしにヘヴンの部屋にいるなんておかしい。


「お言葉ですが、その理由は嘘ですよね?ヘヴン様がここにいない事と、何か関係あるんですか?」


「わ、妾は嘘などついておらん!お主、妾の言葉を否定するのか!?」


 当然だ。


「……僭越ながら、僕は以前美音(みおん)様がお話になられた言葉を覚えております」


「それがどうかしたかの?」


 ここまで来てもしらを切るつもりか。なら、このまま問い詰める他ない。


「……ご冗談を。僕はあの言葉を軽視することはできま──」


「おいやめろ!今話してる相手が誰か分かってないのか!?」


 青い顔をしたマストルが静止してきた。


「……知ってる。でも、これだけは許せない……!」


「落ち着けよ!今はこんな事やってる場合じゃないんだ!急いで逃げないと敵兵が……」


 マストルが言い終える瞬間、王室の扉が大きな音を立て吹っ飛んできた。


「貴様ら、そこを動くな!」


「……まじか」


 吹っ飛んできた扉を破壊した先に見えたものは、明らかに王宮兵士とは違う服装をした軍団だった。


「……まさか王宮に侵入してたなんてね」


「言ってる場合かバカヤロウ!」


 確かに言ってる場合では無いが、この状況では特にできることがない。


「……美音(みおん)様、僕の後ろに下がってください」


「う、うむ」


 突然の緊急事態なので問い詰めは中止だ。


 さて、ここからどうしたものか。


「なぁ、お前アイツらに勝てると思う?」


「……そう見えるのか?」


 マストルの呟きは、返すまでもないものだった。


 全体は見えないが、王室の半分を既に覆ってるのでその数は最低でも1000人。


 しかも、その前線に立っている数名の兵士はとても高価そうな鎧を身につけている。おそらく軍隊長とかそこら辺だろう。


 そんな大軍を僕たち二人で対応しきれるだろうか?答えはノー。絶対無理だ。


「……逃げるしかないのか」


「いや、どこに逃げ道あるんだよ。入口にギュウギュウ詰めだぞ。隙間一つすら見えんわ」


「……だよね」


 退路は絶たれ、救援も望めない最悪の状況だ。しかも、後ろには女王である美音(みおん)がいる。


 絶体絶命だ。


「ふん。やっと大人しくなったな、そこの二人……と、後ろに隠れている女王様ァ?」


 前列に立ってた男が口を開く。


「……貴方たちは何者ですか?我が王宮に勝手に入り込んできた挙句、この仕打ちはタダでは済まされませんよ?」


「クッ……ハハハハハ!面白い質問だな。ただの使用人かと思えば、中々筋がいいようだ!」


「……そりゃどうも」


 背筋が凍るような対面だが、決して怯んではいけない。


「良きだ。冥土のみあげに教えてやろう。我々は、偉大なるグラマス王に仕える軍隊……人呼んで聖皇軍(ホーリーパレード)!」


「……聖皇軍(ホーリーパレード)?」


「そうだ!」


 何とも有りきたりでダサいネーミングなのだろうか というツッコミは置いといて、グラマス王という名には聞き覚えがある。


 確か第六十三王都(パレスメル)の王……しかし何故それの軍がここにいるのだろうか。


「……何故ここに?」


「ふむ……何故かぁ……」


 僕の質問に、男は悩んでいる様子だ。何か教えられない理由でもあるのだろうか?


「……教えられない理由でもあるのですか?」


「いや、別に教えてやってもいいぞ」


 返ってきた言葉は案外アッサリしたものだった。もう少し取引とかあるのかと思ったが、そんな事はないようだ。


「では、その理由をお聞かせ願いた──」


「……ただし」


 理由を求めた瞬間、男は僕の台詞に割り込んできた。


「なんですか?まだ何か要求でも?」


「ふふふ、そういう訳では無い。実を言うとな、俺たちはある男の命で、お前の後ろに隠れてるつもりの女王を奪いに来たのだ」


「……やはりそうか!」


 この状況を考えれば、その答えは必然的だ。分かっていたとしても、この言葉は思ったより重い。


「しかしながら、折角面白そうなやつを見つけたのだ。ここでとっておきの提案をしようではないか」


「……提案だと?」


「そうだ。聞きたいだろ?」


 突然の出来事に一瞬戸惑ったが、聞いてみる価値はある。


 僕はその言葉を信じ、提案の提示を求めた。


「ふふふ……そう来ると思っていたぞ。では、その提案とは──」

読んでいただき、ありがとうございます。

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