表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
80/115

七十八話【終わらせない】

「()」を使ってる時は感性会話の時になります。

「歌絲さーん!」「アルトー!」


 耳が痛くなるような声に誘われ、突然意識が戻ってきた。


 薄らと見える二つの影から射す光が眩しい。


 そして、やけに周りがうるさい。加えて頭も痛い。


「歌絲さーーん!起きてくださいッス!」

「アルトー!置いてくぞ!」


 二人の声が重なるその時が一段とうるさい。今は気分が悪いから安静を取らせて欲しいのだが。


「ん〜」


 結局、その声を止めるために返事をした。おそらく、この声はマキとマストルだろう。


「あ、起きましたね」


「そうですな。全く、これだからコイツは……」


 返事したらしたで、今度は呆れの言葉が返ってきた。人を起こしといて酷いやつらだ。


「じゃあ、後はメイさんに連絡するだけッスね。私が行ってくるので、歌絲(かいと)さんを連れてきてください」


「分かりました。じゃあ、まずはコイツをベットから下ろす事からだな……」


 ん?ベットから下ろす?今僕はベットの上にいるのか?走行中ではなかったのか?


「よっと……ここは……?」


 重い体を起こした先に広がる、懐かしい部屋の雰囲気と匂い。なんだか既視感がある。


「おー、やっと歩く気になったか。あの時はあんなに早かったくせに、なんで今になってこんなバテてるんだよ」


「……?」


 状況が理解できない。そもそも、なんでベットの上にいるのかすら分かっていないのに、質問なんて論外だ。頭がさらにこんがらがる。


「なんだその顔。言っとくけど、覚えてねぇとは言わせねぇからな。一度ならず二度も俺を置いていくとは流石に思わなかったぞ」


 一度置いていったのは覚えているが、二度目はよく分からない。もしかすれば、また気絶中に何かあったのかもしれない。


 とりあえず、ここは誤魔化しの意味を込めて……


「……面白いこと言っていい?」


「……なんだよ」


「覚えてない」


 マストルの返しに間髪入れず答える。一種の嫌がらせだ。


「はぁ……予想はしてたが、お前も(ワル)になったなぁ」


「いいでしょ。これが僕の本性なんだよ」


「そのくせ、一人称僕か?可愛いことだなぁ」


「……殴っていい?」


「ほぉお?散々やってきたけど癖にその言い分か。随分と肝が据わってるな、アルト」


 上等だ。喧嘩を売ったのは僕なのだから、あちらが買うなら受けて立つ。


 いっその事、少し懲らしめてやるという手も……


「止めぬか!二人とも!」


 バチバチと火花を散らす僕たちの間に、誰かが割って入ってきた。こんな時に一体誰だ?


 声は高いのでおそらくマキだろう。全く、少しは空気を読んで欲しいものだ。


「ちょっと待ってくれ、マキ。僕たちは今から真剣勝負をしなければならな──」


「はーい、呼びましたか?」


 マキに話しかけた途端、先程音源がした逆の方向にある窓からマキが顔をだした。


「え?マキ……なんでそこに?」


美音(みおん)さんが見つからなくって、外を探してたんスけど……あ」


 マキは、「見つけたッス」と言いながら、僕の視線の逆の方向に指を指した。


 そこは、先程マキの声がした場所だった。


 しかし、マキは目の前にいる。


 どういうことだ?


そう思い、おそるおそる後ろを振り向くと、真っ青な顔で佇むマストルと、むくれた表情の美音(みおん)が立っていた。


「貴様!妾に指を指すとは何事か!死にたいようじゃな!」


 マキに指をさされたことが気に入らないのか。美音(みおん)は声を荒らげ、逆にマキに指を傾けた。


「いえぇ……別にそんなつもりは……」


 突然死刑宣告をされたマキは、オドオドしながらかろうじて返事をした。しかし、それでは美音(みおん)の怒りは収まらない。


「問答無用じゃ!マストル、無礼者を今すぐひっ捕らえよ!」


「……え?俺ですか?」


「当然じゃろう!お主以外に誰がおる?」


「お言葉ですが女王様……わたくしめにはそんな力はございませんと存じ上げますが……あの……」


「ええい!お主まで妾に反抗するのか!王宮に帰還したら死刑にしてやろうか!?」


「それだけはご勘弁をぉ……」


 これはまずい。こうなっては、絶対誰か一人が犠牲になる。


 このパターンを見るのはこれで十回目。だからこそ分かる。解決法が全くない。


 これまで見た事例全てで、最大五人、最低でも一人が犠牲になっている。しかも、この事例には僕たちと同世代だった子供も含まれている。


 つまり、年齢によるお情けなど通用しない。


「ぐぅうう……姉御……」


 マストルは迷い、美音(みおん)は怒り、マキは泣き目、もう正常な状態ではない。この場を打開する術が、全く思いつかない。


 しかし、このまま黙って見ている訳にも行かない。こうなったら、手荒だが最終手段に出るしかない。


「(マストル!突っ込め!)」


 感性会話(ディレクト)を使う。上手くいくかは、これ次第だ。


「……え?今どこから……?」


「(いいから!次の合図をしたら、マキに向かって思いっきりだ!)」


 最終手段。それは、”殺したフリ作戦”だ。


 美音(みおん)の怒りがマキに向いている以上、これだけは絶対に覆せない。


 だから、ここでマストルにはマキを殺したフリをして貰い、マキにはマストルに殺されたフリをしてもらう。


 完璧とは程遠いが、これしか方法はない。


「(マキ!死んだフリをしてくれ!)」


「(……!歌絲(かいと)さんッスか……?)」


「(そうだ!理由は後で話すから、今からマストルが突っ込んでくる。それに合わせろ!)」


「(……え?でも、私手加減しきれないような気が……)」


 手加減?死んだフリに手加減とかあるのだろうか?いや、それはさて置きだ。


「(……とりあえず、やらないとマキが死刑になるんだ!大丈夫。これが上手く行けばマキは助かる!)」


「(……分かったッス。頑張ってみるッス)」


 マストルは理解出来ているか分からない。しかし、これだけは成功させる。


 合図のタイミングは、次、美音(みおん)が声を上げた瞬間だ。

読んでいただき、ありがとうございます。

作品が面白いと感じたら、ブックマーク登録、☆を5押していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ