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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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七十九話【よろしく】

 睨み合いは続く。


 正直、どのタイミングで合図するかなんて分からない。下手をすれば、美音(みおん)の気を損ねる。


 早まらず、遅からず、完璧なタイミングで。


「(歌絲(かいと)さん……マストルさんはいつしかけてくるんスか……?そろそろ心が限界ッス……)」


 マキからの感性会話(ディレクト)。相当焦っている。それは分かる。


 しかし、今は美音(みおん)の方が問題だ。時が進むにつれ歪むその顔は、既に爆発寸前。これ以上待つことは厳しい。


 頼むから、何か言ってくれ と願う。だが、それはさっきから行っている事だ。それでは変化がない。


 こうなれば、最終手段中の最終手段だ。折角計画した作戦を壊すことになるが、結果が良ければなんだっていい。


「……美音(みおん)様」


「なんじゃ!今妾は忙しいのじゃ!邪魔するでない!」


「……せ、僭越ながら申し上げます。ここは、僕に免じて慈悲を下さいませんか?」


 緊張でマトモに言葉が出てこない。しかし、ここで引く訳には行かない。


「……慈悲じゃと?」


「は、はい。確かに前者が美音(みおん)様に対して無礼を働いたのは承知しております。しかし……」


「しかし……?」


「この方は……僕の姉なのです!」


「……は!?」「……え!?」


「……今なんと?」


 我ながら思い切ったことを言ったものだ。言った瞬間後悔した。


「……この女性は、僕の姉なのです」


「(ちょっ……歌絲(かいと)さん!それは無理あるッスよ!私が歌絲(かいと)さんの姉なんて……ていうか作戦は!?)」


 慌てるのも当然だろう。だって、今回は完全作戦外の独断行動。伝えるなんてしてない。


「(いきなりでごめん……でも、動き出せない限りこれしかないんだ)」


 そうだ。待つ必要なんかない。こちらから動けばタイミングなんていくらでも作り出せるのだから。


「(だから、マキには少し姉役でいて欲しい。大丈夫。マストルなら機能してないから)」


 僕の発言にマストルは混乱し、果てに茫然自失。これで邪魔は入らない。


 ここからが本番だ。


「……だからどうしたと言うのだ?それでは、お主は無礼者に加担する反逆者となるぞ?」


「承知の上でございます。しかし、僕には姉が故意で美音(みおん)様を指したとは思えません」


「……何上での考えか?」


 よし、上手く引き込めている。この調子ならどうにかなる。


「はい。姉は昔から優しい方で、誰よりも人に尽くしてきました。自らが致命傷を負っていた時でさえ、僕を庇うためにその身を差し出していました」


「……ふぅん」


 これは全部本当の話だ。姉であることは嘘だが、マキが優しい人間であることは事実だし、今の話だって過去のことを置き換えて話しているだけ。


 何も緊張することは無い。


「確かに、これだけでは故意でないという否定はできません。しかし、本人の口から言われない限り、一概に故意であると決めつけるのは些か安直であると存じ上げます」


 少し言いすぎた気もするが、これで無理なら諦める。諦めると言っても、マキだけは絶対に殺させないが。


 僕の話を聞いた美音(みおん)は、腕を組み悩んでいる様子だ。やはり無理なのだろうか。


 頼む。頼むから上手くいってくれ。


「……そなたの言い分、しかと受け取った。確かに妾も安直であったな。今回の無礼は目をつむろう」


「……ありがとうございます!」


 結果は成功だ。悩んでいる素振りを見せた時はダメかと思ったが何とかなった。


 安堵した瞬間、体の力がグッと抜けた。


 これで、安心してマキを王宮に連れて行ける。


「(うわぁぁぁあ!歌絲(かいと)さぁーん!わ”だじ、もうダメかと思いましたよぉ……)」


「(あぁマキか……とりあえず落ち着いて。ここで泣いても意味ないよ)」


「(いいじゃないッスか!これでも私感動してるんスよ!)」


 何に感動してるのかは不明だが、とりあえず良かった。マキの心が死んでいたら、それこそ取り返しのつかないことになっていた。


「(じゃあ、とりあえず感性会話(ディレクト)切る──)」


 マキを静止させ、一旦感性会話(ディレクト)を切ろうとしたその瞬間。


「うわぁぁぁあん!歌絲(かいと)さぁーん!」


 こちらに全速力で向かってくるマキの姿あり。しかも勢いが尋常なものでは無い。


「チョット待って!いや言ったのは僕だけど!だけど今すぐは聞いてないッ──」


「うわぁぁぁあぁあああああ」


「グフッ!」


 激突した場所は丁度急所。

 あぁ、気が遠のく。また気をうしなうのか。


 体が宙を浮く感覚に襲われる。今度は大樹ではなく、家の壁を突き破るのだろう。直すのが大変だ。


 受身を取るのを忘れたが、今更動作する気力なんて存在しない。素直に受けるしかないだろう。


「……全く、本当に世話が焼ける子たちね」


 気絶するほんの数秒前、部屋の扉の奥に見えた姿に目を持っていかれた。


 その瞬間、全て理解した。


 そうか。この作戦が上手くいったのは彼女のおかげだったのか。どうりで美音(みおん)がアッサリ納得した訳だ。


 という事は、僕たちの今までの茶番は全て彼女の手のひらの上にあった訳だ。


 折角不甲斐ない姿を見せてまで頑張ったと言うのに。少し悔しい。


 ゴシャアアアン


 案の定、僕の体は家の壁を突き破り、外へ放り出された。


 大樹に激突した体はボロボロで、再起不能状態にまで陥っていた。


「……メイ……様……あと……よろしく……です……」


 最後に見たその姿に言い残し、重い瞼を閉じた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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