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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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七十三話【暴走】

「待てやァァァァ!!」


「ん?……あぁ、思い出した」


 後方から突然聞こえた声の正体は、顔を真っ赤にしながらこちらに突っ込んでくる。


 そしてこの瞬間、先程まで抱えていた違和感の正体が明かされた。そう、忘れていた事とは、僕と共にマキに吹っ飛ばされたマストルの事だったのだ。


 つまり、目の前に見えるおぞましい気配で固められた塊の正体もマストルなのだろう。


「アルトぉ?黙って見てれば俺のことすら気にかけず帰ろうとしたな?一体全体どういうつもりだ!!」


「落ち着けって……僕だってマキのことで必死だったんだ。忘れてたことは謝るから、許してくr」


「あぁ!?そこまで言ってないはずだが、”忘れてた”だと?許せねぇ……!」


 しまった。つい思ったことをそのまま口にしてしまった。忘れていたなんて言ってしまったら、怒るのは当然だ。現に激怒している訳だし。


 自らのミスが原因だが、面倒なことになったものだ。しかし、ここで道草を食っている訳にも行かないので、全力をマストルを振り切るしかないだろう。


「ごめん、マストル!謝罪は後ほどやるから一旦許してくれ。それじゃ!」


「あ、ちょ!待ちやがれ馬鹿やろぉぉおお!」


 簡易謝罪をその場に言い捨て、家に向け再スタートを切った。失礼すぎる僕の態度にマストルは呆気を取られていたが、すぐに正気を取り戻し、僕の後を追ってきた。


 ここまでは計算通りなのだが、マストルから感じるあの殺気だけは計算外だ。捕まったら骨三本くらいは持っていかれるだろう。


「ゴラァ!あんな簡単な謝罪で良くもまぁ逃げられたもんだなぁ、アルト!!」


「いや、ホントにごめん!後でじっくり謝るって言ってるじゃん!!」


「ダメだぁ!今ここでしろぉ!」


「時間ないんだってば!」


「知るかぁ!」


 この状態になったら、もう手は付けられない。もう後ろも向きたくない。向いたらその威圧だけで殺されそうだ。


 折角森から脱出できたのに、この有様ではため息をつく暇すらないのだ。あまりにも運命とは残酷だ。


 というか、今回の件に関しては、僕はあまり悪くないような気もする。


 しかし、そんなことを嘆いたところでマストルを止める策にはならない。


 迫り来る恐怖と止まる思考に僕の心は保ちそうにない。このまま捕まって謝ろうと思った……その時だ。


「う……ん?眩しいッス……ここはどこっス……か!?」


「お、おはようマキ」


 抱き抱えていたマキが目を覚ました。


「ちょっ!か、歌絲さん!?なんで……私は歌絲さんに抱かれているんスかね?」


 どうやら覚えていないらしい。僕も理由は不明だが、いきなりその場に倒れたのはマキ自身なのだから。説明のしようがない。


 しかし、依然として迫ってくるマストルを振り切りながらマキに説明をする余裕はない。


 この状況を打破するためには……はっ!


「マキ!起きて突然で悪いんだけど、後ろから走ってくるマストルを止めてくれないか?状況は後で説明するから」


 これだっ!というかこれしかない。暴走したマストルを止められる力量を持ちつつ、僕の言うことを聞いてくれる人。


 そう、マキだ。


「ふ、ふぇ?マストルさん……ですか?よく分からないんスけど……」


「ごめん!ほんとうにごめん!後で言うことなんでも聞くから!お願いします!」


「ええっ、いいんスか!?男に二言なしッスよ!」


 よし計算通り。ここまで詰めれば断ることはないだろう。修行時代も、こうやってズルを繰り返してきたが、こんな場面でも使えるのだと関心してしまった。


「よーし!じゃ、一旦降ります」


「あ、一つ言い忘れてた。殺さないでね?」


「はいっ!もちろんッス」


 都合が良いとは言ったが、そう物事はよく進まない。マキの欠点、それこそ、圧倒的すぎるパワー。


 いや、これはいい点なのだが、時にそれは凶器と化す。拳一つで一般人数百人が木っ端微塵の肉片と化す。考えるだけで恐ろしい。


 暴走しているマストルなら受けきれると信じたが、よくよく考えると無理かもしれない。


「アールートー!!!」


 音程無で言葉を発するマストルは、僕の腕から放たれる存在をまだ知らない。


「頼んだぞっ!」


 マキの合図に合わせ、その体を宙に振り上げる。


 振り上げられた体は素早く五回転し地に着陸、ノーモーションでマストルの顎に襲いかかる。


「落ち着いてくださいッスぅうう!!」


 ゴシャッ……


 衝撃波と、それによって骨が砕ける音だけが周囲に響き渡った。

読んでいただき、ありがとうございます。

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