七十二話【絶望の距離】
投稿時間を大幅に通り越してしまったこと、非常に反省しております。申し訳ございませんでした。明日からは計画的に、時間に間に合わせるよう書きますので、どうかこれからも拝読よろしくお願いいたします。
結界内に足を踏み入れ、生きていることを実感する。
「ここまで長かった……ほんとうに生きてるんだよね……?」
感覚を隅々まで感じ、大きく深呼吸する。
とりあえず帰還を急ぐため、感動にふけるのは異形質を発動して走りながらにしよう。
(まだ全開は無理だけど……多少の出力なら……)
発動の意を示すと、黒い紋章が各部位を包み込む。ふと足を見たが、玄武型と戦った時の紋章と少し違う気がした。
今だからどうでもいいと思えたが、僕の不明な異形質が更に不明になったのだ。無視していい問題ではない。
(道は……全く分からない。分岐多いなぁ……)
結界外もそうだったが、森は分岐が非常に多い。ヤケクソで進んだら絶対迷子になる。
それは過去に体験した事があるので、今はそれを警戒して知り合いの存在感を辿るようにしている。
(家にいるのはメイ様くらいか……まぁメイ様なら何とか感じ取れるはずだ……)
目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。王国全域に渡るほどの範囲を持つ存在感感知は実用性抜群だ。戦闘にも使えるし、人探しにも使える。
修行時代にも僕を助けてくれた優れ機能だ。どこで手に入れたのかは未だに謎だが。
思えば、ここであった事は結界内の世界では考えられない事だった。
(うん……近くではないな。範囲を拡大してみるか……)
ここに来る時、エネットは空間転移を使っていた。普段なら徒歩移動のエネットだが、それでも空間転移を使っていた。ということは、間違えなく近距離から中距離はない。
エネットの距離感はいまいち掴めないが、1000kmはゆうに超えているはずだ。
(拡大……拡大……かくだ……あった)
十回ほどの拡大を得て、ようやくその存在感を感知した。誰のものかは分からないが、その存在感の感覚を探るからに、エネット宅である事は確実だろう。
(そこからここまでの距離は……ええっと?)
辿った存在感を元に、そこまでの距離を感知した。それによって導き出された距離は……
(え?いやいや、さすがに有り得ないでしょ。だって、拡大を十回使っただけだよ?さすがに……ねぇ?)
その距離、およそ20000km。
想像の約20倍。
「待ってくれ。いや待つ必要は無いけど……2000km……だって?」
思わず声が出てしまった。いや、この状況に陥った場合で声を出さずにいられるだろうか?無理だ。
ふと見上げた空には朝日が昇っている。という事は、朝がやってくるのだ。
朝が来るまでに家に帰らなければ、美音やメイ様を心配させてしまうに違いない。
思い出すと涙が出てくる。あの家を出て、しばらく美音の顔を見ていない。修行時代は死ぬほど我慢していたが、この王宮に来てから、密か美音のあとを追っていたのは秘密だ。
(いやそうじゃなくて!早く帰らないと色々まずい……予定が狂う!)
本題はエネットを探し出して王宮に連れてくることなので、ここで無駄な時間を過ごしている暇はない。
確かにエネットはいないが、マキがどうにかしてくれるだろう。
(まずい……思考が死んできてる……早く家に帰らなければ……!)
悩んでいてもしょうがない。今はマキを王宮に連れていくことが最優先だ。
紋章は既に足を包み込んでいる。準備は万端だ。
「頼むよ……目標は四時間。それ以上は絶対に許されない……!」
見る限り夜明けまで一時間はきっている。美音の起床は七時。二時間オーバーするが、さすがに二時間で20000kmを走る力量は残っていないし、そもそもそんな速く走れない。
マキなら半分以内の時間で完走するだろうが、マキは規格外すぎるので比較してはいけない(比較したのは自分だけど)。
気を取り直し、地に足をつけ踏み込む。体力は先程の世界剣……いや、マキの力で完全回復している。
(最後まで保つ?いや、保たせるんだ!)
ここに来て弱音なんて吐いてられない。全力なんてこの足で超えてやる。異形質だって、この経験で少しくらいは強くなってるはずだ。
とにかく、ここで止まる訳には行かないんだ。
(3……2……1……スタートっ!)
踏み込んだ足で思いっきり地面を蹴る。と共に、後ろから声が聞こえた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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