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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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八十二話【大至急】

 あの日から一週間たった。僕は依然として王宮使用人としての日々を送っている。


 あの日から色々と変わった事がある。

 一つは、マキがヘヴン直属侍女として働くようになったこと。

 そして一つは、僕がヘヴン直属から美音(みおん)直属の使用人に配属が移ったことだ。


 これは美音(みおん)がヘヴンに持ちかけた話だが、ヘヴンはアッサリとそれを認証した。


 その事実を聞いた時はショックだった。いや、美音(みおん)のそばに常にいられることには嬉しいの限りだ。

 これで堂々と寝顔を見られるのだから。


 だけど、僕の心には何故か痛みが残っていた。


「どうしたんだよ。朝っぱらからそんな顔して」


「あ、おはようマストル。朝食は大丈夫だった?」


「何とかな……今日は一段と起きるのが遅くて、メイ様に殺されかけたぞ」


「あはは……お前はいつも通りだな」


「……」


「どうした?」


 いつも通りのマストルなら、ここで「バカにするなよ」など返してくるはずだ。

 しかし、今日は何故か黙り込んでいる。


「気分でも悪いの?医療室まで一緒に……」


「……お前、そんなに強がって何がしたいんだ?」


「……え?」


 強がる?僕が?


「な、何を言ってんだよ。僕はいつも通りさ」


「お前の目の色が曇ってるのはいつも通りなのか?」


 目の色が曇ってる?そんな事はないはずだ。今日はいつも通りの日常。何も気にする事なんてない。


「……お前さぁ、あの時メイ様の言う通りにして休んどけば良かったんだよ。ここ一週間のお前はお前じゃねぇ」


「そんな事……」


「ある。そうでなきゃ、俺もいちいちこんなこと言わねぇよ」


 いつも通りじゃない?そんな訳ない。僕はいつも通りなんだ。いつも通りにするって……決めたから。


「……ほらな。どうせヘヴン様のこと考えてるんだろ。本来なら、お前は美音(みおん)様の直属になれて嬉しいはずなんだ」


「……やめてくれ」


「じゃあ正直な答えを言ってみろよ」


「……僕は」


 言いたいことは心の中に山ほどある。でも、それを口にすることはできない。


「はぁ……お前の本心は……惜しかったんだろ?あの日々が」


「……やめろ!」


「やめないね。お前の口から言うまで、俺は何度でも──」


「アルト!マストル!大変だ!」


 大声で僕たちの名を呼びながら走ってくる影がある。


「おお……どうしたよ荒伽(あらか)。お前が慌てるなんて珍しいじゃん」


「そんな事より……早くここから逃げるぞ!もうすぐここまで奴らが来てる!」


「……奴ら?誰だよ?」


「はぁ!?お前たち聞いてないのか!?敵国だよ!長年対立してきたノズマリアがついに攻め込んできたんだよ!」


「「!?」」


 有り得ない。第六十五王都(ノズマリア)第四十六王都ヴァルジニアが対立していたのは昔から変わらない。


 しかし、第六十五王都(ノズマリア)が攻め込んできたのは前世で言うと約四年後の話だ。これは明らかに早すぎる。


「まじかよ……あの国の野郎、とっ捕まえてぶっ殺してやる!」


「よせ、マストル!お前が叶う敵じゃない!」


 そうだ。前世での戦争では我国である第四十六王都(ヴァルジニア)は大敗している。


 前世で聞いた”裏切られた”という言葉はあまり分からなかったが、おそらく国内に裏切り者がいるのだろう。


「そういう事だ。俺は女王様連れてくるから、お前らはヘヴン様を救出して来い!」


「おうよ!荒伽(あらか)も気をつけてな。じゃあ行くぞ、アルト!モタモタしてると大変な事になっちまう!」


「あ、あぁ……」


 とりあえずはそうだ。この戦争で一番あってはならないこと、それは美音(みおん)が殺されてしまうことだ。


 僕がそれを助けなければ、この人生に意味はない。

読んでいただき、ありがとうございます。

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